
亡くなったご家族の介護や看病を、ご自身の生活を犠牲にしてまで一生懸命に行う方は少なくありません。そのような苦労をしたのだから、他の親族よりも多めに遺産をもらいたいと考えるのは自然な感情です。このように、被相続人の財産の維持や増加に特別に貢献をした人が、通常よりも多く遺産を受け取れる制度を「寄与分」と呼びます。しかし、介護をしたからといって誰にでも無条件で寄与分が認められるわけではありません。本記事では、寄与分が認められる条件や上限額、親族が介護した場合の特例制度などについてわかりやすく解説します。
寄与分とは、亡くなった方(被相続人)の財産を維持したり増やしたりするために、特別な貢献をした相続人に認められる制度です。
例えば、無給で親の家業を手伝い続けていたケースや、自分の仕事を辞めてつきっきりで介護をしていたケースなどが当てはまります。
寄与分が認められれば、遺産分割の話し合いにおいて、本来の法定相続分に上乗せして財産を受け取ることが可能です。

具体的な計算方法としては、まず遺産総額から寄与分の金額を差し引きます。
その残った財産を法定相続分などの割合で分け合い、貢献した人にはその分配額に寄与分を足した金額が与えられます。
寄与分として上乗せされる金額は、原則として相続人同士の遺産分割協議(話し合い)によって決められます。
貢献の内容や期間、遺産の総額など、さまざまな事情を考慮して計算されるのが一般的です。
もし話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てて決めてもらうことになります。

寄与分の金額には「最大いくらまで」という明確な決まりはありません。
ただし、民法によって「遺産の総額から遺贈(遺言による贈与)の額を引いた残額」を超えることはできないと定められています。
また、計算のベースとなる遺産総額に、借金などのマイナス財産は含まれません。
ここで注意したいのが、寄与分を主張できる期限についてです。
2023年4月施行の法改正により、相続開始から10年を経過すると、原則として寄与分の主張ができなくなりました。
ただし、2023年4月より前に発生していた古い相続については、猶予期間として少なくとも2028年3月末までは主張が認められています。
期限を過ぎると法定相続分で機械的に分割されてしまうため、早めに話し合いを進めることが大切です。
なお、期限後であっても相続人全員の合意さえあれば、寄与分を含めた遺産分割を行うことは可能です。
寄与分が認められるためのハードルは非常に高く、条件は厳格に設定されています。
親子や夫婦の間での日常的な助け合いや、通常の扶養義務の範囲とみなされる行為では認められません。

原則として「無報酬であること」「長期間にわたって継続していること」「その行為に専念していること」といった厳しい要件をクリアする必要があります。
代表的なケースとしては、タダで家業を手伝う「事業従事型」、つきっきりで介護をする「療養看護型」、財産を管理して目減りを防ぐ「財産管理型」などが挙げられます。
将来の話し合いに備えて、日々の介護内容を記した介護ノートをつけたり、立て替えた費用の領収書やレシートをしっかり保管しておきましょう。
これらが客観的な証拠として役立ちます。
ここで注意したいのが、純粋な医療費や施設代の立て替えは「寄与分」とは異なるということです。
立て替えたお金は「被相続人に対する立替金の返還請求」として、厳しい条件のある寄与分とは別枠で遺産から直接精算してもらえるケースが一般的です。
とはいえ、介護にかかった実費の証明としても領収書は大切ですので、必ず残しておいてください。
また、以前は寄与分を主張できるのは「相続人」だけに限定されていました。
そのため、長男の妻などが義父母の介護を献身的に行っても、相続人ではないため遺産をもらえないという不公平がありました。
そこで2019年7月から「特別寄与料」という新しい制度がスタートしました。
この制度により、相続人ではない親族(息子の妻など)が無償で介護等をした場合、相続人に対して直接「特別寄与料」としてお金を請求できるようになりました。
ただし、事実婚などの内縁の妻は法律上の親族ではないため、この請求を行うことはできません。
さらに、特別寄与料の請求には「相続の開始と相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内のいずれか早い方まで」という非常に短い期限があります。
これは親族へ請求を伝えるだけの期限ではなく、話し合いがまとまらない場合に「家庭裁判所へ申立てを行う期限」である点に注意が必要です。
落ち着いてから対応しようとしているうちに期限切れになるケースが多いため、素早い対応が求められます。
また、特別寄与料を受け取った場合、そのお金には相続税がかかります。
亡くなった方の配偶者や一親等の血族(子供や両親)以外の人が財産を受け取るため、相続税額が2割加算されるルールが適用されます。
ただし、遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数※特別寄与者は人数に含めません)以下であれば、特別寄与料を受け取っても相続税の申告や納税は不要です。
遺産全体が基礎控除額を超える場合は、特別寄与料の金額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納税を行う必要があるので忘れないようにしましょう。
なお、特別寄与料を支払った相続人は、その分を自分の相続財産から差し引くことができるため、支払う側の相続税は少し安くなります。
しかし、特別寄与料の話し合いが長引き、すでに相続税の申告と納税を終えているケースも少なくありません。
その場合は、金額が確定したことを知った日の翌日から4か月以内に税務署へ「更正の請求」という手続きを行うことで、払いすぎた税金を取り戻すことができます。
寄与分が認められるかの判断や金額の計算は難しく、相続人同士の大きなトラブルに発展しやすい問題です。

もし、自分の介護や手伝いをしてくれた特定の家族に多く財産を残したいなら、生前に「遺言書」を作っておくのが最も確実です。
特定の相手に遺産を多く渡す法的な効力を持たせるには、遺言書の本文にどの財産を誰に渡すのかをはっきりと書いておく必要があります。
その上で、遺言書の「付言事項」という部分に、その人がどんな貢献をしてくれたのか、なぜ多く残すのかという理由や感謝の気持ちを書き添えましょう。
ただし、他の相続人の「遺留分(最低限保障された遺産の取り分)」まで奪うような内容にしてしまうと、かえってトラブルの原因になります。
遺留分に配慮して財産の配分を決めましょう。
遺産分割の話し合いの場で特定の人の貢献を考慮してもらうのは、遺言書がない限りとても大変です。
遺言書であなたの明確な意思を残しておくことで、残された家族が揉めるのを未然に防ぐことができます。