毎年の生前贈与で基礎控除を繰返し相続財産を減らす

相続税を節税する方法は大きく分けて二つあります。

一つは財産そのものを減らす方法。

もう一つは税法をうまく適用して、財産評価額を下げる方法です。

今回ご紹介する生前贈与で節税する方法は「財産そのものを減らす方法」になります。

被相続人がご存命中に、財産を贈与して相続財産を減らすという方法です。

現金を図る
財産を減らす
生前贈与は財産を減らす節税方法

ちなみに贈与とは民法549条において「当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えるという意思を表示し、相手方がこれを受諾することにより成立する片務契約をいう」と規定されています。

平たく言えば、贈与とは贈与者(財産をあげる人)が受贈者(財産をもらう人)にタダで財産を与えることをいいます。

贈与税についての詳しい内容は贈与で相続税対策するために贈与税を知るに記載しています。

生前贈与のメリット

相続税は贈与税より非課税となる基礎控除が大きく税率も低いです。

ちなみに贈与税は累進課税で最高税率が55%。

最高税率が課税される、基礎控除後の課税価格は4500万円。

相続税の最高税率が課税される6億円超よりも、かなりの低額で贈与税は最高税率が課税されます。

累進課税のイメージ図
贈与税率
贈与税は基礎控除の少なさ、金額の幅が少ない形での累進課税の適用などから、一般的に贈与税率は高いと言われています。

ただ、相続は被相続人ごとに1回しかありません。

いくら税率が低いと言えども、基礎控除も1度しか使えません。

一方、贈与税は相続税よりも税率が高く、基礎控除も110万と大きいわけではありません。

ただ、110万円の基礎控除が「贈与を受け取る人ごと」に適用され、年があらたまるごとに、その基礎控除をくりかえし利用できます。

10年間贈与すれば1年ごとの基礎控除は110万円でも、10年で合算すれば1,100万円の基礎控除となります。

また、贈与は親族に限らず「誰にでも贈与」できます。

贈与税の税率、及び実行税率

さらに贈与を受ける人が贈与する人の直系卑属(子ども・孫・ひ孫)で20歳以上ならば、一般の贈与税率(一般税率)ではなく、低い税率(特例税率)になります。

贈与税の税率(暦年課税)
基礎控除後の金額(注.1)一般贈与特例贈与(注.2)
税率控除額(万円)税率控除額(万円)
200万円以下10%10%
200万円超 300万円以下15%1015%10
300万円超 400万円以下20%25
400万円超 600万円以下30%6520%30
600万円超 1,000万円以下40%12530%90
1,000万円超 1,500万円以下45%17540%190
1,500万円超 3,000万円以下50%25045%265
3,000万円超 4,500万円以下55%40050%415
4,500万円超55%640

(注.1)贈与された金額から110万円を控除した金額

(注.2) 20歳以上の者への直系尊属からの贈与

節税対策として生前贈与をおこなうなら、まずは110万円の基礎控除におさまる範囲で毎年贈与していくことが基本となります。

これを暦年贈与といいます。

例えば、祖父が孫に年間で現金110万円を10年間贈与し、その後に祖父が亡くなり相続が発生したとします。

この場合、祖父が孫に生前贈与した1,100万円について相続税はかかりません。

1暦年110万円までの贈与については、贈与税は非課税となるためです。

ちなみに以下は、年間の贈与税額別の「贈与税の金額」と「その実効税率」となります。

年間の贈与税額別の贈与税と実効税率
贈与金額
(基礎控除前)
一般特例
税額(端数切捨)
(万円)
実行税率
(%)
税額(端数切捨)
(万円)
実行税率
(%)
200万94.594.5
300万196.3196.3
400万338.3338.3
500万5310.6489.7
600万8213.66811.3
700万11216.08812.5
800万15118.811714.6
900万19121.214717.7
1,000万23123.117717.7
1,500万45030.036624.4
2,000万69534.758529.2
3,000万1,19539.81,03534.5
4,000万1,73943.41,53038.2
5,000万2,28945.72,04940.9

生前贈与の注意点

節税対策として110万円の基礎控除におさまる範囲で毎年贈与していく。

一見なんの問題もないように見えますが、注意点があります。

簡単に言ってしまえば「これは確かに贈与である」と税務署に認めてもらえる必要があります。

えっ、贈与であると認めてもらえる必要がある?

