遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者・直系卑属・直系尊属)に、一定の相続分を確保する規定であり、この「確保された一定の相続分を遺留分」と言います。
なぜ、このような制度があるのか?
例えば、今までずっと旦那の面倒をみてきた。当然、旦那の財産を相続出来るものと思っていた。
でも、旦那の遺言書に書いてあったのは、愛人に全ての財産を相続させる。
被相続人(この場合は旦那)は、原則として遺言により、相続財産を自由に指定することが出来ます。(詳しくは指定相続分とは遺言で指定された相続割合で法定相続分に優先するにて記載)
ただ、社会常識的に考えて、愛人に全ての財産を譲る。
その後の妻子の生活はどうなるでしょうか?
これではあんまりではないでしょうか?
民法においては、被相続人の自由を認めると同時に、相続人間の公平も考えられています。
このような著しい公平を害した相続を防ぐため、「相続人が最低限相続できる財産割合」を民法において指定しています。
これが遺留分というものです。
遺留分の権利を持つのは、兄弟姉妹以外の法定相続人
法定相続人であれば、遺留分の権利は必ずあるのか?
法定相続人でも、「兄弟姉妹には遺留分はありません。」
ちなみに、兄弟姉妹以外の法定相続人の代襲相続人には、遺留分は確保されます。
- 子供(既死亡)がいなくて、孫が相続人になる場合は孫
- 父母(既死亡)がいなくて、祖父母が相続人になる場合は祖父母
には遺留分があります。
欠格・廃除(詳しくは相続人にならないケースは放棄・欠格・廃除・同時死亡の4つあるに記載)となった人は、遺留分は認められません。
ただ、欠格・廃除となった人の代襲相続人には、遺留分は確保されます。
また、相続を放棄した人には遺留分はありません。
ちなみに、誰かが相続放棄をした場合は、他の相続人の遺留分が増えます。
それは、相続放棄をした場合には、法定相続人から外れることを意味し、他の相続人の法定相続分が増えるからです。
アメリカには遺留分はない
ちなみにアメリカには遺留分というものがありません。
また、相続人の数に関係なく、遺産に一括して課税されます。
アメリカでは遺産を軸に納税額(遺産税)が決まります。
日本のように相続人各自が納税義務を負うのではなく、被相続人を代理する遺産財団が納税義務を負います。
また、州によって計算方法に違いや、そもそも遺産税がないといった違いがあります。
遺留分の計算方法と割合
相続人が最低限相続できる財産割合、いわゆる遺留分は、配偶者や子供が法定相続人にいる場合は、法定相続分の2分の1です。
なお、法定相続人が親などの直系尊属のみの場合は、遺留分は法定相続分の3分の1となります。
計算例
相続人が配偶者と子供2(A,B)人だったとします。
この場合の法定相続分は
- 配偶者:1/2
- 子供A:1/4
- 子供B:1/4
となります。
この「法定相続分の1/2(半分)が遺留分」となりますので、各相続人の遺留分は
- 配偶者:1/4
- 子供A:1/8
- 子供B:1/8
となります。
法定相続分と遺留分の一覧表
以下は、相続人が〇〇である時の、法定相続分と遺留分になります。
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
---|---|---|
配偶者と子供(もしくは孫) | 配偶者 1/2 | 配偶者 1/4 |
子供(もしくは孫) 1/2 | 子供(もしくは孫) 1/4 | |
配偶者と父母(もしくは祖父母) | 配偶者 2/3 | 配偶者 1/3 |
父母(もしくは祖父母) 1/3 | 父母(もしくは祖父母) 1/6 | |
配偶者と兄弟姉妹(もしくは甥姪) | 配偶者 3/4 | 配偶者 1/2 |
兄弟姉妹(もしくは甥姪) 1/4 | 兄弟姉妹(もしくは甥姪) 0 | |
配偶者のみ | 配偶者 1 | 配偶者 1/2 |
生前贈与や死因贈与も遺留分の対象
なにー!愛人に全ての財産を相続出来ないだと~。
こうなったら、生前に全て愛人に贈与してやる。
もしくは死因贈与だー。
この生前贈与や死因贈与はどうでしょうか?
結論から言うと、この場合も「遺留分の対象」となります。
遺留分は遺言はもちろん、生前贈与・死因贈与でも侵害することが出来ません。
遺留分の対象となる財産は、以下のものも含まれます。
- 相続開始前1年以内の贈与財産
- 遺留分を侵害することを双方が承知の上で贈与した財産
- 相続人に対する一定の財産(特別受益)
被相続人が生存中に全ての財産を贈与しても、遺留分を侵害することは出来ません。
妻や夫へ1円も財産を相続させたくない。
正式な婚姻関係である限り、法律的には不可能なのです。
ただ、自動的に遺留分は相続出来ません。
相続人がアクションを起こさないと、遺留分を相続することは出来ません。
そのアクションを【遺留分の侵害額請求】と言います。
(詳しくは、遺留分侵害額請求とは?時効や手続き方法を解説にて記載)
遺留分を動画で解説
遺留分について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
初めて聞いた方もいらっしゃるかもしれませんが、遺留分とは、多くの人に関係するとても大事な権利となります。
遺留分とは簡単にいうと、最低限の遺産を相続できる権利のことです。
そもそも相続人は、誰がどのくらいの遺産を相続できるのか、あらかじめ法律で決められています。
しかし、もし亡くなった人が遺言で、財産の分け方について指定をしている場合、そちらが優先されます。
これは亡くなった人の生前の意思も尊重されなければならないからです。
そうすると困るのが、遺産のすべてを愛人に遺贈する、というような遺言がのこされた場合です。
このような遺言でも内容としては有効ですので、愛人は全ての遺産を受け取ることができます。
ただ、これを無制限に認めると、遺された妻などの生活が心配です。
そこで法律では、このような遺言は有効であるとしつつも、一方で、配偶者やお子さん、親などが相続人となる場合に、最低限、遺産を相続できる割合を決めています。
これが遺留分です。
遺留分は、原則、遺産の2分の1です。
もし亡くなった人の親など直系尊属のみが相続人となる場合は、3分の1となります。
兄弟姉妹には遺留分はありません。
遺留分を請求できるのは、相続人が遺留分よりも少ない財産しかもらえなかった、という場合になります。
この場合、遺言で遺産をたくさんもらうなどして遺留分を侵害した人に、金銭を請求することができます。
さきほどの例でいうと、愛人に遺留分に相当する金銭を請求できることになります。
ただし、相続人から愛人に何もしなければ、遺留分はもらえません。
遺留分を侵害されたときは、相手に請求することが必要になる、という点に注意をしてください。
さて、どうしても愛人に財産を渡したいという人が遺留分のことを知ると、生前のうちに愛人に財産を贈与してしまうかも知れません。
または、愛人との間で「私が死んだら私の財産をすべて贈与します」という契約を結んでしまうことも考えられます。
どちらも法律上は有効な行為です。
しかし、このようにして渡した財産も、遺留分の計算の対象となります。
計算の対象になるのは、相続が発生する前1年間に行われた贈与、遺留分を侵害することが分かって行われた贈与、それから特別受益にあたる贈与などです。
遺留分を侵害する遺言書は争いのもとですので、これから遺言書を作成しようとされている方は、この遺留分に十分に注意をしてください。