
不動産の遺産分割には、相続税対策(小規模宅地等の特例の適用など)を考慮してどのように分割するか?その他に、不動産の評価額をどの方法で話し合うか?ローンが残っている場合は?といった論点があります。
相続が発生すると、その時点において遺産は全て相続人間での共有(持分割合は各自の法定相続分)となります。
土地や建物などの不動産も例外ではありません。
ちなみに、この状態を遺産分割前の共有と言います。
そして、その後に遺産分割協議などを経て、単独所有にするか、あるいはそのまま共有にするかを決定します。
誰がどの財産を引き継ぐか確定すると、その効力は相続開始の時(被相続人が亡くなった日)に遡ります。

ただし、例えば遺産分割前に財産Aを差し押さえられたり、財産Bを共有した状態で売却した場合には、後の遺産分割で「財産Aは○○さん、財産Bは△△さんのもの」と勝手に決めることはできません。
いくら相続開始の時に遡るとはいえ、相続人でない第三者の権利を害することはできないためです。
そのような場合には、すでに対象から外れてしまった財産を除いた状態で遺産分割する必要があります。
そして、遺産の中で特に大きな存在となるのが不動産です。
不動産の遺産分割には
といった論点があり、金額も大きくなるため非常に揉めやすい遺産と言えます。
また、近年では
などの理由により、そもそも「不動産を相続したくない」という方も少なくありません。
その場合には
などの方法を検討することになります。
不動産をどう分割するかについては、小規模宅地等の特例が使えるのか、土地を切り分けて(分筆して)相続するのかといった、相続税対策も考慮して慎重に判断する必要があります。
【重要】法改正による放置リスクの高まり
さらに、2024年(令和6年)4月1日より相続登記が義務化されました。
遺産分割協議などで不動産を取得したと知った日から3年以内に名義変更(相続登記)を行わないと、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
また、2023年(令和5年)4月からは「遺産分割の10年ルール」も開始されました。
これは相続開始から10年を経過すると、生前の援助(特別受益)や介護の苦労(寄与分)といった個別の事情が考慮されなくなり、話し合いが揉めた場合には原則として法定相続分をベースにした画一的な分割となってしまうというものです。
これらのルール変更により、不動産の相続手続きを長期間放置するリスクは非常に高まっていますので、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
不動産を遺産分割する際に、「どの金額を基準にして話し合うのか?」という評価方法の問題があります。
通常は、相続税の申告の際に計算した評価額をもとに話し合うことが多いですが、必ずしもその金額で遺産分割をしなければならないわけではありません。
遺産分割の話し合いで基準となる評価方法(価格)には、主に以下の4つがあります。
実務においては、費用や手間の観点から「相続税評価額」や不動産会社による「実勢価格(査定価格)」をベースに遺産分割の話し合いを進めるのが一般的です。
不動産の評価額は、どの方法(価格)を採用するかによって金額が大きく異なってきます。
相続税の申告においては、原則として「相続税評価額(路線価など)」で計算した金額で申告する必要があります。
※なお、2024年(令和6年)1月より、居住用マンションの相続税評価額の算出ルールが変更されました。市場価格と相続税評価額のズレが大きいマンション(いわゆるタワマンなど)については、評価額が引き上げられる可能性があるため、遺産分割や申告の際には特に注意が必要です。

遺産分割協議においても、この相続税申告用の評価額をそのまま使って話し合いが行われることがよくあります。
しかし、ここに思わぬトラブルの種が潜んでいる場合があります。
例えば、長男が土地Aを相続し、次男が現金を相続することになったとします。
相続税評価額では土地Aが3,000万円だったので、次男も現金3,000万円を受け取り、一見平等に分けたように見えます。
ところが、土地Aの実勢価格(実際に売れる金額)が実は5,000万円だった場合どうでしょうか。
長男は実質的に5,000万円の価値がある財産を手に入れたことになり、次男から見れば「長男の方が多くもらっていて不公平だ」と不満を持つ原因になります。

