
遺産分割をめぐる親族間の話し合いがまとまらず、対立してしまうケースは決して珍しいことではありません。当事者同士の協議がどうしても平行線をたどる場合は、家庭裁判所の手続きを利用して解決を目指すことになります。家庭裁判所を介入させることで、最終的には必ず法的な決着をつけることが可能です。ただし、一度決定した内容については、後から個人的な不満で覆すことは原則として認められません。この記事では、家庭裁判所における調停や審判の手続きの流れ、初心者が必ず知っておきたい最新の法改正のポイントについてわかりやすく解説します。
相続人同士の話し合いで解決の糸口が見えない場合、まずは家庭裁判所へ「遺産分割調停」の申立てを行います。
遺産分割調停とは、裁判官と民間から選出された2名の調停委員が間に入り、妥協点を探るための話し合いをサポートしてくれる制度です。
調停委員は男女1名ずつで構成されることが多く、異性には相談しにくいデリケートな家庭の事情も話しやすいよう配慮されています。
手続き中は当事者が別々の控室で待機し、交互に調停室へ入って自分の意見を伝えます。
相手と直接顔を合わせずに済むため、感情的な対立を避け、冷静に話し合いを進められるのが最大のメリットです。
お互いが譲歩して全員が納得できれば、調停は無事に成立となります。
調停が成立すると法的な効力を持つ「調停調書」が作成され、正当な理由なく約束を破ることはできなくなります。
ここで特に気をつけたいのが、2023年4月施行の法改正で導入された「10年」という期限の存在です。
相続開始から10年が経過すると、生前贈与(特別受益)や介護などの貢献(寄与分)を遺産の分け方に反映させることができなくなってしまいます。
つまり、特別な事情が考慮されず、原則として法律で決められた割合(法定相続分)だけで機械的に分割することになるのです。
ただし、全員の同意がある場合や、期限前に家庭裁判所へ調停などを申し立てておけば、10年を過ぎてもこれらの事情を考慮してもらうことが可能です。
なお、2023年4月より前に発生した相続については、相続開始から10年経過時、または2028年3月末日のどちらか遅い方まで猶予期間が設けられています。
当事者だけで話し合いを長引かせていると、取り返しのつかない不利益を被る恐れがあるため、まとまらない時は早めに調停へ移行することが極めて重要です。
何度調停を行っても全員の合意に至らず、これ以上の話し合いは難しいと判断された場合、調停は不成立となります。
調停が不成立になると、自動的に「審判」という次のステージへ移行します。
相手が裁判所からの呼び出しを無視して欠席し続けた場合も、話し合いの見込みがないと判断されて自動的に審判へ移行するため、手続きが永遠に止まってしまう心配はありません。
審判とは、当事者の話し合いではなく、裁判官がすべての事情や証拠をもとに法的な結論を強制的に言い渡す手続きです。
審判に移行すると、自分たちの意思とは無関係に結果が下され、原則として全員がそれに従わなければなりません。
なお、最初から審判を申立てたとしても、まずは裁判所の判断で調停に回されるのが一般的です。
これを「付調停(ふちょうてい)」と呼び、いきなり裁判官が決めるのではなく、まずは話し合いの場を持つことがルールの原則とされています。
この付調停を経ても解決しなかった場合に、改めて審判の手続きが進められます。
もし、審判で下された決定にどうしても納得がいかない場合は、「即時抗告」という不服申立てを行うことができます。
この即時抗告は、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内に行う必要があります。
土日祝日も含めた2週間となるため、迷っている時間はほとんどありません。
申立て先は高等裁判所ですが、手続きの書類はもともとの管轄である家庭裁判所へ提出しなければならない点に注意が必要です。
この2週間の期限を1日でも過ぎてしまうと審判の内容は完全に確定し、後から異議を唱えることは一切できなくなるため、スケジュール管理は厳密に行いましょう。
遺産分割調停の申立ては、共同相続人など遺産を受け取る権利を持つ人が行います。
管轄となる裁判所は、原則として相手方のうち誰か一人の住所地を管轄する家庭裁判所、または全員の合意で決めた家庭裁判所です。
最近は裁判手続きのIT化が進んでおり、遠方に住んでいる場合などは、事前に許可を得ることでウェブ会議や電話会議を利用して自宅から参加できるケースも増えています。
申立てに必要な費用として、亡くなった方1名につき1200円分の収入印紙と、書類を送るための郵便切手(予納郵券)が必要です。
郵便料金の改定に伴い必要な切手の金額が変動しているほか、現金振込や電子納付を推奨する裁判所も増えているため、事前に管轄窓口へ確認してください。
提出書類は申立書や遺産目録のほか、亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本や住民票など多岐にわたります。
戸籍の束については、法務局で作成した「法定相続情報一覧図の写し」で代用することも可能です。
また、2024年3月に始まった「戸籍謄本等の広域交付制度」を使えば、本籍地以外の最寄りの役所でも、まとめて戸籍を取得できるようになりました。
これにより、親の出生から死亡までの戸籍も、一か所の役所でまとめて取得できる場合が多くなり、手続きの負担が大幅に軽減されます。
ただし、この便利な制度を利用するには、本人が写真付きの身分証明書を持って直接窓口へ行く必要があります。
郵送や委任状による代理請求はできず、司法書士などの専門家に依頼する場合も制度の対象外となります。
さらに、広域交付で取得できるのは本人や配偶者、直系親族の戸籍のみです。
結婚などで親の戸籍から独立した兄弟姉妹や甥姪の戸籍は、従来通り本籍地へ個別に請求しなければなりません。
なお、コンピュータ化されていない古い戸籍(一部の平成改製原戸籍など)は広域交付の対象外となる場合がある点にも注意が必要です。
家庭裁判所での調停や審判は、解決までに1年から2年以上かかることも珍しくありません。
一方で、2024年4月からは不動産の相続登記が義務化され、取得を知ってから3年以内に登記申請をしないと過料の対象となる恐れがあります。
2024年4月の制度開始より前に発生した過去の相続についても義務化の対象となり、原則として2027年3月末日までに登記をする必要があります。
なお、2026年4月からは不動産所有者の住所や氏名が変わった際の変更登記も義務化されており、変更から2年以内の申請が必要になるため、手続き漏れにはより一層の注意が必要です。
調停が長引いて期限内の遺産分割が難しい場合は、ひとまず「相続人申告登記」を行っておくことで、最初の3年の義務をクリアできます。
相続人申告登記とは、簡潔に言えば、「不動産の所有者が亡くなったこと」と「自分がその相続人であること」を法務局に申告するだけで、ひとまず相続登記の義務を果たしたとみなされる制度です。
その後、調停や審判で最終的な相続人が決まった日から3年以内に、改めて正式な相続登記を行わなければなりません。
家庭裁判所の手続きにおいて代理人を任せられるのは原則として弁護士だけですが、不動産の手続きには司法書士、税金の申告には税理士のサポートが不可欠です。
手続きが長期化して複雑になるのを防ぐためにも、各専門家が連携している相続の総合窓口へ早めに相談することをおすすめします。