特別縁故者の遺産相続は「単純承認による相続」とは異なる
特別縁故者が財産分与を受けた場合、遺贈により遺産相続したものとみなされます。
もちろん相続税の課税対象となり、相続税の申告なども必要となってきます。
ただ、特別縁故者の「相続税の計算方法」や「相続税の申告期限」などは、単純承認による相続とは異なってきます。

単純承認した場合の相続とは異なる
特別縁故者とは
被相続人に配偶者や子供がいないなど、一人も相続人がいないケースがあります。
このような相続人が一人もいない場合にのみ、特別縁故者が家庭裁判所に申し立てることにより、家庭裁判所が特別縁故者に「相続財産の全部または一部」を与えることができます。
この特別縁故者とは、
- 被相続人の療養看護に努めた者
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
とされています。
具体的な例としては「内縁の妻」などが、特別縁故者に該当すると考えられます。
また、個人以外にも「被相続人が入所していた老人ホーム」などが、過去に特別縁故者として認められています。
家庭裁判所への申し立て方法は、裁判所HPの特別縁故者に対する相続財産分与
に記載されています。
ちなみに現在では、被相続人が生存していた時には「存在していなかった者」も、特別縁故の請求をすることが可能と考えられています。
例えば、被相続人の死亡後に、被相続人の面倒を見ていた方に子供が生まれた場合、その子供が特別縁故の請求をすることが出来る、という判例があります。
また、被相続人の葬儀を執り行った者や、死後に遺産を管理していた者など、被相続人の死後に生じた、縁故関係も認められる場合があります。
特別縁故者の場合、財産分与が確定した時点の相続税評価額で計算
特別縁故者が財産分与を受けた場合、その財産は【遺贈により取得】したものとみなされます。
(遺贈についての詳しい内容は遺贈とは遺言で「財産を特定の人」に相続させることに記載)
そして、相続税が課税されることになります。
通常の相続であれば、財産の相続税評価額は、被相続人の死亡日の評価額で計算します。
ただ、特別縁故者の場合は、被相続人の死亡日の評価額ではなく、財産分与を受けた時の価額となります。
例えば、
- 被相続人の死亡日の不動産の評価額が3千5百万円
- 財産分与を受けた時の不動産の評価額が3千2百万円
の場合、特別縁故者の相続税を計算する際には、3千2百万円の不動産として計算します。
また、特別縁故者の相続税の申告期限は、財産分与があったことを知った日の翌日から10か月以内となります。
ただし、注意点があります。
それは、相続税の計算の適用法令は、あくまでも「被相続人の死亡日の法令」ということです。
例えば、被相続人の死亡日の法令では、相続税の基礎控除額が
「3千万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」
だとします。
その後に法改正があり、特別縁故者が財産分与を受けた時の相続税の基礎控除額が
「1千万円 + (500万円 × 法定相続人の数)」
に改正されていたとします。
しかし、特別縁故者の相続税を計算する際には、基礎控除額を
「3千万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」
として計算します。
ちなみに、特別縁故者の基礎控除額は3千万円となります。
(法定相続人の数を0として計算します。)
ただ、相続人全員が相続放棄して、相続人が不在となった場合には、その放棄がなかったものとして、法定相続人の数をカウントし、基礎控除額を計算します。
特別縁故者が遺産相続することにより相続税が発生?
