物納制度の利用は簡単ではない

物納制度は相続税の支払いを、名前の通り【物で支払う】という制度です。

ただし、誰でもこの制度を利用できるわけではありません。

物納制度は非常に複雑です。

正確に言うと、昔に比べて物納制度は厳格化されました。

現在では、気軽に物納は出来ません。

例えば、現金は豊富にあるが、誰も相続したがらない土地があるので、それを物納しよう。

物納して断捨離しよう。

断捨離
断捨離
物納で断捨離?

こういうことは出来ません。

物納を申請すると、「税務署は念入りに調査する」とも言われています。

  1. 本当に納税する現金がない
  2. 延納できる見込みもない

場合のみにしか、物納は認められない、と考えておいたほうが賢明です。

もしも、物納制度をご検討されている場合には、必ず専門家と相談しましょう。

物納制度
物納制度
物納制度を利用したい時には、必ず専門家と相談する

そして、この物納制度には、大きく分けて以下の論点があります。

  1. 物納に充てることができる財産
  2. 物納手続
  3. 物納財産の収納価額等
  4. 申請却下に係る延納
  5. 申請却下に係る再申請
  6. 物納の撤回
  7. 物納等に係る利子税
  8. 物納の許可限度額

今回は、物納制度について、解説しています。

物納に充てることができる財産

物納に充てることができる財産は、相続税額の課税価格の計算の基礎となった財産(相続財産によって取得した財産を含み、相続時精算課税適用財産を除きます。)で法施行地にあるもので、物納に充てることができる「財産の順位と範囲」が平成29年度税制改正により以下のようになっています。

関連記事へのアイコン関連記事

相続時精算課税制度とは

【第一順位】

  1. 国債、地方債、不動産、船舶、上場株式等
  2. 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

【第二順位】

  1. 非上場株式等
  2. 非上場株式等のうち物納劣後財産に該当するもの

【第三順位】

  1. 動産

順位?どういう意味ですか?というご質問よく聞かれます。

例えば、非上場株式と不動産を持っていた時に、非上場株式だけを物納するということが出来ないということです。

不動産のほうが順位が上なので、不動産を先に物納しないといけません。

不動産を物納した上で、非上場株式を物納するということです。

※特定登録美術品は、上記の順位に関わらず、物納に充てることができます。

特定登録美術品とは、「美術品の美術館における公開の促進に関する法律」に定める登録美術品のうち、相続開始時においてすでに同法の登録を受けているものをいいます。

関連記事へのアイコン関連記事

美術品や骨董品等の相続評価

また物納劣後財産とは、物納財産ではあるが他の財産に対して、順位が後れるものを指します。

例としては、以下のものが挙げられます。

  • 地上権等が設定されている土地
  • 法令の規定に違反して建築された建物及びその敷地
  • 事業の休止(一時的な休止を除く。)をしている法人に係る株式

物納手続

(1)申請手続

物納の許可を申請しようとする場合は、納付すべき相続税額の納期限までに、又は納付すべき日に、物納申請書に以下のような物納手続関係書類を添付して提出する必要があります。

  1. 物納財産目録
  2. 金銭納付を困難とする理由書
  3. 2の内容を説明する資料の写しなど
  4. 物納手続関係書類が提出できない場は、物納手続関係書類提出期限延長届出書
  5. 物納申請財産が物納劣後財産の場合は、物納劣後財産等を物納に充てる理由書

これらの書類を納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに、税務署長に提出する必要があります。

提出
提出
物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出する必要があります。

申請者が納期限又は納付すべき日までに物納手続関係書類を準備することができない場合には、「物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出する」ことにより、物納手続関係書類の提出期限を最長で1年延長することができます。

ただし、1度の届出で延長できるのは3ヶ月までです。

また、届出書の提出により延長した期間については、利子税がかかります。

(2)許可又は却下

税務署長は、物納申請書が提出された場合には、申請者及び申請事項について物納要件に該当するか否かの調査を行い、「物納申請期限の翌日から起算して3月(物納財産が多数あることにより調査に3月を超える場合は6月、積雪等により調査に6月を超える場合は9月)」以内に許可又は却下をします。

