不動産の遺産分割は何かと大変
相続が発生すると、その時点において、遺産は全て相続人間の共有(持ち分割合は各自の相続分)となります。
土地や建物などの不動産も、例外ではありません。
ちなみに、この状態を「遺産分割前の共有」と言います。
そして、その後に遺産分割協議などを経て、単独所有にするか・あるいはそのまま共有にするか、を決定します。
持ち分が確定すると、その効力は相続開始の時に遡ります。
ただし、例えば遺産分割前に財産Aを差し押さえられたり、財産Bを共有した状態で売却した場合には、後で遺産分割で財産Aは○○さん、財産Bは△△さんとすることは出来ません。
いくら相続開始の時に遡るとはいえ、相続人でない第3者の権利を害することは出来ません。
そのような場合には、財産Aや財産Bを除いた状態で、遺産分割する必要があります。
そして、遺産の中で大きな存在となるのが不動産です。
不動産の遺産分割は、
- 分割方法
- 分割の際に採用する評価方法
- ローンが残っている場合のローンの取り扱い
といった論点があり、また金額も大きくなる場合があるので、揉めやすい遺産となります。
また、近年では
- 空き家
- 賃貸収入の減少
- リフォームが必要
などの理由により、そもそも「不動産を相続したくない」という方も少なくありません。
その場合には、
などの方法があります。
不動産の遺産分割方法については、小規模宅地等の特例が使えるのか、土地を分筆して相続するのか、といった相続税対策も考慮する必要があります。
遺産分割での不動産評価方法は5つ
不動産を遺産分割する際に、どの評価方法でその不動産を評価するのか?といった問題もあります。
通常は、相続税の申告の際にして計算した評価額をもってすることがほとんどですが、この「評価額を元に遺産分割をしないといけない」わけではありません。
評価方法には、以下のようなものがあります。
- 比較法
- 収益法
- 原価法
- 相続税の財産評価方法
- 時価鑑定(不動産鑑定士)
比較法とは、同種の不動産が市場において取引されている価格と比較して、不動産の評価額を計算する方法です。
- 東京なら東京都宅地建物取引業協会発行の東京都地価図都市計画図
- 大阪なら大阪府宅地建物取引業協会発行の大阪府宅地価格地点図
などをベースに、比較評価することが多いようです。
収益法とは、その不動産の利用より得られるであろう収益を期待利回りで除して、資本還元することにより評価額を計算する方法です。
原価法とは、不動産の再調達原価について減価修正を行って、評価額を計算する方法です。
相続税の財産評価方法とは、土地なら路線価方式や倍率方式、家屋なら固定資産税の評価額を用いて計算する方法です。
時価鑑定とは、不動産鑑定士による時価評価で、評価額を計算する方法です。
通常は相続税の財産評価方法で計算した評価額で、遺産分割するのが一般的です。
裁判所での遺産分割調停の場合には、比較法・収益法・原価法の3つの方法を用いて総合的に判断しているようです。
どの評価額を採用するかで相続トラブルに発展
不動産の評価額は、計算方法によって金額が異なってきます。
相続税の申告の際にしては、原則、相続税の財産評価方法で計算した金額で申告する必要があります。
ただし、著しく時価が相続税の財産評価方法で計算した金額よりも下回る場合は、時価(いわゆる不動産鑑定士が査定した金額)で申告する場合があります。
この場合、この時価を元にして遺産分割協議が行われるのが普通です。
このような時に問題が発生する場合があります。
本来であれば、路線価や固定資産税の評価額を用いた、相続税の計算方法で算出した評価額を元にして、遺産分割協議します。
ただ、相続税対策を進めていく中で、どうやら土地Aの時価が著しく低いことが判明。
節税にもなるので、土地Aは時価評価で申告し、遺産分割もその金額で行った。
一見何の問題もなそうですが、遺産を平等に分割する場合には、実質的にはその土地Aを遺産相続する方の取り分が増えます。
土地Aの評価額が下がることにより、その他の財産も遺産相続できることになるからです。
確かに全体での相続税額は節税になりますが、他の相続人からみると、土地Aを時価評価した金額で遺産分割することにより、遺産の取り分が減ります。
なので、相続人全員が納得できる評価方法で、遺産分割をすることが賢明です。
ローン返済中の不動産の遺産分割方法
財産には現金や不動産などの積極財産と、被相続人の借金などの消極財産があります。
そして、この借金などの消極財産は、相続人全員が相続分に応じて相続するのが一般的です。
また、借金などの債務の相続については、法定相続分と異なる債務の分割は、債権者に対抗出来ません。
どういうことかと言いますと、Aさんが不動産を相続し、Bさんがそのローンを相続しました。
なので、Aさんはローンをその債権者に対して支払う義務はありません。とはいきません。
債務だけを別の相続人に相続させて、その債務から逃れるということは出来ません。(債権者からの承諾があれば別です。)
ただし、その遺産分割の内容そのものは相続人の間では有効です。
また、抵当権(ローン返済中の不動産は、抵当権が設定されているのが普通です。)付きの不動産を相続していても同じです。
抵当権も確かに債務ですが、ローンとは別扱いとなります。
なので、ローンの債務は相続人全員が、相続分に応じて責任を負うことになります。
ただし、支払いが滞り、その抵当物件が処分されローンが消えた場合には、他の相続人への影響はありません。
不動産の遺産分割方法を動画で解説
不動産の遺産分割方法について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
一般的に、相続財産に不動産があると、分割方法で相続人同士が揉めやすくなります。
これには主に3つの理由があります。
1つ目は、不動産価格を評価する方法が複数あるため
2つ目は、その不動産にローンが残っているため
3つ目は、そもそも不動産を相続したくないため
この3つです。
はじめに、相続財産として不動産を評価する時、その方法が5種類もあるのをご存知でしょうか。
一般的には相続税の財産評価方法を使いますが、その評価額が、同じ地域で似たような条件の土地の価格と違う場合もあります。
このため、長男は、「この不動産は、相続税の財産評価では3000万円だ」
一方、次男は、「この不動産は、5000万円はする」といったように、相続人間で考えている不動産の価格が違うことがおこります。
次に、不動産にローンが残っていた場合、ローンは長男と次男が引き継いだ遺産の割合で引き継がれます。
不動産をもらった長男も、不動産をもらっていない次男も、不動産のローンを支払わなければなりません。そして、
・そもそも空き家である
・そこに住む予定がない
・住む場合、大幅なリフォームが必要
・賃貸収入が見込めない
もしくは、減少していくことが予想される
・不動産の管理が面倒
などの理由により、そもそも不動産を相続したくない、相続人も少なくありません。
このように、遺産に不動産があると、遺産分割で揉めやすくなります。
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