相続税対策のためにも未分割申告は極力避けるべき
未分割申告になると、相続税対策ができないうえ、財産の管理が面倒になる等、【損をする可能性が高く】なります。

未分割申告は損をする確率が高くなる
今回は、そんな遺産分割が申告期限までに「まとまらない場合」等に使う、未分割申告について、解説しています。
未分割申告になる主な3つのパターン
遺産分割が申告期限までにまとまらない場合には、未分割の状態で相続税の申告を申告期限内にします。
(通常、未分割申告と言われます。)
ちなみに民法では、遺産分割の期限はありません。
ただ、相続税の申告期限内(相続開始から10か月以内)に遺産分割できないと、分割していない財産は相続人の共有状態のままとなり、様々な特例などが使えない(相続税対策が出来ない)、財産の管理が面倒などのデメリットが発生します。
なので、一般的には遺産分割の期限と言えば、「相続税の申告期限」のことを指します。

一般的には遺産分割の期限と言えば、相続税の申告期限
では、未分割申告のデメリットがあるにも関わらず、なぜ未分割申告になってしまうのか?
大きく分けると、以下の3つのパターンがあります。
- 相続人間で争いが発生し、申告期限までに遺産分割がまとまらない
- 申告期限までに財産の把握が出来ていない
- あえて未分割で申告する
3は相続人の中に「20歳に近い未成年者がいる場合」に、あえて未分割で申告し、その未成年者が成人になるのを待って、遺産分割をする場合などです。
本来、未分割申告は極力避けるべきですが、上記の1~3のような理由により、未分割申告をせざるを得ない場合もあります。

未分割申告は極力避けるべきですが、せざるを得ない場合もあります。
ちなみに、未分割の遺産については、法定相続分や代襲相続分の割合に従って、その遺産を取得したものとみなして、相続税額を計算することになります。
未分割申告のデメリット
遺産分割が申告期限までにまとまらない場合は未分割申告となります。
ただ、未分割申告にはデメリットがあります。
遺産分割が難航している場合には、未分割申告のデメリットを相続人間で共有しましょう。

未分割申告のデメリットを相続人間で共有しましょう。
未分割申告のデメリット
- 税額軽減等に関する各種特例が使えない
- 基本的に物納が出来ない
- 納税猶予が適用されない
2の物納に関しては、共有者全員が持分全てを物納する場合には、物納の申請をすることは出来ます。
未分割申告によって使えなくなる各種特例
- 配偶者に対する相続税額の軽減
- 小規模宅地等についての相続税
- 特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例
- 特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例
- 農地等についての相続税の納税猶予
- 山林についての相続税の納税猶予及び免除
- 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除
- 医療法人の持分についての相続税の納税猶予及び免除
- 医療法人の持分についての相続税の税額控除
1~4については、申告期限までに遺産分割が確定してなくても、申告期限後3年以内の分割見込書を相続の申告期限内に提出すれば、未分割であった遺産が相続税の申告期限から3年以内に分割された場合、その分割された日から4カ月以内に更正の請求を行えば適用されます。

申告期限後3年以内の分割見込書を提出し、申告期限から3年以内に分割すれば、1~4の特例は使えます。
適用を受けることにより、納税済みの相続税額が多かった場合は、その多額であった部分の金額は【還付】されます。

納税済みの相続税額が多かった場合は、その多額であった部分の金額は還付されます。
5~9については、申告期限までに遺産分割が確定している必要があります。
申告期限を過ぎてから適用されるということはありません。
相続税対策などを考えると、未分割申告は極力避けるべきです。
また、長期にわたる遺産分割協議は相続人の精神的負担も高くなります。

長期にわたる遺産分割協議は相続人の精神的負担が高くなります。
遺産分割協議がまとまらない場合には、有効な相続税対策が打てなくなる可能性があることを意識しましょう。
動画で解説
未分割申告について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
突然ですが、遺産分割に期限はあるのでしょうか?
実は民法で、遺産分割の期限は定められていません。
ただ、相続税の申告期限というものがあります。
それは、ある方が亡くなった日、これを相続開始と言いますが、その日から10ヶ月以内、正確には、死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告をしなければなりません。
そのためにも、遺産分割を相続税の申告期限までにする必要があります。
けれども、どうしても申告期限までに、遺産分割がまとまらない場合もあります。
その場合には、未分割の状態で、相続税の申告をします。
このことを「未分割申告」と言います。
さて、分割していない財産は、相続人全員が権利を持っている状態、つまり、共有状態になります。
こうなると、税金の特例が使えないので、相続税対策ができないうえ、財産の管理が面倒になる等、損をする可能性が高くなります。
しかし、損をするとわかっていても、未分割申告になってしまう場合があります。
それは、大きく分けて3つのケースがあります。
1つ目は、相続人の間で分割の話し合いが、まとまらないケースです。
「兄弟は全員平等なはず」
「俺はお父さんと同居して、最後まで面倒をみたのに、それを無視するのか」など揉めるケースです。
2つ目は、申告期限までに財産の把握ができていないケースです。
「お父さんが、そんな遠くに土地を持っていたなんて知らなかった」
「お母さんが銀行じゃなくて、郵便貯金してたなんて、全然知らなかった」などです。
3つ目は、あえて未分割で申告を行うケースです。
「一番下の妹は、まだ18歳で未成年だから、成人してから相続しよう」このような理由で、未分割申告をあえて選択する場合もあります。
ちなみに、未分割申告の相続税の計算方法は、法律で決められた相続分である法定相続分で、遺産を相続したとみなして計算をします。
ところで未分割申告をすると、なぜ損をすることになるのでしょうか?
その損について、相続人が理解したら、もしかすると、遺産分割が進むかもしれません。
そこで、どんな損をするのかをお伝え致します。
【1つ目】相続税を軽くするための、様々な特例が使えません。
【2つ目】基本的に物納が出来ません。
【3つ目】納税猶予が適用されません。
このうち、1つ目が一番大きな損になります。
配偶者に対する税額軽減や小規模宅地等の特例など、相続税を軽くするための特例はたくさんあります。
しかし、未分割申告をすると、これらの特例が使えなくなります。
ただ、未分割申告をする時に、申告期限後3年以内の分割見込書を提出し、申告期限から3年以内に遺産分割をすれば、配偶者に対する税額軽減や、小規模宅地等の特例などは使えます。
特例を使って計算した相続税が、未分割申告の際に、納税した相続税額より少なかった場合は、差額が戻ってきます。
ただ、非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除など、分割見込書を提出しても使えない特例はあります。
このように未分割申告は、相続税で大きな損をする可能性があります。
そして、長い間、兄弟や親族で揉めていると、お互いに心が疲れてしまう、ということも見過ごせません。
本来、身近で助け合わなければならない親族が、いつまでも遺産分割の話し合いをまとめられないのは、亡くなった方から見たら、どうなのでしょうか?
遺産分割協議を相続税の申告期限までに、まとめるのが一番の孝行です。
せっかく残してくれた財産に、みすみすたくさんの相続税を掛けられ、減らされないように、相続人みんなが「未分割申告をした時には、すごく損をする可能性がある」という認識を持って、円満に遺産分割の話し合いを行えるようにしましょう。