遺留分があるので孫だけに相続させるのは原則不可能
親の相続に際して、子供は第1順位の相続人になります。
親の相続が発生すると、子供は順位の高い相続人として遺産を受け取る立場にあります。
しかし、家族関係や親の思いは家それぞれです。
事情も家によって異なるため、子供ではなく孫だけに相続させたいという要望を持たれる方もいます。
子供を飛び越えて、孫だけに相続させることは可能なのか?
これは可能とも不可能とも厳密には言えない難しい問題です。
ただし、遺留分があるので孫だけに相続させるのは、原則不可能と考えたほうが賢明です。
(遺留分についての詳しい内容は、遺留分とは?その計算方法や割合、兄弟との関係はに記載しています。)
孫だけに遺産を相続させる方法としては、
- 遺言を使って孫だけに相続させる方法
- 生前贈与を使って孫だけに相続させる方法
があります。ただし、遺言で100%孫だけに相続させることは不可能だったり、生前贈与にはデメリットもあります。
遺言と生前贈与を組み合わせることによって、孫への相続をよりトラブルなく行うことを検討することが重要です。
遺言を使って孫だけに相続させる
遺言書によって孫だけに相続させる旨を指定します。
遺言は自分の意思を死後に遺す方法ですから、遺言を使うことで、自分の意思に添った柔軟な相続が可能になるというメリットがあります。
孫が何人かいて、孫それぞれに別々の不動産や有価証券、預金などの遺産を細かに指定することも可能です。
そして、遺言は法律に則って行う必要があります。
自分だけで遺言を作る自筆証書遺言(詳しくは自筆証書遺言は手軽に作れるがトラブルが多いに記載)という方法もありますが、法律で定められた要式に添っていないと無効になります。
また、
- 捏造されたのではないか
- 本当に本人(被相続人)の意思に添っているのか
と他の相続人に疑われ、相続トラブルに発展する可能性もあります。
遺言書そのものを相続人や孫が発見できないという可能性もあります。
要式を間違えて無効になってしまっても、死人に口はありません。
遺言書の在り処がわからなくても、教えることはできません。
疑われてもトラブルの場ではっきりと物申せる本人は既にこの世にいないのです。
このようなトラブルを防止するためには、公証役場で作成する公正証書遺言が有効です。
トラブル発生の可能性を低くおさえつつ、孫への相続をよりスムーズに進めることができます。
なお、公正証書遺言の遺言の詳しい内容については、自筆不要で証人がいる公正証書遺言の作成方法やメリットに記載しています。
遺言を使って孫だけに相続させることは厳密には不可能
遺言を使って孫だけに相続させる方法には、遺留分というものがあり厳密には不可能です。
子供から「遺留分を主張される可能性がある」ということです。
(詳しくは、遺留分侵害額請求とは?時効や手続き方法を解説に記載しています。)
遺留分とは、「相続人の必要最低限の取り分」のことです。
相続によって夫の遺産を相続するはずだった妻と子供が、夫の遺言によって不動産や預金などの遺産をすべて赤の他人に渡されてしまったらどうでしょう。
生活に困るはずです。
相続によって相続人が生活に困窮しないために、遺留分という定めが存在しています。
そして子供には遺留分が定められています。
孫にだけ相続させたいと願い遺言しても、子供に遺留分を主張されると、孫にだけ相続させることができなくなってしまいます。
ただし、遺留分は家庭裁判所の手続きで放棄することもできます。
子供が孫だけの相続に理解を示すなら、放棄してもらうことも1つの方法です。
そうすれば孫へ遺産の全てを相続させることも可能です。
なお、遺留分放棄についての詳しい内容は、遺留分放棄とは?その手続きや放棄する場合はどんな時?に記載しています。
生前贈与を使って、実質孫だけに全ての遺産を相続させる
生前贈与とは、存命の間に財産を託すことをいいます。
元気なうちに孫へと不動産や預金、有価証券を贈与し、相続財産にせず、孫の財産にしてしまう方法です。
孫に財産をどんどん贈与してしまえば、結果的に相続の対象になる財産も少なくなります。
相続の時には財産が孫のものになっているので、孫が全て相続したに等しい効果を生み出すことができます。
生前贈与のデメリット
