特定贈与信託の「基本的な仕組み」や「メリット」
特定贈与信託は、「最大6000万円まで障がいの子への贈与が非課税になる」というメリットがあります。
ただ、少なからずデメリットもあります。
今回は、そんな特定贈与信託の基本的な仕組み等について、解説しています。
特定贈与信託とは
特定贈与信託とは、障がいを持つ方のご家族などが信託銀行等に金銭や有価証券、その他の財産などを信託し、その信託された信託銀行等が、障がいを持つ方の治療や生活の安定を図るために、定期的に金銭を交付する信託のことをいいます。
なぜこんな面倒なことをするのか?
普通に家族が子供の面倒をみればいいだけではないのか?
そう思われるかもしれません。
ただ、この特定贈与信託を活用することには、様々なメリットがあります。
特定贈与信託のメリット
まず、この制度を利用すれば、特別障がい者(重度の精神障がい者および2級以上の身体障がい者など)の場合には、6000万円までは贈与税が非課税になります。
直接子供(親 → 子供)に6,000万円を贈与すれば、贈与税がかかります。
これを特定贈与信託を利用することにより、(親 → 信託銀行等 → 子供)という形で贈与すれば、非課税になるということです。
ちなみに中軽度の知的障がい者とされた者、および障がい者等級が2級または3級である精神障がい者の場合には、3000万円までが贈与税の非課税になります。
- でも、障がいを持つ方の治療や生活の安定を図るための贈与でしょ?
- そんな高額な金額を治療や生活の安定を図るために贈与することってないのでは?
- それに生活費などの贈与はそもそも非課税では?
確かに生活費や教育費などの贈与は、そもそも非課税です。
(詳しくは生活費や教育費などはそもそも贈与税がかからないに記載)
また、「何千万円も治療費や生活費がいきなりかかる」ということもほとんどないと思います。
(ちなみに特定贈与信託では、生活費や医療費などのためにしか、金銭は交付されません。生活に必要のないものに、金銭が支給されるということはありません。)
ただ、もしも(障がい者の)親が認知症になったらどうでしょう?
あるいは障がい者の子より早く親が亡くなられたら・・
こういった時に、この特定贈与信託は威力を発揮します。
- 親が認知症になった
- 親が先に亡くなった
このような場合でも、特定贈与信託を事前に結んでいれば、(親が亡くなった後などでも)障がい者の子へ信託銀行等から金銭が支給されます。
また、相続税対策の観点からも非常に有効です。
もしも特定贈与信託を利用せずに、現金を6000万円持って亡くなった場合と、生前に6000万円を特定贈与信託で活用した場合では、大きく遺産の額が変わります。
特定贈与信託したその6000万円は、被相続人(この場合は障がい者の親)の遺産にならないからです。
また、この特例により贈与税が非課税になった金額は、相続開始前3年以内の贈与だとしても、相続財産に加算されません。
(詳しい内容は生前贈与加算とは相続前3~7年以内の贈与を遺産に加算することに記載)
贈与を受ける方(障がい者)が亡くなった後に、預けた財産が残っている場合には、障がい者の相続人または受遺者に交付(相続)されます。
もしくは信託契約時に、信託契約者(この場合は親)が、信託終了後にはボランティアへ寄附することなどを指定することも可能です。
ちなみに障がい者が亡くなられた日が信託の終了日となります。
信託の期間を「任意に設定」することは出来ません。
特定贈与信託のデメリット
メリットだらけに見える特定贈与信託ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 管理費用がかかる
- 有価証券などを信託した場合には、元本割れのリスクがある
このようなデメリットも踏まえ、特定贈与信託を利用するのか?しないのか?
どのような財産を信託するのか?
十分に検討しましょう。
ちなみに信託できる財産ですが、金銭・有価証券・賃貸不動産等が信託できるとされていますが、これは信託銀行によってマチマチです。
中には金銭のみしか、信託できない信託銀行もあります。
動画で解説
障がいをもつ方への贈与を非課税とする、特定贈与信託について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
特定贈与信託とは、障がいをもつお子さんなどへの贈与を、信託銀行等と信託契約を結んで行うことをいいます。
障がい者のお子さんがいらっしゃる親御さんが信託銀行等に財産を託し、親御さん自身に何かがあった後は、預けた財産をお子さんのために使ってもらう、こういう契約のことです。
万が一、親御さんが亡くなったり、認知症になってしまったりした場合でも、お子さんに対する生活費や医療費を、預けた財産から払い続けてくれます。
つまり、自分で金銭管理をすることが難しいお子さんのために、親御さんの代わりに金銭管理をしながら、お子さんの生活を守ることができる、というのが特定贈与信託の活用方法となります。
でも、親子の間で信託関係を入れるなんて、普通に考えたらちょっと面倒ですよね。
これを聞いただけでは、活用したいと思われる方は少ないかもしれません。
ところがこれには、税金の面でとても大きなメリットがあります。
そもそもの話ですが、自分の子どものために支払った生活費や教育費に贈与税はかかりません。
当たり前すぎて、気が付かないという方も多いかと思います。
ところが、金銭を「一括」で渡した場合、通常必要と認められる範囲を超えると、贈与税の対象になります。
たとえ生活費や教育費を一括で渡したとしても、それが貯蓄をされていたり、株や持ち家の購入に充てられたりすると、贈与税の課税対象になってしまう、ということです。
このルールがあるため、たとえ親から子への贈与でも、「将来何かに使って」という理由で大金を一度に贈与する行為には注意が必要なのです。
ところが、特定贈与信託であれば、最大6,000万円まで、非課税で財産を贈与することができます。
このことは、相続税対策に大変有効です。
なぜなら、6,000万円をそのまま親御さんがもっていれば、お子さんがそれを相続したとき、6,000万円に対して、お子さんに相続税がかかってきます。
お子さんが受け取れる財産が相続税の分だけ減ってしまう、ということです。
しかし、特定贈与信託で6,000万円を贈与し、それが全額非課税となれば、その分相続税はかかりません。
特定贈与信託をうまく使えば、お子さんの生活を守るだけではなく、相続税対策にもなる、ということになります。
6,000万円まで非課税になるのは、その障がいの状態が重度の精神障がい者や、2級以上の身体障がい者にあたる場合です。
中軽度の知的障がい者の方、精神障がい者の方のうち、その等級が2級か3級である方であれば、3,000万円まで非課税になります。
最後に、特定贈与信託には注意点もあります。
まず、信託銀行を間に入れなければならないことから、信託銀行に対する管理手数料が発生します。
それから、金銭以外の、たとえば株式など有価証券で特定贈与信託を利用する場合は、投資リスクがあります。
増える可能性もありますが、元本割れをするリスクもある、ということになります。
金銭でするのか、金融商品でするのか、あるいは、賃貸不動産でするのかは十分に検討してください。
中には、金銭のみしか信託できない信託銀行もございます。
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