経営権を残しつつ、生前に自社株を後継者へ贈与する方法

自己信託で自社株を贈与しつつも、経営権はそのまま保持する方法について、解説しています。

議決権を保持しながら自社株の評価額が低い時に自己信託をして贈与税を抑える

自己信託を利用すると、後継者に株式を贈与しても、自社株式の「議決権を行使」することが出来ます。

仕組みは名義預金対策には自己信託が有効と一緒で、

  • 委託者:贈与者(オーナー社長など)
  • 受託者:贈与者(オーナー社長など)
  • 受益者:受贈者(後継者など)

のように、委託者と受託者を「同一の人物」にします。

後継者が受益者となっていますので、この株式は【後継者のもの】です。

ただ、受託者がオーナー社長なので、自社株の運用や管理はオーナー社長がすることになり、議決権を引続き行使できるということです。

議決権を引続き行使
議決権を引続き行使
オーナー社長で自社株を後継者へ贈与しても、議決権を引続き行使出来ます。

そして自社株式の評価額が低い時に、この自己信託を設定すれば、贈与税を抑えることが出来ます。

また、たとえば信託期間を10年間とし、その期間を過ぎたら議決権も後継者に譲る、といったことも出来ます。

このように引続き経営に携わりたいが、相続税対策や認知症になった時のことを考えて、自社株式だけは早く後継者に引き渡しておきたいと考える、中小企業のオーナー社長は少なくありません。

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社長が認知症になった場合の会社経営はどうなるの

非常に便利な制度ですが、注意点として自己信託を利用した株式譲渡は、信託を始める前と始めた後でオーナー社長などが管理することに変わりがないので、「いつから自社株式は後継者に譲渡されたのか?」ということが問題になりやすいです。

このような問題を防ぐためにも、公正証書を作成することや、信託宣言(外部に信託を宣言して始めること)をしましょう。

自社株は相続税財産として残さない方がいい?

事業承継は多くの方が悩まれています。

主に

  • 後継者がいない
  • 借入などの経営者保証の問題
  • 相続で会社経営に携わらせたくない人物が株式を相続する可能がある

といったことです。

何の相続税対策もせず、かつ上記に記載したような自己信託を活用した、後継者への自社株式の生前贈与などをしていない場合、自社株は相続の際に問題を起こしやすいと言えます。

問題
問題
自社株は相続になると問題になりやすい

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会社株式の遺産分割方法

遺産分割協議がまとまらない場合には、「法定相続人で自社株式を共有」している状態となります。

遺産分割協議が成立するまでの間は、共有している状態で過半数の議決をもって、会社を運営していかなくてはなりません。

法定相続人の中にまったく会社に関与していない、もしくは後継者と反対の考えを持っている人でも、遺産分割協議が成立するまでの間は、自社株式を共有で持っていることになります。

下手をすると、後継者の会社経営が機能不全に陥ることもあり得ます。

ただ、自社株式には経営のみならず、財産という側面もあります。

被相続人(故人)の遺産が自社株式のみの場合、会社経営に関わらず、財産として相続したいと思うのはある意味仕方がないことです。

結果、会社経営とは程遠い法定相続人が株式を相続し、以後その人の了承を得ないと何も決めらない、といった事態になりかねません。

また、オーナー社長が認知症になった場合には、取引先、金融機関への対応も出来なくなります。

オーナー社長が認知症
オーナー社長が認知症
オーナー社長が認知症になった場合には、取引先、金融機関への対応も出来なくなり、自社株贈与などと言ってられない状況になります。

自社株式は生前に後継者へ贈与しましょう。

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事業承継税制で自社株の相続税や贈与税の納税猶予や納税免除をする

そして、まだまだ現役で会社に携わりたい場合には、自己信託を活用して、議決権の行使は引き続き出来るようにしておきましょう。

ちなみに株式の2分の1超の議決で、取締役等の選任や解任が可能です。

また、3分の2以上の議決権で定款変更や合併などの決議が可能です。

相続税対策は節税対策だけではありません。

相続税を0円にすればいいというものではないのです。

ちなみに相続税を0円にすることだけが目的なら、被相続人の生前に相続税対策を「しっかりと勉強している税理士」とすれば誰でも可能です。

相続税を0円にすることは、何も難しいことではないからです。

ただ相続の問題は、税金だけではありません。

相続人のその後の人生も考えなくてはいけません。

特にオーナー社長の場合は、自社株は相続になるとややこしくなる、といったことだけは頭の片隅に入れておきましょう。

動画で解説

自己信託という方法を使って、自社株の相続対策を円滑に行う方法を、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

経営権を渡さずに、自社株を後継者に贈与する方法

動画内容

相続を円滑に行うのに、有効な方法として、信託という契約があります。

信託とは、委託者、受託者、受益者の3者で行われる契約のことです。

たとえば、Aさんの財産をBさんに渡したいけれど、Bさんに、その財産を管理する能力がない場合、Aさんから信頼できるCさんに、財産の管理を委託して、Cさんが管理しながら、Bさんに使ってもらう、というような契約です。

今お話したのは、3人(で)の信託ですが、たとえば、Aさんが自分で自分に委託をして、Bさんに財産を贈与する、といった、2人での信託も可能となります。

このように、自分で自分に委託する信託のことを、自己信託といいます。

自己信託を使うと、自社株の相続対策で、どのようなメリットがあるのか、これからお話を致します。

自社株は、相続財産として、相続税の対象となります。

上場会社でない会社の株は、市場での取引相場がありませんから、その相続税評価額は、その会社の規模や業績などから、計算することとなります。

業績のよい時であれば、相続税評価額は上がりますし、逆の場合は、下がります。

これ以外の要素でも、変動します。

このことから、自社株の相続税対策では、なるべく相続税評価額が低いときに、生前贈与をすることが、有効となります。

しかし、これはあくまで会社の株を、相続財産として考えた場合に、有効である、という話であって、会社の経営のことを考えると、それがベストというわけではありません。

なぜなら、株式には、議決権といって、会社の経営権がくっついてきます。

もし、自社株の相続税評価額が下がり、生前贈与するなら今、という時期がきたとしても、会社の経営権まで、贈与してしまうのは、まだ早すぎる、という場面があるかと思います。

たとえば、後継者にしたい人が、経営者として、まだまだ十分な能力を備えていない、などの場合です。

このような時、自己信託の活用が非常に有効です。

もし、自社株を生前贈与する時に、社長を委託者兼受託者とする、自己信託を結んでおけば、後継者に株式を贈与しても、その議決権は、社長に残すことができます。

なぜなら、その株式を管理するのが、社長だからです。

つまり、自己信託を使えば、自社株の相続対策をしながら、経営権を維持することができます。

自社株は、何も対策しないで相続を迎えると、遺された会社は混乱しますし、遺族は相続税の支払いに困ってしまいます。

経営者の相続対策は、相続税のことも、もちろんですが、会社経営から事業の承継まで、考え抜いて、行わなくてはなりません。

会社の経営、事業の承継、そして相続税の3つの視点から、最善の答えを導き出せる、専門家への相談が必要となります。

そして、相続はもちろん、会社経営、事業承継でお悩みのある方は、税理士法人・都心綜合会計事務所にお任せ下さい。