相続時精算課税制度は普通の贈与とは仕組みが異なる
相続時精算課税制度は、経済政策の一環として、上の世代(高齢者)の所有する財産を下の世代(子や孫)に移転させ、贈与を受けた子や孫がその財産を運用し、お金の循環を活性化させることを目的として、平成15年に創設されました。
なので、普通の贈与とは仕組みが異なります。
相続税対策として、相続時精算課税制度を理解することは重要です。
相続時精算課税制度をよく理解しないまま、選択適用してしまった。
そもそも相続時精算課税制度の存在自体を知らなかったため、有効な相続税対策が出来なかった。
こんなことにならないようにしましょう。

相続時精算課税制度を理解することは相続税対策となります。
相続時精算課税制度の仕組み
相続時精算課税制度により贈与を受けた財産については、2,500万円まで贈与税はかかりません。
2,500万円を超える部分の金額に対して贈与税がかかります。
その後、贈与者が亡くなったときの相続税の計算上、生前に贈与を受けた財産の合計額は、「相続時精算課税適用財産」として相続税の課税価格に贈与時の価額で加算されます。
また、相続又は遺贈により財産を取得しなかった場合であっても、被相続人から相続時精算課税に係る財産の贈与を受けていたときは、相続税の課税価格に加算されることになります。
そして相続税の計算において、既に支払っている贈与税額を相続税額から控除し、控除しきれない金額は還付されます。
つまり、相続時精算課税における贈与税は、相続税の前払いとしての性格を有するものであり、相続時に贈与税を精算することにより、結果として「納税者の負担は相続税のみ」となります。
簡単に言ってしまえば、贈与者が死亡する前に、早めに贈与という形で財産を相続し、その金額が2,500万円までなら贈与税は免除しますよ。という仕組みです。
こんないい制度があったのかー!今すぐ、相続時精算課税制度を利用するぞー!ちょっとお待ちください。
この相続時精算課税制度は誰でも利用できるわけではないですし、相続時精算課税制度のメリット・デメリットにて、詳しく記載していますが、色々と注意点があります。
相続時精算課税制度を利用しようかな?
そう思ったときは、東京新宿神楽坂にて47年の歴史がある都心綜合会計事務所までご相談下さい。
令和6年1月1日からは基礎控除が発生
令和5年度の税制改正で、相続時精算課税制度でも年間110万円の基礎控除ができるようになりました。
今までは相続時精算課税制度を適用すると、年間110万円の基礎控除が受けられませんでした。
110万円の基礎控除?という方は「生前贈与とは何?相続との関係は?」をご参照ください。
ただし、この適用は令和6年1月1日以降に贈与した分からとなります。
なので、既に相続時精算課税制度を適用している方で、令和5年以前に贈与した分については、年間110万円の基礎控除はありません。
ちなみに、令和6年以降に相続時精算課税制度を適用した方のみに受けられるという制度ではありません。
既に相続時精算課税制度を適用した方でも、令和6年以降の贈与については、年間110万円の基礎控除が受けられます。
相続時精算課税制度の適用要件
相続時精算課税は贈与者ごとに、また、受贈者ごとに選択することができます。
また、相続時精算課税は、適用するにあたって暦年課税とは異なり、幾つかの要件があります。
その要件については、以下のとおりです。
1.贈与者(財産をあげる人)の要件
贈与をした年の1月1日において60歳以上であること
(=特定贈与者といいます。)
2.受贈者(財産をもらう人)の要件
次の1と2を両方とも満たすこと
- 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上であること
- 贈与者の直系卑属(子や孫)である推定相続人(※)又は孫であること
(※推定相続人とは、相続が開始した場合に相続人となるべき人をいいます。)
相続時精算課税制度の手続き
相続時精算課税を選択するためには、贈与を受けた者が、「相続時精算課税選択届出書」を「贈与税の期限内申告書の提出期限内」に税務署長に提出する必要があります。
なお、「相続時精算課税選択届出書」は、贈与税の期限内申告書に添付して提出します。
また、贈与税の期限内申告書の提出期限内は、贈与年の翌年2月1日から3月15日までの間になります。
相続時精算課税制度の計算方法
相続時精算課税制度に係る贈与税額の計算は、以下のとおりです。
{1暦年中に特定贈与者から取得した財産の価額の合計額-特別控除額(注)}×20%
(注)特別控除額は、最大2,500万円であり、1暦年2,500万円ではありません。
【相続時精算課税制度による贈与税額の計算と相続税までの流れ】を実際に見てみましょう!
