贈与側が先に死亡しても相続時精算課税の影響は消えない

相続時精算課税制度で「贈与された側が先に死亡」した場合の課税関係などについて、解説しています。

受贈者の相続人に相続時精算課税の権利義務が継承

Bは相続時精算課税制度を利用して、Aから贈与を受けていた。

しかし、Aよりも先にBが亡くなってしまった。

このように贈与された側が先に死亡してしまうケースもあります。

贈与された側が先に死亡
贈与された側が先に死亡
相続時精算課税制度で贈与された側が先に死亡したら?

このような場合、Bの相続人(上図で言えばD(夫)、E(子供)、F(子供))が相続時精算課税による権利と義務を引き継ぎます。

簡単に言えば、Bに代わり、D・E・Fが精算課税の適用を受けた財産をAの死亡時に、相続により取得したものとみなされるということです。

引き継ぐ割合は法定相続分で計算します。

なので、この場合

  • D:1/2
  • E:1/4
  • F:1/4

ずつ、Bの相続時精算課税による権利と義務を承継します。

また、仮に遺産分割協議により、Dしか相続していない、あるいはEしか相続していないとしても、相続時精算課税適用財産の承継割合は、上記のようになります。

財産をもらっていないのに納税?

相続時精算課税による権利と義務を承継するということですが、これは財産をもらっていないのに納税だけはしなければならないという現象を引き起こす可能性があります。

例えば、AがBに現金2,500万円を相続時精算課税制度のもと、贈与していた。

そしてBはBが亡くなる前に、この2,500万円を全て使い切ってしまった。

その後にBがなくなりBの相続が発生。

この時には遺産として2,500万円はありません。(Bが全て使い切っているため)

ただ、しばらくしてAが亡くなると、この2,500万円を相続により取得(法定相続分で引き継いだ割合の額で)したものとみなされます。

こうなると精算課税の適用を受けた財産(この場合2,500万円)から、実際には1円も遺産相続していないにも関わらず、納税だけは発生するという可能性があります。

(ちなみに、相続時精算課税適用者の死亡により引き継いだ相続税を納税しても、債務控除することは出来ませんので、相続税が安くなることもありません。)

納税だけ発生
納税だけ発生
精算課税の適用を受けた財産を遺産相続していないのに納税が発生

これを避ける方法としては、Bが亡くなった際の相続の時に、相続放棄をすることです。

(Bからの)相続放棄をすれば、相続時精算課税による権利と義務の承継も放棄したことになります。

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相続放棄

相続時精算課税の権利義務が消滅する場合

相続時精算課税の権利義務は、必ず発生するものではなく、場合によっては消滅するケースがあります。

再々承継はない

相続時精算課税の権利義務は、再承継までです。

再々承継はしません。

再々承継はない
再々承継はない

特定贈与者は承継相続人から除かれる

相続時精算課税適用者の相続人が「特定贈与者(相続時精算課税制度で贈与した側の人)」である場合は、その特定贈与者は承継相続人から除かれます。

例えば、以下のような場合には、被相続人Aは承継相続人となりません。

特定贈与者は承継相続人にならない
特定贈与者は承継相続人にならない

そして、それに伴い承継割合も法定相続分の割合とは異なってきます。

本来、相続時精算課税適用者であるCが死亡した時の法定相続分は、

  • A:1/6
  • B:1/6
  • D:2/3

となりますが、Aは特定贈与者であるので承継相続人とはならず、承継割合は、

  • B:1/3
  • D:2/3

となります。

相続時精算課税適用者の相続人が特定贈与者のみの場合、兄弟姉妹には承継しない

また、以下のように、相続時精算課税適用者の相続人が特定贈与者のみである場合には、相続時精算課税適用者の兄弟姉妹には、相続時精算課税の権利義務は承継されません。

権利義務が承継されないケース
権利義務が承継されないケース

動画で解説

相続時精算課税制度で贈与を受けている側が先に亡くなってしまった場合、どうなるかについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

相続時精算課税制度で贈与された側が先に死亡したら?

動画内容

もし、相続時精算課税制度で贈与を受けている人が、贈与してくれている親や祖父母などよりも、先に亡くなってしまった場合、その人の相続人が相続時精算課税によって受け取った財産を承継します。

たとえば、お父さんからの贈与に相続時精算課税制度を適用していた長女Aさんが、お父さんより先に亡くなってしまったとします。

長女Aさんの法定相続人が夫と子供1人であれば、それぞれ2分の1ずつ、Aさんがお父さんから相続時精算課税によって、贈与された財産を分けることになります。

「でもそれって、相続時精算課税で受けた財産でなくても、同じことでは?」と思いますよね。

確かに相続時精算課税で贈与された財産を、Aさんがまったく使わずに手元においておけば、通常の贈与でも同じことが起こります。

しかし、Aさんがお父さんから贈与された財産を全部使いきっていたとしたらどうでしょうか。

たとえば、現金2,500万円の贈与をお父さんから受けて、亡くなる前にAさんがすべて使い切ってしまっていた場合です。

通常の贈与なら、2,500万円が相続のときに存在しないので、Aさんの夫や子供に相続税はかかりません。

ところが相続時精算課税制度を適用している場合、Aさんの夫や子供は、この2,500万円分の財産を相続したとみなされてしまいます。

実際は1円ももらっていない夫や子供が1250万円ずつ相続したものとして扱われ、相続税の対象となってしまいます。

これはAさんの相続時精算課税制度による権利や義務を、相続人が承継したものとして扱われるからです。

ちなみに、相続時精算課税の承継は再承継までです。

再々承継はございません。

たとえば、Aさんの子供がAさんよりも先に亡くなっていた場合、その子供、Aさんからみれば孫にまで再承継されます。

しかし、そのさらに子供、つまり、ひ孫には承継されません。

それから、お子さんがいない相続では、親など直系尊属が相続人になるケースがありますが、相続時精算課税で贈与をしている当事者であれば、相続時精算課税は承継されません。

たとえば、お父さんからの贈与について相続時精算課税制度を適用しているAさんが亡くなり、その相続人がAさんの夫と両親だった場合、相続時精算課税の権利を承継するのは、Aさんの夫とお母さんです。

このとき、相続時精算課税の相続分は夫が3分の2、お母さんが3分の1となります。

このように相続時精算課税で贈与を受けている人が亡くなると、相続分の計算が変わることもあるので、注意が必要になります。