特別受益の範囲や計算方法
特別受益とはそもそも何なのか?
また、その注意点は?
特別受益に「該当するもの」や「該当しないもの」は何なのか?
特別受益の計算方法は?
等について、解説しています。
特別受益とは
法定相続人(相続する権利がある人)として、長女、次女、三女がいたとします。
被相続人(亡くなった方)の遺言では、相続財産を3人で均等に1/3ずつと書いてありました。
遺言通りに1/3ずつ相続することになり、めでたし・めでたしと思いきや・・。
被相続人の生前中に、長女が住宅取得資金や事業資金やらで、被相続人から何かと贈与(援助)されていたことが発覚!
この場合、遺言通りに1/3ずつ相続することは公平でしょうか?
また、次女や三女は遺言通りに1/3ずつの相続で我慢するしかないでしょうか?
答えは否です。
特別受益という制度で、上記のような不公平を解消しようという制度があります。
被相続人(亡くなった方)の生前に贈与された特別な財産のことを特別受益といい、特別受益(住宅取得資金や事業資金など)を受けた相続人(この場合は長女)を特別受益者といいます。
特別受益の制度は、生前贈与などで、ある特定の法定相続人だけ優遇されていた場合に、相続開始時にこの優遇されている部分を考慮した上で、法定相続人の間で公平を図ろうとするものです。
例えば、被相続人の現金が1500万円あったとします。
被相続人の生前中に、長女に300万を生前贈与していた。
被相続人が亡くなった時には、現金として1200万円あり、その1200万円を3人で均等に分けろとの遺言が・・。
その遺言通りにすると、結果として、
- 長女:400万円
- 次女:400万円
- 三女:400万円
となり、これは公平ではないのでは?
是正する必要がありますよね?
という制度が特別受益の制度です。
では、具体的にはどうするのか?
特別受益の計算方法
上記の場合、長女の法定相続分を調整します。
特別受益を考慮しない場合、法定相続分は以下のようになります。
なお、法定相続分についての詳しい内容は、法定相続分の割合や計算方法にて記載しています。
相続財産が1200万なので、1/3ずつの
- 長女:400万円
- 次女:400万円
- 三女:400万円
特別受益を考慮する場合には、まず相続財産に特別受益をプラスします。
相続財産1200万+300万(生前に長女に贈与した財産)
この上で、法定相続分通りにいったん分けます。
(ちなみに、ここで+300万円することなどを「持戻し」と言います。)
この時点で、
- 長女:500万
- 次女:500万
- 三女:500万
となります。
でも、実際には長女は既に300万の生前贈与を受けているので、
- 長女:200万(500万-300万)
- 次女:500万
- 三女:500万
これが各相続人の法定相続分となります。
ちなみに、法定相続分にも記載していますが、必ずしも法定相続分通りに財産を分割する必要はありません。
なので、遺言書通りに3人で格400万ずつ相続するのもありです。
(ただ、特別受益の制度によって、法定相続分を調整することにより、遺留分の金額などが変わってきます。)
特別受益の範囲
持戻しには生前贈与や遺贈が含まれるが・・。
では生前贈与や遺贈した財産は全て持戻しの対象になるのか、というとそういう訳ではありません。
同じ生前贈与や遺贈でも、特別受益に「なるもの」と「ならないもの」があります。
特別受益になるもの
1.婚姻や養子縁組のための贈与
婚姻や養子縁組のために、被相続人が支出した
- 持参金
- 嫁入り道具
- 結納金
- 支度金
などは特別受益となります。ただ、婚姻に伴い発生する費用でも、結納金や挙式費用はこれにあたらないというのが定説です。
また、結納金は特別受益にあたらない、という考えもあります。
2.生計の資本としての贈与
- 子供が家庭などを持ち独立する時に、親が自己の不動産を贈与する
- 子供の住居の購入資金の一部(マイホームの頭金など)を贈与する
- 事業の開業資金を贈与する
- 他の相続人とは異なる高額な学費(留学費用や医大進学費用など)
- 海外旅行の費用
3.不相当に高額な生命保険金や死亡退職金
生命保険金や死亡退職金、遺族給付は、基本的には特別受益には該当しません。
ただ、あまりにも高額な保険金などは、対象となる可能性があります。
(特定の相続人一人だけに死亡保険金が3億円で、その他の相続人は現金の1,000万円の場合など)
特別受益に該当しないもの
生計の資本とはならない、単なる生活費の援助や扶養の一部と認められる場合には、特別受益には該当しません。
日本の大学の学費は特別受益に該当する?
特別受益に該当するのかどうか?