相続時精算課税制度を実際に使用した例
- 孫は祖父からの贈与に対して、相続時精算課税を選択した。
- 令和1年:孫(18歳以上)が祖父(60歳以上)から2,000万円の現金をもらった。
- 令和2年:孫(18歳以上)が祖父(60歳以上)から1,000万円相当の株式をもらった。
それぞれの年の孫の贈与税額は、以下のとおりです。
【令和1年分】
2,000万円-2,000万円(※)=0
(※)2,000万円≦2,500万円←特別控除額 ∴2,000万円
【令和2年分】
{1,000万円-500万円(※)}×20%=100万円⇒孫の贈与税額
(※)1,000万円>2,500万円-2,000万円=500万円 ∴500万円
特別控除額2,500万円のうち、1年目で2,000万円使用したので、2年目の控除枠は500万円となります。
控除額は最大2,500万円であり、1暦年ごとに2,500万円ではありません。
その後、祖父が死亡し、相続が発生したときに孫が生前に贈与された現金2,000万円と株式1,000万円の合計3,000万円を「相続時精算課税適用財産として相続税の課税価格に加算」します。
この場合、孫が相続又は遺贈により財産を取得していなかったとしても加算することになります。
そして孫の算出相続税額を計算します。
1.算出相続税額が150万円だった場合
150万円-100万円(→贈与税として納付した金額)=50万円
この差額50万円が、孫が納付すべき税額となります。
2.算出相続税額が50万円だった場合
50万円-100万円(→贈与税として納付した金額)=▲50万円
この差額50万円は、孫が還付される税額となります。
上記1、2のいずれにおいても既に贈与税として支払っている100万円については、贈与税額控除として相続税額から控除することにより、贈与税の精算を行うことになります。
したがって、孫の負担は「相続税のみ」となるのです。
養子縁組解消後も相続時精算課税の効力は失われない
いったん相続時精算課税を適用すると、たとえ養子縁組の解消により、特定贈与者(相続時精算課税選択届出書に係る贈与者)の推定相続人でなくなったとしても、その後の、その特定贈与者からの贈与により取得する財産は、引き続き相続時精算課税を適用することになります。
養子縁組が解消されても、相続時精算課税選択の届出書の効力は失われません。
よって、暦年課税方式で贈与税の申告にはならない、ということに注意しましょう。
動画で解説
相続時精算課税制度について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
相続時精算課税制度とは、経済政策の一環として、平成15年に創設された制度です。
お子さんやお孫さんなどの若い世代に、財産を早めに移転させることを促し、経済を活性化させることを目的としています。
今回の動画では、
- 相続時精算課税制度の概要
- 相続時精算課税を適用できる人
- 相続時精算課税制度を適用するための手続き
- 相続時精算課税制度を使ったときの税金の計算方法
この4つについて、解説をしてまいります。
それでは相続時精算課税制度の概要について、お話し致します。
相続時精算課税制度を使って贈与された財産は、累計で2,500万円まで贈与税がかかりません。
普通なら贈与を受けた人は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された金額から贈与税を計算し、その申告・納税をします。
これに対して相続時精算課税制度では、累計で2,500万円に達する贈与まで、贈与税がかからないということです。
簡単に言ってしまえば、贈与者が死亡する前に、早めに贈与という形で財産を相続し、その金額が累計で2,500万円に達するまでなら贈与税は免除しますよ、という仕組みです。
ただ、贈与をした人が亡くなったときに、相続税の計算の対象となる相続財産に加算をします。
また、累計2,500万円を超えるとどうなるのかといいますと、超えた部分に一律20%の贈与税がかかります。
しかし、その贈与税は相続税の計算のときに相続税から控除し、控除しきれない金額は還付されます。
