
自宅を共有で相続して売却する場合、要件を満たせば譲渡所得の特別控除額3,000万円を人数分使えるメリットがあります。通常、共有財産は相続トラブルの元になりやすいと言われます。しかし、自宅の相続で将来的に売却を考えており、かつ同居しているなどの条件を満たせば、大きな節税効果を生む可能性があります。売却にあたっては、2024年(令和6年)から義務化された相続登記(名義変更)を先に済ませておく必要がある点にも留意しましょう。やり方を間違えると税務署からペナルティを受けるリスクもあるため、正しい知識を持っておくことが重要です。
自宅を売却して利益が出ると「譲渡所得」として所得税や住民税の対象になります。
譲渡所得の金額は、売却収入から取得費(購入代金など)と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いて計算します。
そして、この利益に対して所有期間に応じた税率が掛けられます。
土地や建物の所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、税率は約39%と高くなります。
一方、所有期間が5年を超える場合は長期譲渡所得となり、税率は約20%に下がります。
※税率には復興特別所得税を含めて概算しています。
ここで注意したいのが、所有期間の数え方です。
相続した不動産の所有期間は、亡くなった親の所有期間をそのまま引き継ぐことができます。
そのため、親が何十年も住んでいた家であれば、相続してすぐに売却しても税率の低い長期譲渡所得となるため安心してください。
また、所有期間だけでなく、親が買った時の「取得費(購入代金)」も引き継ぐことになります。
もし、昔の家でいくらで買ったか分からない場合、売却代金のわずか5%が取得費として計算されてしまい、税金が高額になる恐れがあります。
契約書が見当たらないなどのトラブルを防ぐためにも、生前から資料を確認しておくことが重要です。
注意点として、所有期間の5年や10年のカウントは、実際の期間ではなく「売却した年の1月1日時点」で計算されます。
ギリギリの年数で売却する場合は、年をまたぐ必要があるか必ず確認しましょう。
さらに、自宅(マイホーム)を売却した場合には、利益から最大3,000万円を差し引くことができる「マイホーム特例(居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例)」が用意されています。
この特例を使えば、売却益が3,000万円までなら税金が1円もかかりません。
加えて、所有期間が10年を超える自宅の場合は、3,000万円控除後の利益に対しても通常より低い税率が適用される軽減税率の特例もあります。
具体的には、譲渡益6,000万円以下の部分について、税率が約14%に軽減されます。

この3,000万円の特別控除は、要件を満たせば「共有者ごと」に適用することができます。
例えば、親が亡くなり、同居していた配偶者(母)と子供が自宅を2分の1ずつ共有で相続したとします。
その後、2人ともその自宅に住み続けた上で売却した場合、母と子供それぞれが3,000万円の控除を使えるため、合計で最大6,000万円まで売却益が非課税になります。

ただし、実際にその家を生活の拠点として利用していることが絶対条件です。
住民票だけを移して実際には住んでいなかったり、たまに週末だけ利用する別荘のような使い方では特例は認められません。
なお、親が一人暮らしで同居していなかった場合でも、「空き家の3,000万円特別控除」という別の特例が使える可能性があります。
ただし、この特例を利用するには、その家が昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された古い建物であることなどが必須条件となります。
※なお、亡くなる直前に親が一人暮らしから老人ホームに入所していた場合でも、要介護認定などの一定の要件を満たせば特例の対象になります。
ここで注意したいのが、空き家特例の対象となるのは一戸建てであり、一般的な分譲マンション(区分所有登記された建物)は特例の対象外となる点です。
※通常のマイホーム特例であれば、マンションも対象となります。
また、空き家特例を利用する場合、売却代金が1億円以下(※共有で売却する場合は、全員の売却代金の合計額が1億円以下)であることも絶対条件となります。
空き家特例を使う場合、相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却を完了させる必要があります。
さらに、空き家特例には適用期限が設けられています。
令和9年(2027年)12月31日までに売却を完了させる必要があるため、早めの対策が重要です。
また、令和6年以降の売却では、空き家特例を使う際、その家を相続する人が3人以上いると控除額が1人2,000万円までに減額される点には注意が必要です。
一方で嬉しい改正もあり、現在は要件が緩和され、売却後に買主側で翌年2月15日までに家屋の解体や耐震改修を行っても特例が認められます。
一般的に、不動産を共有名義で相続することは、将来の意見対立や権利関係の複雑化を招くため避けるべきとされています。
しかし、「相続後に同居の共有者全員が合意して売却する」という前提が確実なのであれば、特例を最大限に生かすためにあえて共有で相続するのも有効な選択肢の一つです。
そして自宅を共有名義にするにあたっては、2024年4月から義務化された相続登記(名義変更手続き)を法務局で行う必要があります。
スムーズに売却を進めるためにも、名義変更の手続きは早めに済ませておきましょう。
なお、これらの特例によって計算上の税金がゼロになったとしても、税務署への確定申告は必ず行う必要があります。
特例のメリットが大きいからといって、安易な対策を行うと税務署から否認されるリスクがあります。
例えば、自宅を売却する直前に、特例を受けることだけを目的として配偶者や子供にわずかな持分(1%など)を贈与し、共有名義にするようなケースです。

このような不自然な直前の名義変更は、租税回避行為(不当な税金逃れ)とみなされ、特例の適用を取り消されて多額の追徴課税を受ける事例が過去に多発しています。
さらに、配偶者や親、子供といった身内や、自身が経営する同族会社などに売却した場合は、マイホーム特例を一切使うことができません。
また、「どうせ誰も住まないから」と、被相続人が生きているうちに自宅を売却して現金化してしまうのも要注意です。
不動産のままであれば、「路線価による評価」や「小規模宅地等の特例」によって相続税の評価額を大幅に引き下げることが可能です。
しかし、生前に売却して現金に変わってしまうと、その現金がそのまま額面通りに相続財産としてカウントされるため、結果的に相続税が跳ね上がってしまうケースが多いのです。
最後にもう一つ重要な注意点があります。
当サイトの関連ページでも紹介している「相続財産を売却した場合の取得費加算の特例」との組み合わせについてです。
この特例が適用できる期限は「相続税の申告期限から3年以内(相続発生から約3年10ヶ月以内)」となります。
親が一人暮らしで同居しておらず「空き家の3,000万円特別控除」を使う場合は、この取得費加算の特例と同時に使うこと(併用)ができません。
そのため、空き家特例を利用するなら、どちらか有利な方を選ぶ必要があります。
一方で、親と同居していて通常の「マイホーム特例」を使う場合は、取得費加算の特例とセットで適用(併用)が可能です。
両方の特例を組み合わせることで、さらに大きな節税効果が期待できます。
どの特例が使えて、どの組み合わせが一番お得になるかは状況によって大きく変わります。
そのため、適用前には必ずシミュレーションを行いましょう。
自宅の相続や売却については、特例の適用要件や相続税全体への影響を踏まえた慎重な判断が求められます。
少しでも迷いや不安がある方は、売却や名義変更を行う前に、相続に強い税理士へ早めに相談することをおすすめします。