相手に期待を抱かせるような発言は控える

遺産分割協議をやり直したりせずに、スムーズに終わらせるためには、いくつかコツがあります。

残念にも遺産分割協議でモメてしまっている。

一向に遺産分割協議がまとまらない。

その場合は遺産分割協議をまとめるにはをご参照下さい。

遺産分割協議をスムーズに終わらせる、もしくは一度まとまった遺産分割協議のやり直しを防ぐには、相手(他の相続人など)に期待を持たせるような発言をしないことです。

よくありがちなことなのですが、相続が発生して直ぐに

  • 私は相続財産はいらない(子供達だけで相続して)
  • 私はコレだけの財産でいい(ほかの財産は好きなように相続して)

と言った趣旨のことを、おっしゃる方がいます。

仮に本心でそう思っていても、相続が発生して直ぐに、そのようなことを発言してはいけません。

なぜなら、あなたがそう思っていても、あなたの配偶者はそう思っていないかもしれません。

後から配偶者がこう言っているから「やっぱり○○は・・」。

遺産分割協議が揉める原因になります。

また、あなたがこの財産はいらないと発言したその時から、他の相続人はその財産を当てにします。

財産を当てにする
財産を当てにする
他の相続人やその親族などは、あなたの発言によって、その財産を当てにし始めます。

これは人間であれば、誰しもそうなります。

そして、その他の相続人がその方の親族にも(配偶者などに)そのことを話していたら・・。

やはり、その親族(配偶者など)の方も、その財産に期待を抱きます。

そんな状態になって、やっぱり〇〇となったら?

もしくは、一度まとまった遺産分割協議のやり直しとなったら?

高い確率で、あの時言ったじゃないか!ということになりかねません。

発言撤回
発言撤回
相続財産の分割に関する発言撤回は、高い確率で揉めます。

そして相続税の計算をしたら、やっぱり私(相続しないと言った方)が相続したほうが安くなる、といったこともあります。

特に相続財産をいらないと言った方が配偶者の場合は、相続税の配偶者控除というものがあり、配偶者が相続するかしないかで大きく相続税額が変わってきます。

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どのような相続財産があり、どのくらいの相続税がかかるのか分からない状態で、相手に期待を抱かせるような発言は控えましょう。

人の気持ちは変わる

また、人の気持ちは変わります。

相続発生の直後は、まだ相続財産に対してリアリティを感じていない状態かもしれません。

でも、実際に遺産分割協議や相続相談、相続手続きを進めていくうちに、単なるデータであった相続財産がリアルに感じ始めます。

始めは欲しいと思っていなかった。

でも、やっぱり欲しい、ということは何も恥ずかしいことではありません。

欲しい
欲しい
やっぱり私も相続財産が欲しい!