判断が難しいものに日本の大学の学費があります。
昔と違い、大学へ進学することは珍しいことではなくなりました。
(ちなみに2018年度の大学・短期大学進学率が57.9%で、過去最高を更新しています。)
上記にも記載しましたが、留学は特別受益に該当します。
ただ、日本の大学へ進学することは、半数以上が大学に進学する中、特別なことではないとも言えます。
そうなると日本の大学の学費は、特別受益に該当しないとも言えます。
ただし、複数人の子供がいて、
- 一人だけ特別に大学へ進学した
- 一人だけ医学部などの高額な学費の大学へ進学した
などの場合には、特別受益に該当すると考えられます。
日本の大学の学費が特別受益に該当する・しないは、判断に注意が必要です。
特別受益の多くは他の相続人からの指摘で浮上
特別受益に該当するものがあるかどうかは、多くの場合、他の相続人からの指摘から浮上します。
「あのとき兄さん、車買ってもらってたよね」など、1人が言い始めると、子供同士で過去の贈与を指摘し合い続けることになり、話し合いはまとまりません。
もし今、思い当たる贈与がある場合は、相続人同士がもめないよう、早めに専門家にご相談ください。
遺言書を作成すれば、争う余地はないだろう、と考えるかも知れませんが、特別受益があるときは、遺留分も変わってしまうことに注意が必要です。
特別受益に該当するものがある場合は、お子さんたちが争わないために、しっかり相続対策をしましょう。
特別受益を動画で解説
特別受益について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
今回は、特別受益について、お話しを致します。
特別受益とは、亡くなった人からの生前贈与や、遺言書による遺贈によって、特別に被相続人から受け取った財産のことです。
相続人のうち1人だけが、沢山財産をもらっていたら不公平です。
例えば、遺産が1,200万円あって、相続人が長女、次女、三女の3人だった場合、その法定相続分は、通常であれば1人400万円になります。
ところが、実は長女だけが生前に、300万円の贈与を受けていたとしましょう。
この300万円が特別受益となります。
特別受益があるときの法定相続分の計算は、特別受益の金額を、相続財産にプラスして考えます。
つまり相続財産の額は、本当は1,500万円だったと考えるわけです。
そうすると、長女、次女、三女の法定相続分は、1人500万円ずつとなります。
しかし、長女は300万円の生前贈与を受けていますから、長女の法定相続分は、500万円から300万円を差し引いた200万円となります。
したがって1,200万円の法定相続分は、長女200万円、次女と三女が500万円ずつとなります。
ただし、これはあくまで相続する権利がある、というだけの話ですので、実際に、このとおりに財産を分けなくとも構いません。
このように特別受益とは、相続人同士の不公平を解消するための考え方です。
そうなると、何が特別受益にあたるのか、ということが気になります。
生前贈与や遺言書による遺贈のすべてが、特別受益にあたるわけではありません。
特別受益に該当するものには、まず、婚姻や養子縁組のための贈与があります。
たとえば、持参金、嫁入り道具、支度金などです。
続いて特別受益に該当するものには、生計の資本としての贈与があります。
たとえば、子どもの自宅の購入費や、事業の開業資金、他の相続人とは、異なる高額な学費、海外旅行の費用などです。
最後は、不相当に高額な生命保険金や死亡退職金です。
基本的に生命保険金や死亡退職金は、特別受益に該当しませんが、たとえば特定の相続人だけ、3億円の生命保険金を受取ることができるのに、その他の相続人は1,000万円というようなケースには、注意が必要になります。
以上が、特別受益に該当するものです。
逆に特別受益にならないものとして、生活費など、扶養のために支払われたお金があります。
ただし、大学の費用についてはケースバイケースです。
留学は特別受益に該当しますが、日本の大学は、個別に判断されます。
たとえば、お子さんのうち、1人だけ特別に大学に進学したときや、1人だけ医学部などの、高額な学費の大学へ進学したときなどは、その学費が特別受益に該当すると考えられます。
特別受益に該当するものがあるかどうかは、多くの場合、他の相続人からの指摘から浮上します。
「あのとき兄さん、車買ってもらってたよね」などと、1人が言い始めると、子供同士で過去の贈与を指摘し合い続けることになり、話し合いはまとまりません。
もし今、思い当たる贈与がある場合は、相続人同士がもめないよう、早めに専門家にご相談ください。
遺言書を作成すれば、争う余地はないだろう、と考えるかも知れませんが、特別受益があるときは、遺留分も変わってしまうことに、注意が必要です。
特別受益に該当するものがある場合は、お子さんたちが争わないために、しっかり相続対策をしましょう。