節税破産を防ぐ
相続税の節税には成功したが、節税するために借金を抱えすぎて返済できなくなり、実質的に破産状態に陥ることがあります。

借金によって相続税の節税をした結果、その後の生活が借金苦に!
当事務所の相続税対策という言葉の意味は、相続税対策=節税対策ではありません。
相続後の生活設計も踏まて相続税対策は考えなくてはなりません。
特に金融機関からの融資で賃貸物件を建てて事業を行い、資産が不動産に偏っている場合には節税破産の可能性が高まります。

節税のやりすぎは破産への道?
預貯金を不動産に換える節税方法は確かに有効ですが
預貯金を不動産に換えて不動産事業を営むという方法は、確かに節税効果から考えると有効な手法です。
一般的に預貯金を不動産に変換すると、資産の評価額を下げることが可能になるからです。
相続税では不動産の価額は路線価または固定資産税評価額で換算されます。
通常、路線価は公示価格の約8割、固定資産税評価額は公示価格の約7割の価格となります。
簡単に言いますと、キャッシュ1億円で1億円の更地を購入した場合、【相続では7,000万〜8,000万円の価値として評価】されることになります。
同じ1億円でもキャッシュから不動産に換えておけば、節税になるというのはこういう理由からです。
建物の場合も同様で、建物の相続税評価額は固定資産税評価額を1.0倍した額、つまり、固定資産税評価額と同じです。
上述のように固定資産税評価額は公示価格の約7割(=おおむね時価の7割程度)になるため、土地購入と同じように節税効果があります。
(固定資産税評価額は家屋の基礎の構造、各部分の素材や設備に応じて決められ、いわば建造物の各コストを積み上げて計算していくかたちですが、これがおおむね時価の7割程度になるからです。)
相続税と借金、どちらが良いですか?
相続税は100%の税率ではないので、1回の相続で財産の全てがなくなるということは基本的にはあまりありません。
(資産が不動産だけで納税資金の用意のために、すべての不動産がなくなるということはありえます。)

相続税の税金はいくらかかるのか?確かに不安ですよね。
では、借金はどうでしょうか?
借金はたとえすべての資産を失ったとしても支払い義務があります。

税金より借金のほうが恐ろしい?
相続税対策を考えるときには、税金よりも借金の方が恐ろしい存在であるということを認識する必要があります。
日本の相続税率は高い
日本の相続税の【最高税率は55%】です。
確かに他の主要国と比較しても最も高い税率です。
しかも基礎控除額も少ない方です。
ただ、この相続税の高さは、世界と比較して日本が比較的格差の少ない社会になっている理由の一つにはなっています。

日本の相続税の最高税率は55%で、主要国と比較した場合一番高い
この相続税率の高さにより、いかに相続税を安くするかということに、どうしても相続人の頭がいってしまう原因になっているかもしれません。
ただ、相続税の申告を長年してきて感じることでもあるのですが、実は財産をしっかり残している人の中には、【節税対策をまったくしていない方】も少なくありません。
逆に、とにかく節税・節税と、過度に節税対策をした人の中には、相続後に生活が苦しくなっている方も少なくありません。
いわゆる節税破産ですね。
確かに相続税の最高税率は55%で世界的に見ても高い税率です。
でも、ちょっと冷静に考えてみましょう。
例えば、資産5,000万円で税率が20%の場合、税金が1,000万円で残る資産は4,000万。
これを節税するために、借金1億円をして、不動産賃貸用のマンションを1億5千万円で購入。
マンションの評価額を購入価格の約7割とした場合、1億500万円。そうすれば、資産が1億500万円で借金が1億円。
差し引きの資産は500万円。
この場合の相続税は50万(500万の場合、税率は10%)。
節税効果としては950万円(1,000万円-50万)
節税対策を何もしない場合、手元に残る純資産は4,000万円。
対策をした場合は1億円の借金をし、手元に残る純資産は500万円。
もしもその後に不動産賃貸の経営がうまくいかなかったら・・。
そもそも950万円を節税するために、1億円の借金をしたいですか?
ついつい忘れがちですが、20%を相続税で取られても80%は残るわけです。
その場合には基本的には、節税破産のリスクはないです。
そして、実際に最高税率の55%がかかるというのは、よほどの資産家でもない限り、ほとんどありません。
さらに言えば、仮に55%の税金がかかったとしても約半分の財産は残るわけです。
でも借金は話が違います。
借金は資産をすべて持っていかれる可能性があります。
税金と借金、どちらが本当に恐ろしいのか。
節税のための安易な借金は禁物です。