生前贈与を使い孫だけに相続させるに等しい効果を生み出す場合、気をつけるべきポイントが2つあります。
1.贈与税の問題
贈与税は日本の税金の中でも税率が非常に高いです。
(参考:贈与税の計算と税率(国税庁ホームページ)
)
祖父母から孫に贈与する場合も贈与税の対象になります。
せっかく財産を渡しても、贈与税で大幅に財産が減ってしまっては意味がありません。
教育資金贈与信託(詳しくは教育資金一括贈与のメリットや注意点に記載)などの活用も検討し、税金対策を講じる必要があります。
2.生活費の問題
孫に財産をどんどん贈与していると、自分が生活するための資金が乏しくなることが考えられます。
介護にお金が必要になった。
突発的に医療費が必要になった。
人間は死ぬまで何が起こるかわかりません。
何年何月何日の何時に息を引き取るのかは、本人にさえわかりません。
生きている限り、生活にはお金が必要です。
孫だけに財産を渡したいと思ってどんどん贈与すると、いざという時の資金が足りなかったということになりかねません。
計画性を持って贈与することが重要です。
生前贈与をうまく使い、極力子供の遺留分を少なくするのが現実的
遺言と生前贈与はどちらか1つと決める必要はなく、併用することでデメリットを補い合うこともできます。
たとえば、生前にある程度の財産を孫に贈与して、残りの財産は遺言を使って相続させるなどの方法が考えられます。
この方法の場合、生前贈与せずに財産すべてを遺言で孫に相続させるケースよりも、子供の遺留分が少なくなります。
財産や自分の希望、税金など、状況に合わせ孫だけに相続させることを目標に、早め早めに相続をプランニングすることによって、より孫に相続させやすくなります。
あなたの最適な遺産相続に向けて、税理士法人・都心綜合会計事務所と一緒に相続プラニングを考えていきましょう。
動画で解説
子供ではなく孫だけに相続させることは可能かどうかについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
さて、ご家族にはそれぞれ事情というものがあります。
特定の方に財産を渡したくないとか特定の方にすべての財産を渡したい、という事情がおありの方もいらっしゃるかと思います。
今回は、お子さんではなくお孫さんだけに財産を相続させることができるのか?
できるとすれば、それはどのような方法かについてお話を致します。
まず、相続のルールからするとお子さんとお孫さんの両方がいらっしゃる場合、お子さんは法定相続人になりますがお孫さんは違います。
何も対策しないまま相続を迎えれば、お孫さんに財産を相続する権利はありません。
そして結論からいうと、相続でお子さんを差し置いてお孫さんだけに財産を渡すことは難しいです。
たとえば、お孫さんに全ての財産を相続させる、という内容の遺言書を作成したとします。
しかしながら相続のルールでは、お子さんには遺留分といって最低限の相続財産を請求する権利があります。
お子さんがこの権利を行使するかどうかはわかりませんが、もし行使をすれば、その法定相続分の半分まで請求することが認められます。
お子さんが納得して遺留分を放棄すれば、遺言書どおりの相続が実現する可能性もあるのですが、そうならなかった時には、せっかくお孫さんに財産を遺そうとしたことで、かえってお孫さんに辛い思いをさせてしまうかも知れません。
このことから相続でお孫さんだけに財産を渡すことは難しいといえます。
ほかに、お孫さんに財産を遺す方法としては生前贈与があります。
生前にお孫さんに財産を贈与しておけば、実質的にはお孫さんに相続させることと同じです。
特定の人に財産を渡すには、とても有効な方法といえます。
しかし一方で税金には注意が必要です。
同じ金額に対する税金を贈与と相続で比べると、贈与税の方が相続税よりも税率が高くなることが多いです。
税金はもちろん贈与を受けたお孫さんが負担しなければなりません。
そのため生前贈与はできるだけ税金がかからない方法を利用して行うのがポイントになります。
税金がかからない贈与の方法としては、基礎控除額を使った暦年贈与や非課税の特例を使った贈与がありますので専門家にお尋ねください。
そして、相続や贈与のことなら税理士法人・都心綜合会計事務所にお任せください。