
亡くなった方の遺産かどうかはっきりしない財産がある場合、そのままでは遺産分割を進めることができません。まずは財産の持ち主を確定させ、遺産の全体像を明らかにする必要があります。
相続が発生し、いざ相続税対策や手続きを進めようとした矢先、「これは本当に故人の遺産なのだろうか?」と不明な財産が見つかることがあります。
あるいは、故人の名義になっているものの、「それは自分が買ったものだ」と主張する相続人が現れるケースもあります。
このように、遺産が本当に故人のものか不明な場合や、実際の所有者を巡って争いになっている場合、原則としてその財産の遺産分割はできません。
遺産分割協議は、被相続人の財産であることが明確なものだけで行うのが大前提だからです。
もちろん、持ち主がはっきりしている財産だけを先に遺産分割(一部分割)し、不明な財産は後回しにするという方法も可能です。
しかし、後から「やはり故人の遺産だった」と判明した財産が高額だった場合、大変なことになります。
その財産について改めて遺産分割協議を行うという二度手間が発生するからです。
さらに、想定外の高額財産だった場合、相続税の計算が根本から狂い、修正申告が必要になったり、一時的に税務上の特例が使えなくなったりするなど、思わぬ不利益を被る可能性が高くなります。
最初の相続税申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくなど、所定の手続きを踏んでおけば、後から特例を使うことは可能です。
しかし、こうした手続きにはどうしても手間と時間がかかってしまいます。
相続争いの原因は「遺産をどう分けるか」だけではありません。
「この財産は本当に故人の遺産なのか?」という段階で揉めることも非常に多いのです。
遺産を分ける前の段階でトラブルになっているため、ある意味では非常に厄介な問題と言えます。
こうした問題が発生しやすい代表例が、名義変更を必要としない動産(家具やコレクションなど)です。
例えば、故人と子供が共有して使っていた高価なギターがあったとします。
いざ相続となった際に、子供が「このギターは元々自分が買ったものだ」と主張したらどうなるでしょうか。
当時の領収書などが残っていなければ、それが故人の遺産なのか子供の所有物なのか、証明することが難しくなり揉め事に発展してしまいます。
また、名義変更が必要な不動産であっても油断はできません。
生前の節税対策などで、実際は親の土地なのに一部を子供の名義にしていたり、逆に無断で共有名義にされていたりするケースがあるからです。
さらに、税務署との間で最も問題になりやすいのが「名義預金」です。
子供や孫の名前で作られた通帳であっても、実質的に故人がお金を出し、印鑑なども管理していた場合は「故人の遺産」として扱われます。
これが後から税務調査で発覚し、多額の追徴課税を受けたり、相続人同士の不信感に繋がったりするトラブルが後を絶ちません。
こうした事態を防ぐためにも、生前のうちから財産目録を作成し、誰がどの財産を所有しているのか明確にしておくことが大切です。
遺産の範囲を確定させない限り、完璧な遺産分割や相続税対策は完了しません。
最悪の場合、裁判などの争いに発展してしまう恐れもあります。
では、すべての財産が「故人の遺産である」と相続人全員が納得していれば、問題は起きないのでしょうか。
実はそうとも言い切れません。
故人が生前から、財産の範囲や所有権を巡って他人と揉めていた場合です。
例えば、故人が生前から「隣人と境界線について争っている土地」を相続するようなケースです。
この土地を相続した場合、相続人は引き続き隣人と境界線(土地の範囲)について争い、範囲を確定させた上で遺産分割を行う必要があります。
当事者同士で解決できない場合は、隣人を相手に裁判を起こして決着をつけることになります。
一方で、相続人同士で「この財産は遺産に含まれるかどうか」で揉めて話し合いが平行線になった場合はどうでしょうか。
このような場合は、「遺産確認の訴え」と呼ばれる裁判を起こして決着をつけることになります。
この遺産確認の訴えでは、共同相続人全員が原告、または被告として参加しなければなりません。

このように、遺産分割を行う前の段階で足踏みしてしまうケースは少なくありません。
なお、争いが長引く場合でも、相続税の申告・納税期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)は待ってくれません。
期限内に遺産分割が終わらない場合は、一旦「法定相続分」で分けたと仮定して税金を納める「未分割申告」という手続きが必要になります。
もし裁判などが長引き、3年以内に遺産分割が終わらない場合でも、別途「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出すれば、さらに期限を延長して特例の適用を待つことが可能です。
さらに注意が必要なのは、遺産分割が長引くことによる法的なデメリットです。
2023年4月の民法改正により、相続開始から10年を経過すると、生前贈与の持ち戻し(特別受益)や、介護などの貢献(寄与分)を主張できなくなりました。
ただし、2023年4月1日より前に発生した相続については、猶予期間として少なくとも2028年(令和10年)3月末までは主張することが可能です。
つまり、原則として法定相続分で画一的に分けることになってしまうため、自分に有利な主張ができなくなるタイムリミットが存在します。
また、不動産の問題が長引くと、2024年4月1日からスタートした「相続登記の義務化(3年以内)」の期限に焦ることにもなりかねません。(※過去に発生した相続であっても、原則として2027年3月末までに登記をする必要があります。)
正当な理由なく放置すると10万円以下の過料の対象になる恐れもあります。
ただし、遺産分割が長引く場合は、ひとまず「相続人申告登記」という仮の手続きを法務局で行うことでペナルティを回避できます。
このような事態を未然に防ぐためにも、早急に相続税対策や財産の洗い出しに取り掛かりましょう。
相続税対策を始めることで、上記のような隠れた問題点をあぶり出すことができます。
相続税対策や相続税申告でお悩みの際は、ぜひ税理士法人 都心綜合会計事務所にご相談ください。