却下
却下
却下されることもあります。

なお、申請者が審査期間中に物納申請を取り下げることも可能ですが、その際は【延滞税がかかる】ことになります。

(3)条件付許可

税務署長は、物納について条件付の許可をする場合には、その許可に必要な条件を記載した書面を申請者に通知します。

物納財産の収納価額等

(1)物納財産の収納価額

物納財産の収納価額は、原則として【課税価格計算の基礎となったその財産の価額】によります。

ただし、税務署長は、その収納の時までにその財産の状況に著しい変化が生じたときは、収納の時の現況によりその財産の収納価額を定めることができます。

ここでいう著しい変化とは、土地の地目変換があった場合、荒野となった場合等をいいます。

とは言ってもほとんどの場合、物納財産の収納価額は相続税評価額となります。

関連記事へのアイコン関連記事

相続税の対象になる財産やその評価方法

そうなると、財産を譲渡して所得税を納付したほうが有利な場合もあります。

ただし売却には、

  1. 譲渡所得税
  2. 住民税
  3. 売却に伴う諸費用

がかかります。

これらも考慮して財産売却による納税資金の確保も検討しましょう。

関連記事へのアイコン関連記事

相続開始前に土地を売却するのも一つの手

(2)物納財産の納付時期

物納の許可を受けた相続税額については、物納財産の引渡し、所有権移転の登記を完了した時に納付があったものとされます。

申請却下に係る延納

物納申請が却下された場合には、その却下の日の翌日から起算して「20日以内」に、その却下に係る相続税額のうち金銭で一時に納付することを困難とする金額として一定の額を限度として、「延納申請を行う」ことができます。

関連記事へのアイコン関連記事

相続税の延納

申請却下に係る再申請

申請者が物納申請した財産が管理処分不適格財産(注)に該当すると判断された場合には、その申請は却下されます。

この場合、その却下の日の翌日から起算して20日以内にその却下をされた財産に代え、「他の財産による物納申請」を行うことができます。

ただし、再申請は1回限りです。

なお、納期限又は納付すべき日の翌日から再申請の日までの期間は、利子税がかかります。

(注)管理処分不適格財産とは、物納に充てることができない財産で管理又は処分することができないものをいい、以下のものが挙げられます。

  • 担保権が設定されていることその他これに準ずる事情がある不動産
  • 権利の帰属について争いがある不動産及び株式

物納の撤回

(1)概要

賃借権等の目的となっている不動産(貸家、貸家建付地など)がある場合において、物納の許可を受けた者が、その後に物納に係る相続税を金銭で一時に納付、又は延納の許可を受けて納付することができるようになったときは、物納の許可を受けた日の翌日から起算して1年以内に申請することによって、その不動産については、【物納を撤回】することができます。

ただし、その不動産が換価されていたとき、又は公用若しくは公共の用に供されており若しくは供されることが確実であると見込まれるときは、物納を撤回することはできません。

なお、物納の撤回の承認を受けた場合には、その撤回に係る相続税については、納期限又は納付すべき日の翌日から完納するまでの期間(一定の期間を除く。)に応じ、利子税がかかります。

(2)手続き

物納の撤回をしようとする場合は、「物納撤回承認申請書」又は「物納撤回承認申請兼延納申請書」を、その物納の許可を受けた日の翌日から起算して1年以内に税務署に提出する必要があります。

なお、物納の撤回により延納の許可を物納撤回承認申請受けようとする場合は、「物納撤回承認申請兼延納申請書」に「担保提供関係書類」を添付しなければなりません。

(3)納付

物納の撤回により納付すべき相続税額は、税務署長から納付すべき金額が通知されますので、その通知を発した日の翌日から起算して「1月以内に納付」しなければなりません。

納付しない場合は、「物納撤回承認申請」又は「物納撤回承認申請兼延納申請」は取り下げたものとみなされます。

物納等に係る利子税

物納に係る相続税額の納期限、又は納付すべき日の翌日から納付があったものされた日までの期間については、利子税がかかります。

ただし、「一定の期間(国が物納に係る審査を行う期間など)」は利子税がかかりません。

納付する利子税については、税務署長から物納財産収納済証書に利子税の納付書、及びその計算の内訳を同封して通知されますので、納付書が届きましたら速やかに納付することになります。

物納の許可限度額

物納許可限度額は相続税法基本通達にて明確化されています。

物納許可限度額は以下の式で計算します。

物納許可限度額=納付すべき相続税額-現金で即納することができる金額-延納によって納付することができる金額

この現金で即納することができる金額は、【相続した現金・預金等+相続人固有の現金・預金等-相続人とその親族の生活費×3カ月-事業継続に当面(1カ月)必要な運転資金等】になります。

金銭納付が困難なことは、資料などによって具体的に証明する必要があります。

特定物納制度について

延納の許可を受けた者が、その延納税額から納期限が到来している分納税額を控除した残額(以下「特定物納対象税額」といいます。)を変更された延納条件によっても金銭で納付することが困難である場合には、その特定物納対象税額のうち納付を困難とする金額として一定の額を限度として、延納から物納へ変更することができます。これを「特定物納制度」といいます。

なお、平成18年4月1日以後の相続開始により取得した財産に係る相続税が対象になります。特定物納に充てることができる財産については、【原則として物納制度と同様】です。

また、特定物納により納付するまでの期間については、当初の延納条件による「利子税」がかかります。

手続

特定物納の許可を受けようとする場合は、相続税の申告期限の翌日から起算して「10年を経過する日」までに、特定物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出する必要があります。