節税破産の引き金になりやすい借金。気を付けましょう。
相続する側の借金は何の意味もありません
借金が相続税対策になる。
注意して頂きたいのですが、この借金は被相続人の借金でないと意味がありません。
例えば、古いを家を壊して、子供がお金を借りて新しい家を建てた。
これは相続税対策になるのか?と言われれば「何の意味もありません。」
そもそも新しい家が子供名義であれば相続財産になりませんし、子供の借金は債務控除として相続財産から控除出来ません。
相続する側が借金をしても、相続税対策には一切なりませんので注意してください。
動画で解説
相続税の節税対策のやりすぎには注意、ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
日本の相続税率は撮影している時点では最大で55%です。
主要国と比較すると一番高い税率となります。
こうしたイメージのせいか、相続対策といえば節税に重点を置かれる方がとても多いです。
中には、ほんの少しの税金を安くするために、比較にならないほど高額な借金をしてしまう方もいらっしゃいます。
ちなみに、なぜ節税のために借金をすることがあるのかというと、債務控除という制度があるからです。
債務控除とは亡くなった方の借金を引き継いだ場合、相続した財産からその借金額を控除できます。
ただ相続税の節税としては、実は借金をしただけでは何の意味もありません。
借金をした分、キャッシュが増えるからです。
そこで相続税の節税対策として、この増えた借金を不動産に替えるということをします。
皆さんは不動産投資として賃貸用不動産を購入すると、相続税対策になるという話を聞いたことはないでしょうか?
これは不動産の相続税評価額が購入価額の7,8割となることが多く、取引価格よりも安い金額で相続できることにあります。
たとえば1億円の現金で1億円の賃貸用不動産を購入した場合、相続税評価額は7,000万~8,000万というところです。
つまり現金のまま相続するよりも、不動産を購入した方が相続税は安くなります。
さらに不動産の購入のために借金をした場合、その借金は債務控除として不動産の相続税評価額から控除することができます。
もし1億円の借金と、もともと持っていた5,000万円の現金とで、1億5,000万円の賃貸用不動産を購入したとします。
この不動産の相続税評価額が7割の1億500万円だった場合、相続税の対象となるのは1億500万円から借金1億円を控除した500万円です。
何もせずに5,000万円の現金をもっていれば、5,000万円が相続税の対象になりますが、1億円の借金をして1億5,000万円の不動産を購入したことにより、相続税の対象となるのが500万円になったということです。
この部分だけ聞くと、とてもよい相続対策のように聞こえます。
しかし問題は節税のために1億円の借金を作ってしまったことです。
もし、その後の賃貸経営がうまくいかなければ、相続前に破産してしまう可能性があります。
破産するくらいなら何もせず5,000万円を相続して、税金を払う方が遺族にとって安心できたはずです。
また、さきほど日本の相続税率は最大で55%とお話を致しましたが、日本の相続税率は金額が高い価格帯ほど税率が上がっていく仕組みで、55%の税率がかかるのは撮影している時点では6億円を超える価格帯の話です。
通常5,000万円の相続であれば、撮影している時点では多くても約2割ほどの税負担で済みます。
1,000万円ほどの納税で済んだ話が、1億円の借金を返すために破産してしまっては本末転倒です。
しかしながら節税だけを追求して相続対策を考えると、こうした相続破産に陥る可能性があります。
相続対策は節税対策が全てではありません。
あくまで遺族の生活を守るために行うものであることを忘れずに、それぞれの事情にあった対策を考える必要があります。