
「家族ではなく、お世話になった会社や趣味の団体に財産を譲りたい」とお考えの方へ。結論から言うと、法人や団体に財産を残すことは可能です。しかし、受け取る団体だけでなく、残されたご遺族に思わぬ税金がかかるケースもあり、税金面の取り扱いには細心の注意が必要です。法人への相続の仕組みと、絶対に知っておくべき税務のリスクや親族間の注意点をわかりやすく解説します。
「長年勤めた会社に恩返しがしたい」「自分が設立した同好会の活動資金にしてほしい」など、親族以外に財産を残したいと考える方は少なくありません。
法律上、相続人になれるのは配偶者や子供などの親族に限られていますが、遺贈(いぞう)や死因贈与(しいんぞうよ)という制度を使えば、株式会社や各種団体に財産を譲ることができます。
具体的には、以下のような組織・団体を指定することが可能です。
遺言書で「○○株式会社に遺贈する」と記載したり、生前に「私が死んだら財産を譲る」という契約(死因贈与)を結んでおくことで、希望する団体へ確実に財産を引き継ぐことができます。

財産を受け取る側が「どのような組織か」によって、かかる税金の種類やルールが大きく変わります。場合によってはご遺族に多額の税金が請求されるケースもあるため、しっかりと確認しておきましょう。
町内会、PTA、同窓会、後援会、同好会など、法人化されていない団体のことを税務上「人格のない社団又は財団」と呼びます。
このような団体が財産を受け取った場合、税金の世界では「個人(一人の人間)」と同じように扱われ、相続税が課税されます。

株式会社や有限会社といった一般的な法人が財産を受け取った場合、法人は相続税の対象外であるため、相続税ではなく法人税がかかります。
しかし、ここで最も注意しなければならない重大な落とし穴があります。
【超重要】現金以外の財産を渡すと、遺族に「所得税」がかかる!
現金を遺贈する場合は問題ありませんが、不動産(土地や建物)や株式などを株式会社に遺贈した場合、「みなし譲渡」という税務上のルールが適用されます。
これは、「亡くなった人が、亡くなった時点の時価でその財産を法人に売却した」と強制的にみなされるルールです。
この結果、財産をもらった法人ではなく、財産を手放した側(実質的には残された相続人・ご遺族)に対して所得税(譲渡所得税)の支払い義務が発生します。
しかも、この税金は通常の相続税申告(10か月以内)より早く、亡くなってから4か月以内にご遺族が代わりに申告・納税(準確定申告)を済ませなければなりません。
「自分たちは財産をもらっていないのに、早急に多額の税金だけ払わされる」という深刻な相続トラブルに発展しやすいため、不動産などを法人に譲りたい場合は必ず事前に専門家へご相談ください。
一般社団法人、一般財団法人、公益法人、学校法人などの「持分の定めのない法人」は、本来は相続税の対象外です。
しかし、この仕組みを悪用した「課税逃れ(相続税の節税目的)」を防ぐため、以下のようなケースでは法人に対して個人と同じように相続税が課税されます。
① 不当な利益供与がある場合
亡くなった方のご遺族(または親しい関係者)が法人の理事を務めており、働いた分に見合わない高額な給与を法人から受け取っているような場合です。実質的な財産隠しとみなされ、相続税が課税されます。
② 同族役員が多い場合(平成30年のルール厳格化)
近年、一般社団法人を使った過度な節税への規制が厳しくなりました。平成30年(2018年)の法改正により、「役員(理事)の過半数を、親族などの同族関係者が占めている」といった特定の条件を満たす法人は、「特定一般社団法人等」と呼ばれます。
このような同族経営の一般社団法人の理事が亡くなった場合、不当な給与の支払いがなくても、法人へ財産を遺贈するかどうかにかかわらず、理事が亡くなったという事実だけで法人に自動的に相続税が課税されるという厳しいルールになっています。

法人税がすでに課税されている状態で、さらに相続税が課税された場合は、二重課税を防ぐために相続税額から法人税額分が控除される仕組みになっています。
法人へ財産を残す際、税金と同じくらい気をつけたいのがご遺族の「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分とは、配偶者や子供などの近しい親族に、法律で最低限保障されている遺産の取り分のことです。「全財産をお世話になった会社に譲る」といった極端な遺言書を残した場合、後になってご遺族から会社に対して「私たちの最低限の取り分(遺留分)はお金で払ってほしい」と請求(遺留分侵害額請求)される可能性があります。
せっかくお世話になった会社や団体を裁判沙汰に巻き込まないためにも、法人への遺贈を検討する際は、ご遺族の遺留分を侵害しないようバランスに配慮することが大切です。