問題なのは「私は〇〇はいらない」と発言してしまっていることです。

そして他の相続人やその親族の方達が、その〇〇の財産を期待していることです。

遺産分割協議をスムーズにする、遺産分割協議のやり直しを防ぐためにも、他の相続人に期待を持たせるような発言は控えましょう。

ちなみに遺産分割協議のやり直しは、相続人全員の合意があればできます。

ただ、相続税の申告後に遺産分割協議のやり直しをする場合には、所得税や贈与税が課税される可能性があります。

そういった意味からでも、遺産分割協議のやり直しが発生しないようにしましょう。

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遺産分割後に財産が出てきた場合

無事に遺産分割が終わったと思ったら、新たな遺産が出てきた。

このようなケースは少なくありません。

このような場合には

  1. 遺産分割協議を無効として一からやり直す
  2. 後から出てきた遺産のみを対象とした遺産分割をする

という2つのパータンがあります。

他の相続人の同意は必要ですが、後から出てきた遺産だけを分割することが可能です。

後から出てきた遺産だけを対象とした、遺産分割協議書を作成すれば、それまでに作成した遺産分割協議書を作り直す必要はありません。

もちろん後から出てきた遺産を追加して、遺産分割協議書を一から作り直すことも可能です。

ただ、このような事態をあらかじめ想定して、遺産分割協議書に「遺産分割協議後に発見された相続財産は〇〇が相続する」と記載し、対処することも可能です。

申告の観点から言えば、後から遺産が出てきた場合には、相続税の修正申告が必要となり、延滞税などが加算される可能性もあります。

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遺産分割協議のやり直しを防ぐ方法を動画で解説

遺産分割協議のやり直しを防ぐ方法について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴できます。

遺産分割協議のやり直しを防ぐには

動画内容

遺産分割協議のやり直しが、どのようなときにおこるのか、また、それを防ぐ方法についてお話しを致します。

遺産分割協議とは誰が何の財産を相続するか、ということを振り分けるための話し合いをいいます。

では、どのようなときにやり直しが必要になるのかというと、たとえば、当時は見つからなかった財産が新たに出てきたときや、相続人の気持ちが変わったときなどです。

まず、新しい財産が出てきたときの対応は2パターンあります。

遺産分割協議を一からやり直すか、後から出てきた新しい財産のみを対象とした遺産分割協議をやるか、というものです。

これはどちらでも構いません。

それから相続人の気持ちが変わったときにも、遺産分割をやり直すことがあります。

たとえば相続人のうち1人が、最初は「私は、これだけ相続できれば、あとはいらない」と話したため、それにしたがって遺産分割がまとまったのに、後からその人が「やっぱりもう少し欲しい」と言い出すような場合です。

このとき他の相続人が「それならやり直そう」と同意をすれば、遺産分割のやり直しとなります。

ただ、おそらくかなりの確率で「あのときいらないって言ったのに」と、揉めることになってしまうでしょう。

遺産分割のやり直しは、やり直し自体にかかる労力もそうですが、もめる機会を増やすことに繋がるため、できれば避けたいものです。

さらに遺産分割のやり直しには、税金上の問題が生じることもございます。

まず、新しい財産が出てきてやり直す場合、相続税の申告期限を過ぎていれば修正申告が必要になる場合があります。

もしそうなると、本来の相続税の額に延滞税や加算税が上乗せされる可能性があります。

それから相続人の気持ちが変わって遺産分割協議をやり直す場合、相続税の申告後は所得税や贈与税が課されることもございます。

このような面倒な話になる可能性もあるため、遺産分割のやり直しは好ましくない、ということが分かるかと思います。

では、どうすれば遺産分割のやり直しを避けることができるのでしょうか。

それは新たな相続財産が出てくることがないよう、生前のうちに遺産をしっかり確認しておくことが大切です。

本人や家族が協力して、生前のうちに財産目録を作成しておくと、把握していない財産がでてくる可能性はかなり低くなります。

また、遺言で「遺産分割後に発見された相続財産は誰々が相続する」という内容を残しておくのも手です。

そうすれば後から新たに少額な財産が出てきても、遺産分割のやり直しをすることなく、遺言書で指定された人が相続できます。

ただし、この場合でも相続税の修正申告などは必要になる可能性があるので、注意しておいて下さい。

それから相続人の心変わりですが、これは本人の問題ではありますが、防止するポイントがあります。

まず、どのようなときも「私はいらない」とか「これだけでいい」とかいうことを、先に自分から言わないということです。

それが自分の本心であっても、もし家に帰って、そのことを家族に話したら「ちゃんと権利は主張してきてよ」と言われるかも知れません。

そうすると「あの時はああ言ったけど、やっぱり私も遺産が欲しい」と言わなければならなくなります。

家族に言われる以外にも、心変わりすることはあり得ます。

実際に遺産分割を進めていくと、財産の存在をリアルに感じることになりますので、誰でも「やっぱりもう少しもらっておきたい」という気持ちになると思います。

これは人間として当たり前の感情ですから、何も恥ずかしいことはありません。

ところが相手にしてみれば、遺産をあてにして、あれこれ計算を始めているかもしれません。

この場合、遺産分割協議をやり直してほしいと頼んでも、同意してもらうのに時間がかかってしまいます。

遺産分割のやり直しにならずに済むよう、また、遺産分割自体をスムーズに終えられるよう、とにかく自分から相手に期待させるようなことを言わないこと、これが鉄則となります。