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認知症の人の法律行為は無効になり相続税対策は事実上不可能

もしも被相続人が、家族信託などの生前対策を行う前に認知症になってしまったらどうなるでしょうか。

被相続人が認知症
被相続人が認知症
家族信託を利用する前に認知症になってしまった。

結論から申し上げますと、その時点から新たな相続税対策を行うことは極めて困難になります。

なぜなら、認知症が進行して「自分で正しく判断する能力(意思能力)」がないとみなされると、法律上は契約などが最初から「無効」になってしまうからです。

法律行為
法律行為
認知症の人の法律行為は無効

被相続人が認知症になると、具体的には次のようなことができなくなったり、無効になったりします。

  • 引越し先を借りる契約や、施設に入る契約ができない
  • 遺言書を書いても無効
  • 不動産の賃貸や売買ができない
  • 契約書を交わすような買い物ができない
  • 預金が凍結される(お金を引き出せなくなる)

認知症が進行すると、法律上は「意思能力のない者」として扱われます。

意思能力がない状態で行った契約は、すべて無効となります。

ここで注意したいのは、認知症になった方の財産は、あくまでご本人だけのものであるという点です。

たとえ家族であっても、ご本人の承諾なしに勝手に財産を動かすことは許されません。

そのため、相続税対策として生前贈与をしたいと思っても、手続きを進めることはできなくなります。

家族が良かれと思って勝手に手続きをしても、法律上は無効になってしまいます。

特に2024年(令和6年)からは生前贈与のルールが変わり、亡くなる前7年間の贈与は相続財産に加算されるようになりました。

現在は移行期間中のため段階的に期間が延びており、最終的に7年前まで加算されることになります。

元気なうちから早めに対策を始める重要性がより高まっていますので、認知症になってからでは手遅れになることを覚えておきましょう。

認知症になった後の相続税対策は原則として無効になるという事実は、必ず覚えておいてください。

具体的には、相続税対策に欠かせない以下の行為ができなくなります。

  • 養子縁組
  • 生前贈与
  • 不動産の賃貸
  • 不動産の売却や購入
  • 不動産の修繕やリノベーション
  • 遺言書の作成
  • 生命保険の加入
  • 生産緑地の解除や農地転用
  • 議決権の行使(株主の場合)

これらはどれも、効果的な相続税対策を行う上で非常に重要な手続きです。

例外として、成年後見人がついている状態でも、本人の判断能力が一時的に回復したと2名以上の医師が判断して立ち会えば、遺言書を作成できるケース(民法第973条)もあります。