被相続人Aには、法定相続人がいなかった。
ただ、Aさんは遺言で、Bさんに2千万円の現預金を遺産相続させた。
Bさんは、(基礎控除額以下であり)相続税が発生しなかったので、相続税の申告をしていなかった。
ただ、Aさんには内縁の妻Cがいて、しばらくしてから、その方が1億円の財産分与を受けた。
このような場合、相続税の課税価格は1億3千万円となり、基礎控除額をオーバーすることになります。
また、内縁関係者には「相続税の配偶者控除」の適用はありません。
(相続税の配偶者控除についての詳しい内容は、相続税の配偶者控除で1億6千万円か法定相続分まで無税に記載)
こうなると、Aさんにも相続税が発生します。
このように特別縁故者への財産分与により、相続税が発生する場合があります。
ちなみに、特別縁故者が相続債務や葬式費用を負担している場合には、分与された財産の価額から、その負担した価額を控除することが出来ます。
特別縁故者に遺産相続させたいなら「遺言や家族信託」を検討しよう
家庭裁判所は、特別縁故者からの申立てにより、特別縁故者の【種類・職業・財産状況・縁故の濃度・その他一切の事情】を考慮して、被相続人の遺産を【分与するべきか・どの程度分与するべきか】等を決定します。
なので、特別縁故者が家庭裁判所へ申し立てをしたからといって「遺産を分与してもらえる」とは限りません。
また、分与されるとしても「どのくらいの遺産の分与になるのか」も分かりません。
また、手続きも複雑で、費用も数十万以上かかることもザラです。
また、通常、申し立てから1年以上の時間がかかります。
費用も時間もかけて「財産分与なし」ということもあります。
よって、相続人ではないけれど、遺産相続させたい相手がいる場合には、遺言で遺産相続させるようにしましょう。
そして、以下のようなケースの場合には、家族信託の利用も考えましょう。
- 私の子供が「障がい者A」である
- そして、Aの面倒を見てくれる「Bさん」
- 私の死亡後には、財産はAのために使いたい
- ただ、Aの死亡後には、私の財産を「Bさん」へ遺産相続させたい
上述のことは、家族信託を利用すれば可能です。
家族信託についての詳しい内容は、家族信託は相続対策の最前線に記載しています。
このように、特別縁故者が家庭裁判所へ申し立てることを期待せず、遺言や家族信託の利用を検討しましょう。
動画で解説
特別縁故者にあたる人や、特別縁故者が遺産を取得した場合の計算方法などについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
特別縁故者とは、生前の被相続人の療養看護に努めた人、被相続人と生計を同じくしていた人など、被相続人と特別のご縁があった方をいいます。
典型的な例は、内縁の夫や妻です。
また、個人ではなく、たとえば被相続人が入所していた老人ホームが特別縁故者になれる場合もあります。
もし、被相続人に配偶者や子供がいないなど、一人も相続人がいなければ、特別縁故者が遺産をもらえる場合があります。
特別縁故者が遺産をもらうには、家庭裁判所に申し立てて、財産の分与を受けることになります。
ただし、必ずしも財産の分与を受けられるとは限りません。
また、一部だけの財産の分与になる場合もございます。
ちなみに、被相続人の存命中に存在していなかった人でも、特別縁故者として財産の分与を請求できると考えられています。
たとえば、被相続人の面倒を見ていた方に子供が生まれた場合、その子供が特別縁故者になれる可能性もあるということです。
ほかにも、葬儀を行った人や死後に遺産を管理していた人など、死後に生じたご縁でも認められる場合があります。
それでは、特別縁故者が遺産を受け取った場合、相続税はどうなるのでしょうか。
税法上、特別縁故者が遺産を受け取ったときは、被相続人から遺贈を受けたものとして扱われます。
遺贈とは、被相続人の遺言によって遺産を取得することです。
遺言がなくても、税法上はそのように扱うことで、相続したときと同じ様に相続税を課税するルールになっています。
しかし、通常の相続税とは異なる点も多いです。
まず、通常、相続した財産の評価額は被相続人の死亡日を基準に計算します。
これに対し特別縁故者は、財産分与があったときを基準に評価額を計算します。
たとえば、不動産の評価額が被相続人の死亡日なら3,500万円、財産分与を受けたときなら3,200万円というとき、特別縁故者は3,200万円で相続税を計算するということです。
それから相続税の申告期限も、通常は死亡日の翌日から10ヶ月以内ですが、特別縁故者は財産分与があったことを知った日の翌日から10か月以内となります。
また、相続税の基礎控除額は3,000万円となります。
通常はこれに法定相続人の人数×600万円が上乗せされますが、相続人がいませんので3,000万円となります。
ただし、相続放棄によって相続人が1人もいなくなった場合は例外です。
この場合、相続放棄がなかったものとして基礎控除額を計算することになります。
それから特別縁故者に財産が分与されることで、別の人に相続税が発生するケースもあります。
これについては、具体例でご説明を致します。
まず、相続人のいないAさんが亡くなり、遺言書でBさんに現金3,000万円を遺贈したとします。
Bさんは遺産が基礎控除額以下なので、相続税の申告はしませんでした。
ところがその後、Aさんの特別縁故者であるCさんが1億円の財産分与を受けたとします。
そうすると、相続税の対象になる財産は、1億3,000万円になりますので、基礎控除を差し引いた1億円に対してかかる相続税をBさんとCさんは負担しなければなりません。
このように特別縁故者に財産が分与されると、先に遺贈で財産を受け取っていた人に相続税が発生することがあります。
最後になりましたが、特別縁故者は必ずしも財産の分与を受けられるわけではありません。
費用や時間をかけて手続きをしても、裁判所の判断次第では、財産を受け取れないことがあります。
もし、相続人ではないけれど遺産を相続してほしいという人がいるときは、遺言書を遺すようにしましょう。