節税や経営の面から「会社株式は生前に対策」をする

会社株式の遺産分割方法や注意点などについて、解説しています。

相続税対策をせずに被相続人死亡後の会社株式の遺産分割は危険

被相続人の生前に、何も相続税対策をせずに相続を迎えてしまった。

生前、被相続人は会社を営んでおり、そこで働いていた長男が会社を相続すると誰もが思っていた。

しかし、いざ相続が始まると、被相続人に財産らしい財産がなく、唯一の遺産が会社の株式であることが判明。

会社株式
会社株式
自動車や家具、衣類や書籍などの動産も相続財産

遺言書もなく、長男に会社の株式全てを相続させることが出来ずに、長男・次男・三男と1/3ずつ株式を遺産相続することに。

このように被相続人が経営していた会社の株式を、「取引相場のない株式」といい、これも相続財産となります。

相続財産?

会社の株式なんて見たことないよ。

株券がないことは珍しくありません。

むしろ、新会社法施行後は株券不発行が原則となっています。

株券がない場合は、株主名簿の記載で確認できます。

被相続人が会社を経営していても、株主が別の場合には、この株式は遺産相続の対象にはなりません。

あくまでも、被相続人が所有していた株式のみが対象です。

また、株券が発行されており、その株券を他の人が所有・保管していたとしても、実態は被相続人の株式である場合には、遺産相続の対象になります。

ちなみに以前は、株式を誰が占有(所有)していたかにより、相続財産になる・ならない、がありました。

以前は株式は株券のことであり、譲渡することは株券の移動を意味していたからです。

しかし、今では株券不発行が原則なので、そのようなことはありません。

ただし、会社に対する株主の名義だけが被相続人であり、実態は他の人が所有している場合などには名義株となり、その会社の株式は被相続人の遺産ではありません。

名義株についての詳しい内容は、名義株も税務調査で問題になりやすいに記載しています。

この取引相場のない株式の評価は、会社の規模などにより以下のような方法に分かれます。

  1. 純資産評価方式
  2. 収益還元方式
  3. 配当還元方式
  4. 類似業種比準方式

詳しい評価方法は、取引相場のない株式評価に記載していますが、簡単に言えることは、取引相場のない株式の評価は非常に複雑ということです。

なので、被相続人の生前にある程度でも株式の評価額を算定しておかないと、いざ相続開始となったら大変なことになる(評価額が高く相続税が高くなる)場合も少なくありません。

そして、節税という観点から、事前に相続税対策はもちろん必要ですが、取引相場のない株式の場合は、それ以上に誰が相続するのか?というのが問題になってきます。

誰が会社を経営するのか?の視点が重要

相続財産として会社の株式しかない場合、法定相続人の間で、株式を共有して相続する場合があります。

こうなると会社運営において、会社に携わっていない相続人の意思も尊重しなくてはならなくなります。

例えば、

  • 取締役等の選任や解任には、株式の2分の1超の議決が必要
  • 定款変更や合併などの決議には、株式の3分の2以上の議決が必要

となります。

会社経営
会社経営
自由な会社経営が出来なくなります。

重要事項ほど、会社に携わっていない相続人の同意が必要となってきます。

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会社株式は遺産分割協議の対象にさせないことが重要

遺言がないと、遺産分割協議の上で、株式の遺産相続を決めることなります。

そして、遺産分割協議は法定相続人全員の合意が必要です。

一人でも、次期社長予定の相続人が株式の全て(もしくは過半数など)を相続するのに反対すれば、相続出来ません。

他の相続人に株式の代償金を支払ったとしても、100%遺産相続できる保証はありません。

ただ、次期社長予定の相続人に全ての株式を遺産相続させる旨の遺言書があれば、他の法定相続人の遺留分を侵害していたとしても、遺留分の対価を弁償することなどにより、会社の株式全てを遺産相続することが可能になってきます。

取引相場のない株式は、

  • 遺言書で相続人を指定する
  • 生前に贈与する
  • 家族信託を利用する

などして、相続開始後に遺産分割協議の対象にさせないことが重要です。

遺産分割協議
遺産分割協議
相続開始後に会社株式が遺産分割協議の対象にならないことが重要

そのためにも、早期に相続税対策を開始することが重要です。

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動画で解説

会社株式の遺産分割方法について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

会社株式の遺産分割方法

動画内容

会社経営者の相続財産が、自分の会社株式しかない場合、こちらは遺言書の有無が後継者の経営を左右いたします。

例としまして、会社経営者をAさんとします。

Aさんは経営する会社の株式しか遺産がありません。

その株式は上場していませんので、これを「取引相場の無い株式」と言います。

相続人はB、C、Dで、Aさんは会社株式を全部、後継者であるBさんに相続させたいと思っていましたが、遺言を書く前に亡くなってしまいました。

この遺言書がなければ、唯一の遺産である会社株式は分割協議の対象となりまして、多くの場合は相続人3人、B、C、Dの3人ですね、この共有となります。

すると、後継者のBさんは、何か大きなことを決めようとするたびに、Cさん、Dさんの承認をもらわなければならないことになり、自由な会社経営が出来なくなります。

こうした事態は、Aさんが事前に有効な遺言書を作成することで避けることが出来ます。

Bさんが次期社長予定の相続人であること、全部の株式をBさんに遺産相続させる、という有効な遺言書があれば、BさんはCさん、Dさんに、遺産相続の最低分である遺留分に相当するお金を払って、全部の会社株式を相続することができます。

取引相場の無い株式を持っている会社経営者は、早めに株式の評価額を算定して、有効な遺言書を作成し、第三者の執行人を指名しておくことが必要となります。