
赤字会社に対する遺産相続は、上手に活用することで絶大な節税効果や、スムーズな事業承継を実現できる強力な手法です。しかし、「赤字の会社に財産を移せば税金がタダになる」といった単純なものではありません。非常にメリットが大きい反面、税務上の落とし穴がいくつも存在し、一歩間違えると想定外の税金がかかるリスクもあります。この記事では、赤字会社を活用した相続税対策の基本的な仕組みから、実務上絶対に知っておくべき注意点まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
通常、相続税は「個人」が財産を受け取った際にかかる税金です。
しかし、遺言書などを活用すれば、自分が経営する会社(法人)に対して財産を譲る(遺贈する)ことも可能です。
ちなみに、法人以外にも、町内会や趣味の同好会などの団体へ財産を遺すこともできます。
(詳しくは法人に相続させることは可能?をご覧ください)
会社が個人の財産を受け取った場合、その財産の価値は「会社の儲け(利益)」として扱われ、「法人税」の対象になります。

これを聞くと、「相続税を回避しても法人税がかかるなら無意味では?」と思うかもしれません。しかし、その会社が過去から積み上げた「累積の赤字」を持っている場合は状況が一変します。
法人の税金計算には、過去の赤字と今年の黒字をぶつけて相殺できる「繰越欠損金(くりこしけっそんきん)」という強力なルールがあるからです。
例えば、過去4年間で合計1億円の赤字を抱えている会社が、5年目に1億円の財産を社長個人から相続したとします。
この場合、5年目に1億円の利益(受け取った財産)が出ても、過去の累積赤字1億円と全額相殺されるため、結果として法人税は1円も発生しません。
この繰越欠損金のルールは、以下のように定められています。
【繰越欠損金の仕組み(要約)】
青色申告をしている法人は、発生した赤字(欠損金)を翌年以降に繰り越して、将来の黒字と相殺することができます。
平成30年(2018年)4月1日以後に開始した事業年度で発生した赤字は、最大10年間繰り越すことが可能です。
※資本金1億円を超える大企業の場合は、その年の所得の50%までしか赤字と相殺できない制限があります。しかし、資本金1億円以下の中小法人の場合は、所得の全額(100%)まで赤字と相殺することが可能です。
「社長個人の資産は十分あるが、会社は赤字続きで苦しい……」というオーナー社長にとって、この制度を使って会社に財産を移すことは、次のような大きなメリットをもたらします。
会社を将来お子様などの後継者に引き継ぐ(事業承継する)予定がある場合、会社を健全な状態に戻してバトンタッチするための強力な後押しとなります。

なお、赤字の会社では、社長が個人のポケットマネーから会社にお金を貸し付けて(役員借入金)資金繰りを持たせているケースが多々あります。この「会社に貸しているお金」も、個人の相続財産として額面通りに相続税の対象になってしまうという点には、十分な注意が必要です。
ここまで解説した通り、相続した財産が「繰越欠損金(過去の赤字)」の枠に収まっていれば、法人税はかかりません。
しかし、受け取った財産の価値が赤字額を上回ってしまった場合、はみ出した部分についてはしっかりと法人税が課税されます。
例えば、累積赤字が1億円の会社に、1億6,000万円の財産を相続させると、オーバーした6,000万円に法人税がかかります。そもそも赤字のない黒字企業に財産を相続させた場合は、受け取った財産の全額が法人税の対象となってしまいます。

さらに気をつけるべきなのが、税務上の「みなし譲渡課税」という落とし穴です。
個人から法人へ財産を遺すことは、税金の世界では「時価で売却した」のと同じ扱いになります。もし、その財産(不動産や株式など)が買った時よりも値上がりしていて「含み益」があった場合、なんと亡くなった方に対して譲渡所得税(所得税)が課せられてしまうのです。(※この場合、住民税はかかりません)。
※ただし、現金や預貯金であれば価値が変動する(含み益がでる)ことがないため、このみなし譲渡課税(所得税)の心配はありません。
また、同族会社に財産を入れたことで会社の価値(株価)が上がると、他の株主(親族など)に対して「亡くなった人から経済的なプレゼントがあった」とみなされ、他の株主に対して思いがけず相続税や贈与税がかかるリスクも存在します。
このように、法人を使った対策は非常に効果的ですが、気を配るべきポイントが多く、個人で行うには手続きが複雑になります。
「自分の会社を利用して安全かつ賢く相続税対策をしたい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

