
残された妻の老後の生活を守りつつ、将来の二次相続を見据えて子供へ確実に遺産を承継させたい。この2つの願いを両立させる有効な手段が「受益者連続型信託」と呼ばれる家族信託の活用です。税務面でのメリットや、遺産の無駄遣いを防ぐ具体的な仕組みについて解説します。
通常、夫が先に亡くなり、妻が残されるというケースが多いです。
この場合、残された妻の老後の生活を考えて、一次相続では妻へ遺産を引き継がせたいと考えるのが一般的です。
しかし、妻が亡くなった時の二次相続や、高齢になった妻の財産管理の負担を考慮すると、最終的な財産の行き先や管理方法は事前にコントロールしておきたいというニーズが生じます。
一番の理想は、子供たちが遺産をしっかりと管理し、残された妻の生活の面倒を見てくれることです。
しかし、「本当に子供たちが適切に管理してくれるのか?」「妻が認知症になったら口座が凍結するのではないか?」といった不安から迷われる方も多くいらっしゃいます。
これを法的に、かつ安全に解決する方法として「家族信託(受益者連続型信託)の利用」があります。
妻の生活保障と、二次相続対策を両立させるためには、以下のように信託を設定します。ここで重要なのは、他益信託だと贈与税等の問題が出やすいため、課税関係を踏まえて最初は夫自身を受益者とする「自益信託」で始める設計が実務上よく検討される点です。
このスキームの最大のポイントは、一次相続(夫の死亡時)において、受益権が夫から妻へ移動し、妻が新たに「受益権(財産から利益を受ける権利)」を取得することです。
税務上、この受益権の取得は財産を相続したことと同じとみなされるため、相続税の「配偶者の税額軽減(配偶者が実際に取得した正味の遺産額が、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか多い額までであれば税額が軽減される制度)」を適用でき、一次相続の税負担を大幅に抑えることが可能です。
※配偶者の税額軽減を確実に適用するためには、妻が信託財産からの収益(家賃など)だけでなく、必要に応じて元本(預金や不動産の売却代金など)も受け取れるような設計にしておくなど、適用のための申告要件や財産管理権限のバランスを取った慎重な設計が必要です。
また、自宅を信託財産に入れる場合、強力な節税効果がある「小規模宅地等の特例」を適用するには、信託契約書の条項を非常に慎重に設計する必要があります。
実際の財産管理は「受託者」である子供が行い、第二受益者となった妻に対して、毎月の生活費などを必要な分だけ定期的に支給します。これにより、高齢の妻が多額の財産を自ら管理する重圧から解放されます。また、信託財産については本人の判断能力低下後も受託者による管理継続がしやすくなり、認知症等による口座凍結リスクを回避しやすくなります。
第二受益者である妻が亡くなった際(二次相続発生時)には、信託契約の定めに従い、残った財産は最終的な「残余財産帰属権利者」である子供たちへ確実に承継されます。
遺言では、受益者連続型信託のように二世代先まで承継設計を法的に固定するのは極めて困難ですが、家族信託(受益者連続型信託)であればこれが可能になります。
【注意点1】二次相続時の課税について
妻から子供へ財産(権利)が最終的に移る二次相続時には、妻が有していた受益権をみなし相続財産として子供が取得する形となり、相続税の課税対象となります。信託を利用すれば二次相続が無税になるわけではないため、事前の税金シミュレーションが不可欠です。
【注意点2】「30年ルール」の制限
家族信託を利用しても、何世代にもわたって永遠に財産の行き先を指定し続けることはできません。信託法第91条には、信託契約時から30年を経過した後に新たに受益者となった人が亡くなった時点で、それ以降の受益者の指定は無効となり、信託が終了に向かうという「30年ルール」があります(30年経過後の受益権の承継は1回までしか認められません)。将来の設計を行う際にはこの期間制限を必ず考慮する必要があります。
【注意点3】他の相続人の「遺留分」への配慮
特定の子供にのみ最終的な財産が渡るよう信託を設計した場合、他の相続人(他の子供たちや、前妻との間の子など)の最低限の取り分である「遺留分」を侵害してしまう可能性があります。将来のトラブルを防ぐため、遺留分に配慮した財産配分の検討が不可欠です。(※なお、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。)
また、多額の遺産を一括で相続して無駄遣いをしてしまったり、勤労意識が萎えて「生活破綻」に陥ってしまうケースは少なくありません。

家族信託を利用すれば、「毎月一定額を支給する」といった設計も可能なため、遺産の浪費を防ぎ、堅実な生活設計をサポートすることができます。
このように、家族信託は使い方によって、二次相続対策や遺産相続後の生活設計に絶大な効果を発揮します。「家族信託は各家庭の事情に合わせて非常に柔軟に設計できる」ということをぜひ覚えておいてください。
ただし、自由に設計できる反面、税務や法務の落とし穴(リスク)も大きくなります。

実際に家族信託を導入される際には、細心の注意を払い、後悔のない設計を行うために、必ず税理士や弁護士などの専門家にご相談ください。