
相続税対策をせずに会社株式の遺産分割を迎えることは、節税の観点から望ましくありません。さらに、会社の意思決定において、次期社長以外の相続人から影響を受けるリスクも発生します。
被相続人の生前に、何も相続税対策をせずに相続を迎えてしまうケースがあります。
生前、被相続人は会社を営んでおり、そこで働いていた長男がそのまま会社を相続すると誰もが思っていました。
しかし、いざ相続が始まると他の財産がなく、唯一の遺産が会社の株式であることが判明しました。

有効な遺言書もなく、長男に会社の株式全てを相続させることができず、長男・次男・三男で3分の1ずつ株式を遺産相続することになってしまいました。
このように被相続人が経営していた会社の株式を「取引相場のない株式」といい、これらも立派な相続財産となります。
会社の株式なんて見たことがない、という方も多いかもしれません。
現在の会社法では、株券を発行しない「株券不発行」が原則となっているため、株券がないことは珍しくありません。
株券がない場合は、株主名簿の記載などで所有者を確認できます。
ここで注意が必要なのは、税務調査で非常に問題になりやすい「名義株」の存在です。
たとえば、株主の名義は妻や子供になっていても、実質的な所有者が社長(被相続人)であるとみなされた場合、名義にかかわらず遺産相続の対象として多額の相続税がかかる恐れがあります。
名義株についての詳しい内容は、税務調査で狙われる「名義株」とは?バレる理由と認定を回避する対策をご覧ください。
この「取引相場のない株式」の評価は、会社の規模などにより「純資産価額方式」「類似業種比準方式」「配当還元方式」といった方法に分かれます。
これらの評価方法や計算は非常に複雑です。
詳しい評価方法は、初心者向け:非上場株式(自社株)の相続税評価はどう計算する?に記載しています。
確実に言えることは、被相続人の生前にある程度でも株式の評価額を算定しておかなければならないということです。
いざ相続開始となった時に評価額が跳ね上がり、多額の相続税が発生して大変なことになるケースが少なくありません。
事前の相続税対策はもちろん重要ですが、取引相場のない株式の場合は「誰が相続するのか」という経営的な視点がそれ以上に大きな問題となってきます。
相続財産として会社の株式しかない場合、法定相続人の間で株式を共有して相続することがあります。
こうなると会社運営において、会社経営に携わっていない相続人の意思も尊重しなくてはならなくなります。
例えば、取締役等の選任や解任といった株主総会の決議には、議決権の過半数の賛成が必要です。
定款変更や合併などの重要な特別決議には、議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。
つまり、重要事項を決める場面ほど、会社経営に携わっていない他の相続人の同意が必要不可欠になってしまうのです。
これでは、次期社長が迅速で自由な意思決定を行うことができず、会社経営に大きな支障をきたす恐れがあります。
有効な遺言書がない場合、遺産分割協議を行って株式の相続先を決めることになります。
しかし、遺産分割協議は法定相続人全員の合意が必要です。
もし一人でも「次期社長が株式の全てを相続すること」に反対すれば、スムーズに相続できません。
一方で「次期社長予定の相続人に全ての株式を相続させる」旨の遺言書があれば状況は大きく変わります。
たとえ他の法定相続人の遺留分(最低限の取り分)を侵害していたとしても、遺言があれば会社の株式を分散させずに全て引き継ぐことが可能になります。
ただし、株式を引き継いだ後継者は、遺留分を侵害された他の相続人へまとまった現金を支払う必要があります。
自社株はすぐに換金できないため、支払いのための資金(生命保険など)もセットで生前対策しておくことが重要です。
取引相場のない株式については、生前にいくつかの対策を行っておくことが推奨されます。
まず、遺言書で株式の相続人を指定する方法があります。
次に、生前に後継者へ株式を贈与する方法です。
この場合、事業承継税制による税の猶予や免除の活用も検討するとよいでしょう。
特に、事業承継税制の強力な特例措置を受けるための特例承継計画の提出期限は、2027年9月末まで延長されました。
しかし、実際に株式の贈与や相続を実行する適用期限は2027年12月末のままであり、準備期間を考慮すると大至急の対応が必要です。
さらに、家族信託を利用して議決権を集約するという手段もあります。
このようにして、相続開始後に会社株式を遺産分割協議の対象にさせないことが非常に重要です。
会社の未来と円滑な事業承継のためにも、早期に相続税対策や承継プランの検討を開始しましょう。

会社株式の遺産分割方法について、税理士法人 都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
会社経営者の相続財産が、自分の会社株式しかない場合、こちらは遺言書の有無が後継者の経営を左右いたします。
例としまして、会社経営者をAさんとします。
Aさんは経営する会社の株式しか遺産がありません。
その株式は上場していませんので、これを「取引相場のない株式」と言います。
相続人はB、C、Dで、Aさんは会社株式を全部、後継者であるBさんに相続させたいと思っていましたが、遺言を書く前に亡くなってしまいました。
この遺言書がなければ、唯一の遺産である会社株式は分割協議の対象となりまして、多くの場合は相続人3人、B、C、Dの3人ですね、この共有となります。
すると、後継者のBさんは、何か大きなことを決めようとするたびに、Cさん、Dさんの承認をもらわなければならないことになり、自由な会社経営ができなくなります。
こうした事態は、Aさんが事前に有効な遺言書を作成することで避けることができます。
Bさんが次期社長予定の相続人であること、全部の株式をBさんに遺産相続させる、という有効な遺言書があれば、BさんはCさん、Dさんに、遺産相続の最低分である遺留分に相当するお金を払って、全部の会社株式を相続することができます。
取引相場のない株式を持っている会社経営者は、早めに株式の評価額を算定して、有効な遺言書を作成し、第三者の執行人を指名しておくことが必要となります。