最悪、名義変更が出来なくなる
不動産の登記や銀行の預金口座などは、相続して持ち主が変わったからといって、勝手に変更されません。
法務局や金融機関は相続があったことも、まして誰が相続したか、という事情まで把握できません。
そのため相続した人が、それぞれの機関で名義変更の手続きを行う必要があります。
名義変更しないと面倒なことに・・
相続税対策は完璧。相続税も無事申告した。財産のモレもない。適正に申告しているから、税務調査も怖くない。
親が亡くなってから大変だった。これでやっと落ちついて生活できる。終わった・・。
相続税の申告を終える、もしくは納税まで済ませると、相続業務が終わった、と思う方も少なくありません。
しかし、まだ相続は終わっていません。財産の名義変更まで終えて【相続は完了】です。
遺産分割がまとまっていても、名義変更をしないままだと、被相続人の財産は各相続人の共有財産の状態です。そして、
- 遺産分割協議がまとまった
- 相続税の申告をした
- 相続税の納税をした
からと言って、被相続人の名義であった預金口座や不動産の名義が自動的に変更されることはありません。
その遺産を相続した方に名義変更する必要があります。
この名義変更をしないと、将来必要に迫られて、名義変更をしようとしても、相続人全員の印鑑(実印)が揃わない場合もあり得ます。
そうです。名義変更したくても出来ない可能性が生じるのです。
こういう事態にならないためにも、相続という一連の手続きの流れで、名義変更も一緒に済ませるべきです。
そして、名義変更には以下の3点のポイントがあり、財産の種類によっては、手続きが煩雑であったりして、簡単に出来るものでもありません。
- 変更手続の費用
- 変更手続をする人
- 財産の種類により変更手続が違う
名義変更手続は意外と大変な作業です。
詳しくは先代名義の不動産の相続はどうなるの?にも記述していますが、
- 相続人がすでに死亡しており、その亡くなった方の相続人の実印が必要になる
- 相続人が高齢や認知症で判断能力がなく、その方の家族でないと手続きが出来ない状況で、その方の家族の反対にあう
などの状況が発生する可能性も高まります。
そして、面倒だからと言って、名義変更しないままだと、相続人が増えるという事態にもなってきます。
名義変更モレのNo.1は不動産
相続で名義変更手続きをしないケースで「一番多いのは不動産」です。また、不動産を相続したら、なぜか名義が先代名義になっていた。
このようなケースも少なくありません。これには以下のような理由があります。
- 司法書士に登記を依頼するのが面倒
- 名義変更をしなくても、当面支障がない
- 不動産の名義変更手続きには登記費用がかかる
などの理由により、特に不動産は名義変更が先延ばしになりやすいからです。
ただ、司法書士に依頼するにも、委任状などに相続人の実印が必要だったりします。
昔は家督相続で、相続人全員の実印は必要ではありませんでした。しかし、今は各人が相続権を持っています。
名義変更手続きや名義変更手続きの代行を依頼する際にも、この相続権を持っている方、いわゆる相続人の方の実印が何かと必要になってきます。
相続税対策も重要ですが、相続手続きも重要です。名義変更手続きを放置したままにすると、後のトラブルの元にもなりかねません。
しっかり名義変更までするようにしましょう。
相続による不動産の所有権移転登記は本人で出来る
相続登記は本人(相続人)で出来ます。
相続登記に必要な書類は、被相続人や相続人の事情によって異なりますが、概ね以下のようなになります。
- 登記申請書
- 相続関係説明図
- 遺言書(遺言によって相続した場合)
- 住民票の写し(不動産を相続する全員分)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議によって相続した場合)
- 全部事項証明書(被相続人の死亡から出生までの全て、除籍謄本、相続人の現在の戸籍謄本)
必要書類は登記する法務局に相続の事情を話し、確認するのが確実です。
なお、財産を登記するための費用は、債務控除できません。
よって、登記をしたからといって、相続税が安くなる、といったことはありません。
相続による不動産登記は2種類ある
登記をすると第三者登記に対して自分のものであることを証明できます。対抗要件などとも言われます。
ただ、相続した不動産の対抗要件として、登記は必要ありません。
相続した不動産を登記していないからといって、その不動産を相続していない、ということにはなりません。
このような理由や、不動産登記には費用がかかることから、被相続人(故人)の名義のまま放置してある場合が多々あります。
では、不動産の移転登記をしなくても問題はないのか?相続税対策だけきっちりやっておけば良いのか?
実は相続による不動産登記には2種類あります。
「一つは遺産分割以前の相続登記」です。これは各不動産についての相続分に応じた共有登記となります。
もう一つは、「遺産分割がまとまった後の各相続人がする登記」です。
遺産分割以前の相続登記をして放置したままにすると、問題が発生する可能性があります。
というのも、遺産分割の効力は相続開始の時に遡りますが、第三者の権利を侵害することはできません。
どういうことかと言いますと、遺産分割以前の相続登記の状態で放置したまま、共有者が自身の共有持分のみを売却した場合、それを他の共有者が取消しさせることなどが出来ないからです。
共有名義の不動産の売却には、共有者全員の同意が必要です。ただ、自身の共有持分のみの売却には、共有者全員の同意は必要ありません。
遺産分割協議において、Aさんが相続する不動産と決まったものを、移転登記をしていない状態で、相続人Bさんが「共有持分を譲渡する恐れ」があるということです。
なので遺産分割後には、すみかやに移転登記をしましょう。
動画で解説
相続した財産の名義変更をしないと大変なことになる、ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
財産を相続すれば、法律の上では、その財産は相続した人のものとなります。
しかし、不動産の登記や銀行の預金口座などは、相続して持ち主が変わったからといって、勝手に変更されるわけではありません。
法務局や金融機関は、相続があったことも、まして、誰が相続したかという事情まで把握できません。
そのため、相続した人が、それぞれの機関で手続きを行う必要があるのです。
ただ、財産を相続しても、その財産をすぐにどうにかしたい、という事情がなければ、放っておいても、あまり支障はありません。
そのため、すぐに手続きをせずに放っておき、必要になったときに手続きを行おうとする方もいらっしゃいます。
ところが、いざ持ち主の変更が必要となって、手続きに必要なものを揃えようとしたときに問題が発生します。
手続きには、相続人全員の実印などが必要になってくるからです。
相続財産は、相続が発生すると、いったんは相続人全員の共有物のような扱いになります。
その後、遺産分割協議によって相続人になった人が、自分の名義にしようとしたとき、相続人全員が同意していることがわかるよう、相続人全員が実印を押した書類などが必要になってくるのです。
もし時間が経ってから、相続人全員の実印や関係書類を作成しようとすると大変です。
中には、亡くなってしまっている人もいるかも知れません。
そうなると、手続きはさらに複雑化します。
そして、不動産の場合には、さらに注意点があります。
それは遺産分割前に、相続人の共有名義で登記をしたときです。
もし、遺産分割が長引きそうな場合に、いったん相続人の共有名義として、登記を済ませておく、ということがあります。
ところがその後、最終的に相続した人が、自分名義に変更するための手続きを放ったらかしにしてしまうと、共有名義で登記した別の相続人が、自分の持ち分だけ他の人に売ってしまう、ということがあるのです。
いくら相続した人が文句を言っても、すでに買い取ってしまった、第三者の権利まで奪うことはできません。
このようなトラブルにならないためにも、相続財産の名義変更は、相続の一部だと考えて、なるべく早く行って下さい。