
会社を設立して個人の財産を法人に移すことで、相続税対策を有利に進めることができます。本記事では、生前贈与に代わる給与での財産移転や、生命保険枠の活用法など、会社設立による節税手法をわかりやすく解説します。
親から子へ個人の財産を移す場合、通常は「相続」「贈与」「売買」のいずれかの方法をとります。
当然ですが、それぞれに相続税、贈与税、所得税といった税金がかかってきます。
そこで検討したいのが、親が株式会社を設立して個人の資産を会社のものにする(自社株式に変える)という方法です。
資産を会社に移すと、子供への財産移転は「会社の株式」や「会社からの給与」という形で行うことになります。
実は、この仕組みが相続税対策として非常に有効なのです。
なぜなら、子供に会社から給与を支払う形にすれば、給与所得控除が使えるからです。
(給与所得控除の詳しい内容は、国税庁HPの「給与所得控除」に記載されています。)
親自身も会社から給与を受け取り、子供も役員や従業員にして給与を支払います。
これにより、親個人の所得税負担を圧縮しつつ、子供に対しては生前贈与と同じような効果をもたらすことができます。
しかも、単なる現金贈与よりも、給与として渡したほうが給与所得控除が使える分、税負担が軽くなるケースが多いのです。
さらに、2024年(令和6年)から生前贈与のルールが変わり、亡くなる前7年間の贈与は相続財産に持ち戻される(足し戻される)ことになりました。
※現在は移行期間中のため、完全に7年前まで持ち戻されるようになるのは2031年(令和13年)1月1日以降の相続からとなります。
しかし、給与による財産移転は贈与ではないため、この「持ち戻しルール」の対象外となるという大きなメリットもあります。
ただし、お子様に給与を支払う場合は、必ず「給与に見合った実際の働き(勤務実態)」が必要です。
名義だけで全く仕事をしていないのに給与を出していると、税務調査で否認され、みなし贈与と判断されるリスクがあるため十分に注意しましょう。
また、会社にすれば、相続財産は「株式の評価額」として相続することになります。
会社の株式が高くて相続税が高くなりそうな場合には、会社として適切に経費を使えば、その分利益が減って相続税は安くなることになります。
要するに会社の株式による評価の場合には、個人の土地や建物などに比べて、比較的評価額の調整がしやすいということです。

たとえば、親が個人で不動産賃貸業を営んでいる場合を考えてみましょう。
まず株式会社を設立し、その会社に親個人の不動産を売却します。
(この際、売却益が出れば個人の所得税がかかります。)
具体的には、不動産の売却代金相当額を出資して会社を作り、その資金で個人名義の不動産を買い取るという流れになります。
これにより、売却した不動産は会社名義の資産へと変わります。
結果として、親の持っていた「不動産」という資産が、「その不動産を持っている会社の株式(取引相場のない株式)」に姿を変えることになります。
会社設立(法人化)を利用した相続税対策には、メリットだけでなくデメリットも存在します。
いわゆる株式の評価を通じて相続税対策をすることには、全体を俯瞰した判断が必要です。
会社設立での相続税対策のメリット
会社設立での相続税対策のデメリット
特に注意したいのが、社会保険料の負担です。
給与を支払うことで所得税や贈与税の節税になっても、会社と個人で折半する社会保険料の負担が重くのしかかるケースがあります。
トータルで見て本当に得になるのか、事前にしっかりとシミュレーションを行うことが重要です。
また、個人から会社へ不動産を移す(売却する)際には、登録免許税や登記費用、不動産取得税、建物の場合はさらに消費税、売却益が出た場合には所得税がかかります。

このように、株式会社を設立して相続税対策をする場合には、相続税や贈与税はもちろん、所得税、法人税、消費税、登録免許税や不動産取得税、各種手数料なども考慮する必要があります。
メリットは大きいですが、様々なコストを総合的に計算して慎重に判断することが大切です。
亡くなった際に受け取る死亡保険金には、法定相続人1人につき500万円までの非課税枠が用意されています。
たとえば、相続人が配偶者と子供2人の場合、1,500万円までは相続税がかかりません。
会社を設立すると、この非課税枠に加えて「死亡退職金の非課税枠」も使えるようになります。

