養子縁組の相続税対策はメリットもデメリットも3つ
養子縁組の相続税対策には、主にメリットが3つ。
そして、デメリットも3つあります。
今回は、そんな養子縁組による相続税対策のメリット・デメリットについて、解説しています。
養子縁組には普通養子と特別養子がある
養子縁組をすることによって、養親と養子の間に、自然血族に基づく親子関係と同一の親子関係が発生します。
ただ、これは養親と養子の間だけの話であり、養子縁組の前に発生している身分関係に影響はありません。
例えば、「養親側の実子」と「養子側の兄弟姉妹」には、何の身分関係も生じません。
また、養子縁組前に出生している養子の子は、養親の孫にはなりません。
養子縁組とは【養子だけを取り込む制度】といえます。
なので、「養子」と「養親及び養親の親族」の間には、血族関係が発生します。
例えば、「養子」と「養親の実子」は兄弟関係になります。
そして、この養子には「普通養子」と「特別養子」があります。
普通養子と特別養子の違い
普通養子と特別養子の違いは、以下のようになります。
事項 | 普通養子 | 特別養子 |
---|---|---|
成立 | 当事者の合意に基づく届出 (養子が未成年の場合は、家庭裁判所の審判を要する) | 家庭裁判所の審判 |
実親との関係 | 継続 | 消滅 |
実父母の同意 | 養子が15歳未満の場合、同意が必要 | 原則、同意が必要 |
養子となれる者 | 養親より年長でなく、かつ、養親の尊属でないこと | 原則、15歳未満の者 |
養親となれる者 | 原則、20歳以上の者で、単身者も可能 | 原則、25歳以上の既婚者 |
相続税の観点からみた場合の養子縁組とは
養子縁組とは、親子関係にない人が法律上で親子関係を持つことであり、養子縁組をした当日から、実子と同じく相続人になります。
養親に相続が発生した場合、実子と同様に、養子は第1順位の相続人となります。
民法では、養子の数に制限はありませんが、相続税法では養子の数を以下のように規定しています。
- 被相続人に実子がいる場合は1人まで
- 被相続人に実子がいない場合は2人まで
ただ、この制限は「相続税法上の基礎控除額などの計算における養子の数の制限」であり、民法上では何人養子にしても問題ありません。
100人養子にしたとしても、相続税の計算上では、1人もしくは2人の養子の数として、計算されるということです。
特別養子縁組の場合、養子は実子と同じ扱い
民法上、養子縁組には特別養子縁組というものがあります。
これは、実の親との間で法律上の親子関係がなくなるというものです。
相続税法上、特別養子縁組で養子になった場合、「実子と同じ扱い」となるため、相続税法上での養子の人数制限にカウントされません。
例えば、特別養子縁組を10名した場合、実子10名として基礎控除額も計算されるということです。
特別養子縁組以外で、養子が実子と同じ扱いになる場合
特別養子縁組で養子が実子と同じ扱いになります。
ただ、現実的には特別養子縁組は虐待などから、子供を守るためのものであり、相続税対策として使わることは少ないです。
相続税対策のために、実の親との間に、法律上の親子関係をなくすことになるからです。
では、特別養子縁組以外で、相続税の観点から、養子が実子と同じ扱いになることはないのか?
実は以下のような場合は、「養子でも(相続税の課税上)実子と同じ扱い」になります。
- 被相続人の配偶者の実子、かつ被相続人の養子となった者
- Aさんの特別養子縁組により養子になった者(Cさん)で、その後AさんとBさんが結婚した場合に、Bさんの養子になった者(Cさん)、この場合Cさんは実子扱い
養子縁組の3つのメリット
相続の観点からみた場合、養子縁組には、主に以下のような3つのメリットがあります。
- 相続税を節税できる
- 特定の相手に相続できる
- 相続を1回省略できる
節税効果がある
まず、養子縁組のメリットは相続税を節税することが出来ます。
簡単に言ってしまえば、【養子縁組で法定相続人が増える】からです。
法定相続人が増えると、何かと相続税の節税になります。
- 相続税の基礎控除額額が増える(法定相続人一人につき600万円)
- 生命保険金の非課税限度額が増える(法定相続人一人につき500万円)
- 死亡退職金の非課税限度額が増える(法定相続人一人につき500万円)
相続させたい相手に相続できる
また、相続税を安くするメリットもありますが、養子縁組を使えば、財産を「相続させたい相手に相続させる」ことも出来ます。
よくあるパターンとして、世話をしてくれた息子の妻を養子にして財産を相続させるというものです。
贈与や遺贈ではなく相続で財産を譲ることができるので、遺留分の侵害額請求も可能となります。
相続を飛ばせる
孫を養子にした場合は、相続税を一回飛ばすことができるというメリットもあります。
どういうことかと言いますと、本来なら財産をいったん子どもが相続して、その後に孫が財産を相続します。
なので、財産を孫にまで相続となると、通常は同じ財産に相続税が2回かかります。
孫を養子にするということは、【相続を1回飛ばす】ということなのです。
相続税対策の観点から養子縁組のメリットをまとめると・・
- 相続税を節税することが出来る
- 配偶者や親族以外に財産を相続することが出来る
- 孫を養子にした場合、相続を1回飛ばすことが出来る
養子縁組の3つのデメリット
相続の観点からみた場合、養子縁組には、主に以下のような3つのデメリットがあります。
- 孫養子には相続税額が2割多く加算される
- 他の相続人の取り分が減る
- 養子縁組を解消したくても出来ない場合がある
孫養子は相続税が2割加算
孫を養子にした場合は、相続を1回飛ばすことが出来ると書きました。
この相続を1回飛ばすために、資産家を中心として、孫が養子になるというのが当たり前のように行われていました。
こういう事情から、「孫養子には相続税額が2割多く加算」されます。
相続を1回飛ばすことが出来るメリットもありますが、孫養子の相続税が2割多くなるというデメリットもあります。
しかし、場合によっては、孫養子は今でも有効な相続税対策です。
相続人間でトラブルが発生しやすくなる
養子縁組によって、法定相続人が増えれば、基礎控除は増えます。
確かに相続税が安くなるといったメリットはあるのですが、他の相続人の方は納得するでしょうか?