税理士法人 都心綜合会計事務所では、個人の相続だけでなく法人税務にも精通した専門家がしっかりとサポートいたします。
無料相続相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
(なお、お電話での相続相談は承っておりません。)
ご自身の所有する土地を他人に貸し出し、「借地権(土地を借りる権利)」を設定すると、その土地の持ち主としての相続税評価額は「底地(そこち)」の評価となり、更地の状態よりも大幅に評価額を下げることができます。
例えば、自用地(更地)としての評価額が1億円で、借地権割合が70%の地域にある土地の場合、借地権を設定すると土地の評価額は底地部分の3,000万円まで下がります。
この仕組みを利用し、借地権を自分の「赤字会社」に移すことで、個人の相続財産評価を下げて節税を図るテクニックがあります。
通常、会社に対して無償(権利金の支払いなし)で借地権を設定すると、会社側は「価値ある権利をタダでもらった」とみなされ、「権利金の認定課税」という会社の利益が発生します。上記の例だと、会社に7,000万円の利益が出た扱いで多額の法人税がかかってしまいます。
しかし、ここで会社に7,000万円以上の繰越欠損金(累積赤字)があれば、この利益と赤字を相殺できるため、法人税は一切かかりません。
つまり、赤字会社を活用すれば、「個人の土地評価額を大幅に下げつつ、会社側の法人税も発生させない」という理想的な対策が可能になります。
ちなみに、会社から個人へ「相当の地代(年間で土地の時価(通常の取引価額)の6%程度という高い家賃)」を支払う契約にすれば、そもそも権利金の認定課税は行われません。ただし、この方式を選択した場合、個人の土地の相続税評価額は自用地の80%程度(2割程度しか下がらない)というルールになっています。
赤字を消費してでも土地の評価を底地まで下げるか、地代を払って2割減にとどめるか、実行する際は慎重な検討が求められます。
「個人から個人」へ財産をプレゼントすると贈与税がかかりますが、「法人から個人」へのプレゼントには贈与税はかかりません。
その代わり、個人の「一時所得」として所得税の対象となります。
この一時所得には、年間50万円の特別控除が設けられています。つまり、法人から個人へ年間50万円までの贈与であれば、税金は一切かからないのです。
※ただし、この50万円の枠は、その年の「すべての一時所得の合計」に対して使われます。同じ年に生命保険の満期金などを受け取っている場合は、それらと合算されて枠を使ってしまう点にご注意ください。
これを、個人の贈与税の基礎控除(年間110万円)と組み合わせると、
となり、合計で年間160万円まで無税で財産を移動できる計算になります。そのため、「個人 → 法人 → 個人」と経由させて財産を移すことも一つの選択肢です。
最初の「個人 → 法人」への移転時、法人は利益を受けたとして法人税の対象になりますが、ここでも繰越欠損金(赤字)の範囲内であれば法人税はかかりません。
また、次の「法人 → 個人」への移転時、法人はこれを寄附金として処理しますが、全額を会社の費用(損金)として落とすことはできません。黒字会社なら法人税の負担が増えますが、赤字会社であればその心配は無用です。
【※重要:役員や家族への贈与に関する注意点】
この手法には、実務上非常によく否認される大きな落とし穴があります。財産を受け取る個人が、その会社の「役員」や「従業員」、あるいは「社長の家族(親族)」であった場合です。
この場合、税務署からは一時所得として認められず、「会社から社長への『役員賞与』を出して、それを社長が家族に贈与した」と認定される可能性が非常に高いです。給与・賞与として認定されてしまうと50万円の特別控除は使えず、社長には所得税や住民税が、家族には贈与税がかかるというダブルパンチのリスクがあります。実行前には必ず専門家にご相談ください。