実は、会社から支払われる死亡退職金にも、生命保険金と全く同じように法定相続人1人につき500万円までの非課税枠があるのです。
この「死亡退職金」の制度をうまく使います。
対策としては、会社を設立したのち、個人が受取人となる生命保険と、会社が受取人となる生命保険の両方に加入します。
被相続人が亡くなった際、個人が受け取る保険金には生命保険金の非課税枠を使います。
一方、会社が受け取った保険金は、それを原資として遺族に死亡退職金として支給します。
これにより、遺族が受け取る死亡退職金に対して死亡退職金の非課税枠を適用できるのです。
つまり、生命保険金と死亡退職金の2つの非課税枠をダブルで活用でき、実質的に非課税枠を2倍に広げることが可能になります。
ただし、支払う死亡退職金は、生前の会社への貢献度(役職や勤続年数など)に見合った適正な金額でなければなりません。
さらに、適正な金額であることに加え、株主総会の決議や退職金規程の整備など会社としての正式な手続きを踏むことが非常に重要です。
もし個人で土地建物を所有して事業を営んでいるなら、事業を法人化(法人成り)し、その法人に建物を貸し付けるという形にすると節税につながります。
建物の所有者と法人の代表者が同じ人物であっても、法律上は別の人格として扱われるため問題ありません。
法人に建物を貸し付けることで、その建物の相続税評価額は「貸家」扱いとなり、原則として3割も評価額が下がります。
詳しくは、建物の相続税評価額の計算方法は?自宅・賃貸アパート・空室時のルールに記載していますが、貸家の評価額は、自分で使っているとした場合の評価額から借家権の価額を差し引いた金額となります。
さらに、その建物の敷地(土地)も「貸家建付地」という扱いになり、概ね2割前後の評価減が見込めます。
土地の評価の詳細は、【図解】自用地・貸家建付地・貸宅地の違いと相続税評価額の基本をご確認ください。
ただし、この評価減のメリットを受けるには、会社から個人へ世間相場に応じた「適正な家賃」が支払われている必要があります。
身内の会社だからといって無料で貸してしまうと(使用貸借)、自分で使っているのと同じ扱いになって評価額は1円も下がらないので十分に注意しましょう。
なお、実務上の相続税対策では「建物を法人に買い取ってもらい、土地だけを個人名義で貸す」という手法もよく使われます。
個人の手元に家賃収入が貯まり続けて相続財産が膨らむのを防ぐ効果があるため、状況に合わせて最適な方法を検討してください。
会社設立を利用した相続税対策について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
通常、親から子に財産を移転するときは、それが贈与であれば贈与税、相続であれば相続税、売買という形をとれば、所得税がかかります。
これらの税負担を軽減するための方法として、親が会社を設立し、親の個人資産を会社名義にする、という方法があります。
会社名義にした財産は、お子さんなどを役員にすることで、給与として、お子さんらに支払うことができます。
給与として受け取ったお金にも、所得税はかかりますが、給与の場合は、給与所得控除を差し引いた、残りの金額しか、所得税の対象になりません。
つまり、給与として会社から個人にお金を支払えば、支払う度に、給与所得控除額の分だけ、非課税で渡しているのと、同じことになります。

では、会社を設立して、相続が発生したとき、会社にある財産はどうなるのか?というと、株式の評価額で、遺族などが相続することとなります。
株式の評価額は、会社の財務状況がよければ高くなり、よくなければ、低くなります。
もし、株式の評価額が高ければ、経費を沢山使って、利益を減らすことにより、評価を低くすることも可能です。
では、どのようにして、個人名義の資産を会社名義に移すか?
というと、たとえば、個人で営む不動産賃貸業を会社にする場合は、個人名義の賃貸用不動産を、個人から会社に売却する、という形をとります。
売却代金に相当する資金を出資して会社を設立し、その資金を不動産の買い取りに充てる、という流れで行うとよいでしょう。
それから、会社を設立したときに、ぜひ活用していただきたい節税策が、死亡退職金です。
死亡退職金として、会社から遺族に支払われた金額は、500万円に法定相続人の数をかけた金額まで、相続税が非課税になります。
おすすめしたいのは、会社が受取人となる生命保険に加入し、会社が受け取った保険金を、死亡退職金として、遺族に支給する、という方法です。
生命保険を使った相続税対策には、個人で加入する生命保険金の非課税額を使ったものが、よく知られていますが、この死亡退職金の非課税額は、個人の生命保険金の非課税額と、併用することができます。
つまり、会社と個人の両方で、生命保険に加入しておけば、保険金の非課税額を2倍にできる、ということです。
ここまで聞くと、会社の設立にはメリットしかないように思えますが、デメリットもあります。
まず、会社を設立するには、設立費用がかかります。
また、個人から会社に不動産を売却するのであれば、不動産売買にともなって、登録免許税や登記費用、不動産取得税、建物の価格に対する消費税もかかります。
また、会社を設立すると、毎年、法人税、法人事業税、法人住民税の税務申告が必要です。
さらに税金については、たとえ赤字でも、法人住民税の均等割を支払わなければなりません。
税金だけでなく、社会保険の加入義務も発生するため、毎月の保険料の支払いも発生します。
こうしたデメリットもあることから、相続税対策としての会社設立は、設立や運営にかかる費用と、節税できる金額をよく比較した上で、判断しなくてはなりません。
会社設立による相続税対策は、相続の専門家に相談しましょう。