遺産を平等に分割したい場合は、実際の価値に近い「実勢価格(時価)」を基準にするのが最も公平です。
ただし、相続人全員が納得しているのであれば、「固定資産税評価額」や「相続税評価額」を使って分割協議をまとめること自体は問題ありません。
大切なのは、後々「不公平だ」と言われないよう、相続人全員が納得できる評価方法で遺産分割をすることです。
遺産には、現金や不動産などの「プラスの財産」だけでなく、被相続人の借金やローンなどの「マイナスの財産(消極財産)」もあります。
不動産に住宅ローンが残っている場合、パニックになる前に、まずは亡くなった方が「団体信用生命保険(団信)」に加入していなかったかを確認しましょう。
一般的な住宅ローンでは、契約時に団信に加入していることがほとんどです。
団信に加入していれば、被相続人の死亡と同時に保険金でローンが完済されるため、そもそも借金(マイナスの財産)として相続人に引き継がれることはありません。
まずは金融機関に状況を確認することが最優先です。
もし団信に加入しておらず、ローンが残ってしまう場合、マイナスの財産は原則として相続人全員が法定相続分に応じて引き継ぐ(負担する)ことになります。
ここでよく誤解されるのが、特定の人が不動産と一緒にローンも丸ごと引き継ぐというケースです。
遺産分割協議で「長男が不動産とローンの両方を相続する」と決めたとしても、その決定だけで自動的に他の相続人の返済義務がなくなるわけではありません。
長男が不動産を相続し、長男がローンを払っていくと身内で決めたとしても、それはあくまで「相続人間での約束」に過ぎず、銀行などの金融機関には対抗(主張)できないのです。
万が一長男がローンの支払いを滞納した場合、銀行は次男に対しても法定相続分の割合で返済を求めることができます。
「自分は不動産をもらっていないから払いません」とは言えない点に注意が必要です。

特定の相続人(例えば長男)だけをローンの債務者にし、他の相続人を返済義務から完全に解放するためには、銀行などの金融機関の審査を受け、正式に承諾を得る手続き(免責的債務引受など)が必要となります。
(※この際、ローンを引き継ぐ人に十分な収入などの返済能力があるかどうかが金融機関によって審査されます。単に「親の家を継ぐから」という理由だけでは承諾されないケースもある点に注意しましょう。)
金融機関がそのままの条件で免責的債務引受をすんなり認めてくれるケースは意外と多くありません。
そこで実務上よく取られる解決策が、「家を相続する人が自分の名義で新しくローンを組み直し(借り換え)、そのお金で親のローンを一括返済する」という手法です。
新たにローンを組む人の収入などから返済能力が審査されますが、この借り換えができれば、他の相続人はローンの心配から完全に解放されます。
また、ローン返済中の不動産には「抵当権(不動産を担保にとる権利)」が設定されているのが普通ですが、考え方は同じです。
抵当権自体は借金(債務)そのものではなく「万が一返済が滞ったときに不動産を競売にかける権利」ですが、誰が不動産を相続しても、ローンの返済義務は原則として相続人全員で背負うことになります。
ただし、もし支払いが滞ってしまい、銀行が抵当権を実行してその不動産が売却(処分)され、その売却代金でローンがすべて完済された場合には、結果として借金が消えるため他の相続人への影響はなくなります。
不動産の遺産分割方法について、税理士法人 都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
一般的に相続財産に不動産があると、分割方法で相続人同士が揉めやすくなります。
これには主に3つの理由があります。
1つ目は不動産価格を評価する方法が複数あるため
2つ目はその不動産にローンが残っているため
3つ目はそもそも不動産を相続したくないため
この3つです。
はじめに、相続財産として不動産を評価する時、その方法が5種類もあるのをご存じでしょうか。
一般的には相続税の財産評価方法を使いますが、その評価額が同じ地域で似たような条件の土地の価格と違う場合もあります。
このため長男は「この不動産は相続税の財産評価では3,000万円だ」
一方、次男は「この不動産は5,000万円はする」といったように、相続人間で考えている不動産の価格が違うことが起こります。
次に不動産にローンが残っていた場合、ローンは長男と次男が引き継いだ遺産の割合で引き継がれます。
不動産をもらった長男も、不動産をもらっていない次男も、不動産のローンを支払わなければなりません。そして、
・そもそも空き家である
・そこに住む予定がない
・住む場合、大幅なリフォームが必要
・賃貸収入が見込めない(もしくは減少していくことが予想される)
・不動産の管理が面倒
などの理由により、そもそも不動産を相続したくない相続人も少なくありません。
このように遺産に不動産があると、遺産分割で揉めやすくなります。
相続に関するお悩みなら、税理士法人 都心綜合会計事務所にお任せください。