なに、税務署は贈与として認めてくれないの?

そうなんです。

確かに贈与しているにも関わらず、贈与していると認めてくれない場合があります。

それは生前贈与は節税対策でおこなわれることが多いため、税務署がこの毎年の贈与は「相続税を安くするための見せかけの贈与だろう」、こんなのは贈与として認めないよ、ということがあります。

なお、この指摘は贈与した人が亡くなって、相続税の申告の調査の時に指摘されます。

贈与した人は既に亡くなっているので、これを防ぐには贈与を受けていた人が「確かに贈与である」ということを、相続税の税務調査の時に証明する必要があります。

ちなみに、毎年の贈与が相続税を安くするための見せかけの贈与と認定された場合は、贈与開始の年に「贈与を毎年受ける権利が贈与された」とみなされ、基礎控除110万円が贈与開始の年のみにしか使えません。

節税対策のつもりが、逆に税金を多くとられてしまっては意味がありません。

ミイラ
ミイラ
ミイラとりがミイラに・・

このような事態を防ぐには、大きく3つのことを注意する必要があります。

  1. 毎年、同じ日に贈与しない
  2. 毎年、贈与する金額を同じにしない
  3. 親族間でも必ず贈与契約書を作る。出来れば公証役場で確定日付をとる。
    (確定日付をとっておけば、贈与契約書が後から作成したものでないことを証明することができます。)

また、土地や建物といった不動産の贈与は登記が必要です。

必ず登記をしなければなりません。

もし「登記をしていなければ、贈与はなかったもの」とみなされてしまいます。

登記作業
登記
土地や建物といった不動産の贈与は必ず登記しましょう。

その他にも不動産の贈与の場合には、登記に伴い「登録免許税や不動産取得税」といった税金がかかります。

もしも相続税がかかるのか微妙な場合には「そもそも生前贈与する必要があるのか?」といった検討も必要です。

相続開始前3~7年以内の贈与は相続税の対象?

相続開始前3年以内の贈与は、相続税の計算上は「相続財産に加算」して計算されます。(既に支払っている贈与税は相続税から控除されます。)

ちなみに2024年以降の相続に関しては「3年以内 → 7年以内」に変更となります。詳しい内容は「生前贈与加算とは相続前3~7年以内の贈与を遺産に加算すること」に記載しています。

相続開始前3~7年以内の贈与というのは、いつそうなるのか分かりません。

被相続人の方がいつ亡くなるのか分からないからです。

また、被相続人の方が認知症になったら、生前贈与したくても出来なくなります。

なので贈与は早い段階からコツコツと実行しましょう。

認知症
認知症
認知症になったら生前贈与は出来なくなります。

ただし、相続開始前3~7年以内に贈与を受けていても、相続発生時にその被相続人から財産を取得していない人については、贈与された時の贈与税の税金のみで完結します。

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生前贈与加算とは相続前3~7年以内の贈与を遺産に加算すること

何を生前贈与すべきか?

例えば、同じ生前贈与でも「現金」と「金の延べ棒」では、効果が大きく変わる可能性があります。

現金110万円の贈与の場合、よほどのインフレやデフレにならない限り、その価値は数年・数十年後も110万円のままです。

ところが110万円分の「金の延べ棒」の贈与の場合、数年・数十年後も同じ110万円の価値である可能性は低いといえます。

ちなみに2001年に1kgあたり110万円だった【金】は、2023年10月では1千65万3,000円になっています。

仮の話ですが、相続開始10年前に110万円分の金を生前贈与した。(贈与税の基礎控除額以下なので贈与税は0円)

その金が相続開始時点で5倍の550万円になった。

もしも生前贈与せず金がそのまま相続財産として残ったら、550万として相続税の対象となります。

もちろん逆に価値が下がることも十分ありえます。

ただ、何を生前贈与するかで迷った場合は、

  • 「将来資産価値が上がる」と見込める
  • 換金性が高い

といった視点で考えましょう。