しかし、現実的には非常にハードルが高いため、やはり元気なうちの対策が不可欠です。

重要
重要
認知症になると相続税対策において、必要不可欠で重要なことができなくなる

被相続人が生前に認知症になってしまうと、相続税対策は事実上ストップしてしまうという点をご理解ください。

また、財産を残す側だけでなく、受け取る側の「相続人」が認知症になっている場合も要注意です。

遺産分割協議がスムーズに進まず、「配偶者の税額軽減」といった有利な特例が使えなくなるリスクがあります。

もし家族信託などの生前対策をする前に認知症が進行してしまった場合は、次にご紹介する「成年後見制度」を利用することになります。

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成年後見制度とは保護者を付けるような制度

成年後見制度とは、一言でいえば、認知症や知的障がいなどで判断能力が低下した方に「保護者(成年後見人等)」を付ける制度のことです。

認知症が進行すると、銀行での預貯金の引き出しや、介護施設への入所契約などを自分で行うことが難しくなります。

そうした際に、ご本人の代わりに保護者が契約や手続きを行うための仕組みが成年後見制度です。

手続き
手続き
認知症や知的障がいの方の代わりに、成年後見人が手続きなどをする

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インフォームドコンセントに成年後見人は対応できない

これまで成年後見制度は、ご本人の判断能力の度合いに応じて「成年後見」「保佐」「補助」の3つの種類に分けられていました。

しかし、2026年4月に政府はこの成年後見制度を抜本的に見直す民法改正案を閣議決定しました。

改正案では、これまでの「後見」と「保佐」を廃止し、より柔軟な支援が可能な「補助」に一本化される予定です。

また、一度制度を利用し始めると原則として亡くなるまで続く「終身制」も見直されます。

支援が必要なくなれば、家庭裁判所の判断で途中で終了できるようになるなど、より使いやすい制度へと変わる見込みです。

この新しい制度の運用開始は2028年頃と予想されています。

新制度への移行までは、引き続き現在のルールに基づいて運用されます。

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成年後見人には契約を取り消す権限がある

成年後見人は、ご本人の代わりに手続きをするだけでなく、ご本人が結んでしまった不利な契約を取り消す強い権限を持っています。

たとえば、認知症の方が訪問販売などで高額な羽毛布団や高級家具を買う契約をしてしまったとします。

あるいは、必要のない高額なリフォーム工事の契約を結んでしまったとします。

このような場合、後からその契約を取り消すことができます。

すでに代金を支払ってしまった後でも、その返還を求めることが可能です。

ただし、スーパーでの食料品の買い出しなど、日々の生活に必要な日用品の購入までは取り消すことはできません。

保護者がつくと何も買えなくなってしまうのでは、というご心配には及びませんのでご安心ください。

現行制度においては、保佐人や補助人にも、それぞれ定められた範囲内で契約を取り消す権限が与えられています。

成年後見人になれる人

成年後見人は、家庭裁判所が選んで決定します。

この役目を担うために、特別な資格は必要ありません。

そのため、条件が合えばご家族や親族が選ばれることもよくあります。

ただし、頼れる親族がいない場合や、親族間で遺産などをめぐるトラブルが起きている場合は、家族が選ばれないこともあります。

また、ご本人が多くの財産(目安として1,000万円以上)をお持ちの場合も、弁護士や司法書士といった専門家が選任される傾向があります。

状況によっては、お金の管理は専門家が行い、身の回りの手続きは家族が行うというように、複数人が選ばれることもあります。

家庭裁判所は、ご家族の事情や財産の状況などを総合的に見て、誰がふさわしいかを判断します。

現在の統計を見ても、約8割が家族以外の専門家などの第三者になっており、親族が選ばれるのは2割程度となっています。

できるだけ身近な親族が選ばれやすくなるように、国の方でも運用の見直しが進められています。

しかし、現在でも多くの場合で専門家が選ばれているのが実態です。

任意後見は成年後見人を指定できるが監督する人がつく

任意後見とは、ご自身が元気なうちに「将来の自分の後見人」をあらかじめ決めておく制度です。

将来、認知症などで判断能力が落ちてしまったときに、約束しておいた人がサポートしてくれます。

この制度を利用するには、公証役場へ行き、公正証書で契約を結んでおく必要があります。

この契約のなかで、将来どんな手続きを任せるかを自分自身で自由に決めることができます。

任意後見人になる人にも、特別な資格は必要ありません。

そのため、信頼できる家族や友人などを自由に指定することができます。

ただし、認知症になったからといって自動的にサポートが始まるわけではありません。

サポートを開始するには、家庭裁判所に「任意後見監督人」という役目の人を選んでもらう手続きが必要になります。

任意後見監督人とは、その名の通り「任意後見人がしっかり仕事をしているか」をチェックする人のことです。

監督人
監督人
任意後見は任意後見監督人というチェックする人がつきます。

お金を不正に引き出したりしていないか、この監督人がすべて確認します。

監督人は家庭裁判所が選ぶため、親族ではなく弁護士や司法書士などの専門家が選ばれるのが一般的です。

プロが目を光らせてくれるため財産を守る安心感はありますが、注意すべきデメリットもあります。

それは、専門家が監督人になった場合、毎月継続して報酬を支払い続けなければならないという点です。

また、監督人の考え方によっては、家族が希望するような柔軟なお金の使い方(孫への教育資金の援助など)が認められないこともあります。

任意後見制度を利用する際は、こうしたメリットとデメリットをよく比較して検討しましょう。

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任意後見制度なら認知症になった後も財産管理を自分で決められる?