したがって、相続時精算課税制度で贈与してもらった財産にかかる税金は、最終的には「相続税のみ」となります。
早めに財産を贈与したい人・贈与してもらいたいという人には、非常によい制度です。
次に、相続時精算課税制度を適用できる人について、説明を致します。
相続時精算課税制度は、誰からの贈与でも使えるわけではありません。
この制度を適用できるのは、贈与をする人からみて推定相続人である直系卑属か、孫への贈与に限られます。
推定相続人とは、将来相続人になる予定の人のことをいい、直系卑属とは血の繋がった親族のうち、自分より若い世代のことをいいます。
簡単に言えば、お子さんやお孫さんへの贈与では使え、夫婦間や兄弟間などの贈与では使えない、ということです。
それから年齢にも制限があります。
贈与をする側は、贈与が行われる年の1月1日時点で60歳以上、贈与を受ける側は18歳以上でなければなりません。
ちなみに、相続時精算課税を誰からの贈与に使うかは、贈与を受ける側で選択することができます。
たとえば、父からの贈与だけ相続時精算課税を選択し、母からの贈与は通常の贈与とすることもできます。
通常の贈与とは、一年間に110万円の基礎控除がある計算方法のことです。
相続時精算課税に対して、暦年課税といいます。
相続時精算課税制度の手続きをしていなければ、暦年課税で相続税を計算します。
これは裏を返すと、相続時精算課税を選択した人からの贈与には年間110万円の基礎控除がなくなる、ということですので注意をしてください。
次に、相続時精算課税制度を適用するための手続きについて、説明を致します。
相続時精算課税を選択するためには、贈与を受けた人が税務署に届け出を行う必要があります。
誤解されやすいのですが、贈与税は贈与を受けた人が負担する税金です。
よって、こうした手続きもすべて、贈与を受けたお子さんやお孫さんが行う手続きとなります。
手続きの具体的な方法ですが、相続時精算課税制度の適用をスタートしたい年の贈与税の申告期限までに「贈与税の申告書」に「相続時精算課税選択届出書」や贈与をする人との親族関係がわかる書類を添付して提出します。
一度手続きをすれば、それ以降、その相手からの贈与は相続時精算課税となります。
暦年贈与に戻すことはできません。
たとえ養子が相続時精算課税を選択して、その養子縁組を解消したとしても、暦年課税に戻すことは出来ません。
次に、相続時精算課税制度を使ったときの税金の計算方法について、説明致します。
まず、相続時精算課税制度を使って贈与を受けた財産は、累計2,500万円まで贈与税がかかりません。
たとえば、おじいちゃんからの贈与に相続時精算課税制度を適用する手続きをして、令和元年に2,000万円の現金を、翌年の令和2年に1,500万円相当の株式をもらったとします。
非課税で受け取れるのは累計2,500万円ですから、令和元年の現金には贈与税はかかりません。
しかし、令和2年は500万円までしか非課税になりません。
そのため、令和2年は残りの1,000万円に贈与税がかかります。
このときの贈与税は、一律20%で計算されますので200万円です。
そして令和3年に、おじいちゃんが亡くなって相続が発生したとします。
このとき、孫が令和元年と令和2年に贈与された現金2,000万円と株式1,500万円の合計3,500万円がおじいちゃんの相続財産に加算され、そこから相続税が計算されます。
そして、孫の相続税から、相続時精算課税によって負担した贈与税を控除します。
たとえば、孫の相続税が250万円だった場合、令和2年の贈与で負担した贈与税200万円を差し引いた残り50万円が孫が納付する相続税となります。
もし贈与税のほうが多ければ、差額は還付されます。
こんないい制度があったのなら、今すぐ相続時精算課税制度を利用したい、と思われる方もいらっしゃるかも知れません。
しかし、相続時精算課税にはデメリットもございます。
そして、一度選択すると、元には戻せません。
相続時精算課税制度の適用をしたいときは、必ず税理士に相談しましょう。
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