なお、特定物納申請が却下された場合には、延納中の状態に戻ります。

特定物納の収納価額

特定物納に係る財産の収納価額は、その「特定物納に係る申請の時の価額」によります。

ただし、税務署長は、その収納の時までにその財産の状況に著しい変化が生じたときは、収納の時の現況によりその財産の収納価額を定めることができます。

ここでいう著しい変化とは、土地の地目変換があった場合、荒野となった場合等をいいます。

物納が認められるための要件は非常にシビア

相続税の物納制度について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

相続税の物納制度

動画内容

相続税は、原則として、金銭で一括して納付しなければなりません。

納付の期限は、相続の開始があったことを、知った日の翌日から10ヶ月以内です。

しかし、この期限内にスムーズに納税できない場合があります。

たとえば、相続財産のほとんどが不動産の場合です。

高額な不動産であれば、納税額は数百万円にのぼることもあり、現金をほとんどもらっていない相続では、この税金を、自己資金から用意しなくてはなりません。

突然、何百万円もの税金をキャッシュで用意してください、というのは、酷な話です。

そこで、納税が難しい一定の相続については、相続税を分割払いする「延納」という方法と、相続した財産そのものを税務署に納めて納税する「物納」という方法があります。

今回のテーマは後者の「物納」です。

物納は、延納を利用しても、全額を納めることが難しい場合にしか検討することは許されません。

さらに、物納を行うためには物納申請を行い、税務署から許可を受けることが必要です。

税務署にいきなり物を持ち込んでも、職員さんは受け取ってくれませんので注意してください。

物納申請を行う期限については、原則は、相続税の申告期限となります。

期限後申告や修正申告を行う場合は、その申告日が期限です。

なお、延長の届出書を提出することで、申請期間(期限)を最長1年間延長することができます。

物納の要件は複雑で、申請には非常に手間がかかります。

まず物納に充てることができる財産は、相続税の対象となる財産に限られ、その中でも優先順位があります。

物納できる財産がいくつかある場合は、次の1から3の順位に従って、優先的に物納に充てなくてはなりません。

第1順位は国債、地方債、不動産、上場株式、船舶等の財産です。

第2順位は非上場株式

第3順位は動産となります。

優先順位があることによって、自分が要らない財産から物納に充ててしまおう、というような選び方ができないようになっています。

また、同じ順位の物でも、注意が必要な場合があります。

たとえば不動産のうち、地上権や賃借権などが設定されている土地などは、こうしたマイナス要素のない不動産を優先して物納に充てなくてはなりません。

さらに、抵当権がついている不動産などは、そもそも物納に充てることはできません。

このように物納には、優先順位が同じでも、優先的に物納できないもの、そもそも物納できないものがあります。

専門家でなければ、非常にわかりにくい区別だと感じます。

さて、物納した財産が、いくら分の納税としてみなしてもらえるのか?というと、それぞれの物納財産の収納価額によって決定します。

ほとんどは、相続税の計算を行うときに算定した相続税評価額となります。

ただし、物納ならではのルールとして、税務署に納めるときまでに、その財産に著しい変化があった場合は、その状況に合わせて評価額を変更しなければなりません。

物納では、相続の時ではなく、あくまで税務署に納めるときの価額(価値)が重視されます。

何を物納に充てるかを決めたら、ようやく税務署に物納申請を行うことができます。

物納申請は、申請期限内に物納申請書を提出して行います。

このとき、物納申請書には、物納財産目録や、金銭納付を困難とする理由書、金銭納付が困難であることを説明するための、一定の資料などを添付しなければなりません。

特に、金銭納付が困難というのは、現金で即座に納付できるお金がないことなどを証明する必要があります。

このことを証明するには、相続した現金がいくらか、自己資金がいくらか、そのうち、当面の生活費や事業のために、確保しておかなければならない資金はいくらか、ということがポイントとなってきます。

ところが、これだけ書類を準備して申請を行ったとしても、物納の許可が下りず、却下されることがあります。

物納が認められるための要件は、非常にシビアなのです。

ただし却下を受けた場合は、20日以内に、却下された部分の延納申請を行うか、その却下の理由が、選択した財産が不適格であるという場合は、他の財産を選んで再申請を行うことができます。

他の財産を選んで再申請ができるのは、1回だけです。

ここまでして、「ぜひ物納をしたい」という人は、おそらく、いらっしゃらないかと思います。

しかも、場合によっては、物納よりも財産を売却して、その売却収入から納税した方が得をすることもあります。

このときは、売却益にかかる譲渡所得税や住民税、売却にともなう諸費用などの負担を比較して検討することが大切です。

物納は、専門家の力なしでは難しい納税方法です。

必ず専門家に相談しましょう。