後見人であることを証明する方法

ご本人の代わりに銀行や役所で手続きをする際は、「自分が正式な代理人である」と証明する書類の提出を求められます。

証明書
証明書
成年後見人が各種手続きをする際には証明書が必要

この証明書(登記事項証明書)は、法務局の窓口へ行くか、郵送で請求して取得します。

さらに現在は、インターネット上の「登記ねっと」を利用してオンラインで請求し、証明書を郵送で受け取ることも可能です。

オンライン請求は、窓口へ行くよりも手数料が少し安く済むためおすすめです。

窓口で取得する場合に気をつけておきたいのが、どこの法務局でも発行できるわけではないという点です。

基本的には、全国の法務局や地方法務局の「本局(県庁所在地などの大きな窓口)」でのみ受け付けています。

お近くの小さな出張所や支局では発行してもらえないことが多いので注意しましょう。

無駄足を防ぐためにも、事前に法務局のホームページなどで証明書を発行できる窓口を確認しておくことをおすすめします。

郵送で請求する場合は、東京法務局の「後見登録課」が全国の申請をまとめて受け付けています。

実際に役所や銀行の窓口へ行くときは、この証明書に加えて、手続きに行く人自身の身分証明書も必要になります。

忘れずに持参するようにしましょう。

なお、2024年の相続登記義務化に続き、2026年(令和8年)4月からは不動産の住所・氏名変更登記も義務化されました。

先述の通り、成年後見制度自体の抜本的な見直しも進んでいるため、ご実家の売却などを検討される場合は、常に最新の制度状況を確認するようにしてください。

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成年後見人は相続人に代わり埋葬とか葬儀もできる?

動画で解説

被相続人が認知症になったら相続税対策は不可能になってしまうことについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。

認知症になったら相続税対策は不可能

動画内容

今回は認知症になったら相続税対策は不可能となり、成年後見人の選任が必要になるということについてお話を致します。

認知症は老後の大きな心配ごとの1つですが、相続税対策においても大きな問題となります。

相続税対策といえば生前贈与や遺言書の作成、不動産の賃貸、生命保険の加入、養子縁組などがありますが、こうした対策は認知症になってしまうと事実上できなくなってしまいます。

このことから認知症になってしまったあとの相続対策は「ほぼできない」ものと考えておいた方がよいでしょう。

そして、ご家族が認知症になってしまったら成年後見制度という公的な制度を利用することになります。

成年後見制度とは簡単にいうと認知症や知的障がいの方に保護者をつけるような制度です。

成年後見人として選ばれた人は、本人の代わりに銀行での手続きや契約の手続きなどを行い生活をサポートします。

本人の判断能力に応じて成年後見、保佐、補助の3段階があり、最も判断能力が乏しい方は成年後見人のサポートを受けますが、日常生活に問題がない方は一定の重要な事項に限って、保佐人や補助人のサポートを受けます。

成年後見制度では法律行為の代行だけではなく、認知症の方などが行った契約を後から取り消すこともできます。

これにより騙されて財産を奪われるような被害を防ぐことができます。

成年後見人は家庭裁判所が選任します。

親族の方が選ばれるケースのほか、弁護士など専門家が選ばれるケースもあります。

専門家が選ばれやすくなるケースとしては、親族間でもめている場合や、認知症になってしまった方の財産が多い場合などです。

認知症になってしまった後は成年後見制度を利用するしかありませんが、もし認知症になる前に備えるのであれば任意後見という制度もあります。

任意後見とは認知症になる前に、あらかじめ後見人になる人を自分で決めておく制度です。

信頼できる人を自分で選べる点や、どのようなことを任せたいかを自分で決められる点にメリットがあります。

さらに任意後見人は、本人が認知症になってしまったことをいいことに不正をしていないかどうか、任意後見監督人からチェックを受けます。

不正防止をしてもらえることは安心ではありますが、任意後見監督人は弁護士など専門家が選ばれることが多く、この場合、報酬の支払いが生じるというデメリットがあります。

成年後見制度や任意後見制度は信頼できる制度ではありますが、制約が多く公的機関への報告なども必要となるため手軽な制度ではありません。

認知症対策を行うのであれば家族信託の活用が非常に有効です。

家族信託も任意後見と同じく認知症になる前にしかできない対策ですが、家族間の契約であるため比較的柔軟に財産の運用などを決めることができます。

認知症は誰にでも起こり得ることです。

自分だけは大丈夫と思わずに、ご家族のために対策されることをおすすめします。

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