もしも、養子縁組がなければ、もっと財産を相続出来たのに。
養子縁組のせいで、財産の取り分が減った。
このように、養子縁組は「相続人間でトラブルに発生しやすい」という面があります。
養子縁組をする場合には、相続税を安くすることだけに頭がいきやすいですが、本来の相続人の方達の気持ちも配慮しなくてはなりません。
養子縁組の解消が出来ないこともある
現在、跡継ぎがいないという方も多数いらっしゃいます。
相続する相手がいないために、
- 甥とその妻
- 姪とその夫
などを夫婦養子にする場合も少なくありません。
でも、夫婦が離婚した場合、どうなるでしょうか?
普通に考えれば、甥や姪と離婚した配偶者は、養子縁組から外れるのが普通だと思います。
しかし、離婚によって自動的に養子から外れることはありません。
離婚して赤の他人となった人が、離縁に応じないと、基本的には養子状態は継続します。
養子縁組を解消するには、「離縁」という手続きが必要です。
日本においても、離婚が当たり前の時代になりつつあります。
夫婦ごと養子にする場合には、このことを頭の片隅に入れておきましょう。
相続税対策の観点から養子縁組のデメリットをまとめると・・
- 孫養子の場合、孫養子に相続税の2割加算がある
- 他の相続人の取り分が減る。(トラブルになりやすい)
- 養子縁組を解消したくても、簡単に解消できない
動画で解説
養子縁組で相続税対策をするメリットとデメリットについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
さて突然ですが、養子縁組は相続税対策になるというお話を聞いたことはないでしょうか。
今回は、養子縁組で相続税対策をする3つのメリット、そして3つのデメリットについて、解説を致します。
まず、養子縁組の3つのメリットから解説します。
1つ目は、相続税の節税ができる、ということです。
養子が1人増えれば、基礎控除額が600万円増えます。
さらに相続税の対象になる生命保険金や死亡退職金もあれば、非課税限度額がそれぞれ500万円ずつ増えます。
ただし、カウントできる養子の人数には限度があります。
被相続人に実子がいる場合は1人まで、被相続人に実子がいない場合は2人までです。
養子縁組をすること自体には、人数制限がないため、100人と養子縁組をしても構いません。
しかし、税法のルールでカウントできるのは、被相続人に実子がいるかどうかによって、1人か2人になるということです。
なお、養子縁組の中には特別養子縁組というものがあります。
これは、実の親との親子関係を消滅させる、とても強い効果があり、原則15歳未満の子供にしか適用できません。
跡継ぎなど大人の事情で利用できるものではなく、子供自身を守る、児童福祉のための制度です。家庭裁判所の審判も必要となります。
こうした趣旨から税金の対策で利用されることはまずありませんが、特別養子縁組の子であれば実子と同じ扱いになります。
したがって、税法上の人数制限は受けません。
2つ目は、特定の相手を相続人にすることができるというものです。
たとえば、介護をしてくれた息子のお嫁さんと養子縁組するケースがあります。
そうすると、たとえ息子が先に亡くなっていたとしても、お嫁さんに財産を相続してもらうことができます。
相続人でない相手に財産を残すには、養子縁組以外にも、遺言書で遺贈をする、という選択肢があります。
ただ、養子縁組であれば、遺留分の請求権を与えることができます。
3つ目は、相続を飛ばせる、というものです。
たとえば、孫を養子にすると、一世代とばして財産を相続させることができます。
相続税がかかるタイミングを一回飛ばせるため、節税に有効です。
続いて養子縁組の3つのデメリットも見ていきたいと思います。
1つ目は、先ほど、孫を養子にして相続を飛ばす、というメリットをお伝えしましたが、その一方で、孫などには相続税の2割加算が適用されます。
相続税には、被相続人の一親等の血族と配偶者以外の人の場合、税額が1.2倍になる、というルールがあります。
孫養子であっても、代襲相続のようにお子さんの代わりというわけではないため、このルールが適用されます。
2つ目は、相続人同士でトラブルが発生しやすくなるということです。
養子縁組によって、法定相続人が増えれば、基礎控除が増えます。
それによって、相続人全体の相続税は下がりますが、同時に養子がいなければ、もっと財産を相続出来たのに、という思いを抱く方が出てきたりして、相続人同士でトラブルになることも考えられます。
養子縁組をするとき、相続税を安くすることだけに頭がいきやすいのですが、本来の相続人の方の気持ちも配慮しなくてはなりません。
3つ目は、夫婦を養子にすると養子縁組の解消が出来ないこともある、ということです。
たとえば、跡継ぎがいないなどの理由で、甥っ子とその妻、姪っ子とその夫など、夫婦を養子にすることがあります。
しかし、この夫婦が離婚した場合、離婚によって、その妻や夫が自動的に養子から外れることはありません。
赤の他人になった人が離縁に応じないとなると、基本的には養子の状態が継続します。
夫婦ごと養子にする場合は、このことを頭の片隅に入れておいて下さい。