売却利益から相続税分を控除できる

相続した財産については、相続税の申告期限後3年以内に売却した場合、売却した財産にかかる相続税を、財産の取得費に加算できます。

これは、【売却利益から相続税分を控除できる】ということを意味します。

相続税の申告期限から3年以内に売却すると節税になる

通常、土地や建物などを売却すると譲渡所得税というものがかかってきます。譲渡所得税は、

(売却した金額 ー 取得費 - 譲渡費用) × 税率

で計算されます。

相続で取得した土地などを売却する場合も同様です。そして、相続で取得した土地などの取得費は、被相続人(故人)の取得費を引き継ぎます。

引き継ぐ
引き継ぐ
相続で取得した土地などの取得費は、被相続人(故人)の取得費を引き継ぎます。

なので、被相続人(故人)が1000万円で土地を購入したら、相続した方がその土地を売却した時の取得費も1000万円で計算することになります。

ただし、相続税の申告期限から3年以内(相続開始の翌日から3年10カ月以内)に売却した場合には、この取得費に相続税を加算することが出来ます。

注意点として、相続税が丸々全て加算できるわけではありません。

売却にかかる分の相続税が取得費に加算出来ます。

加算
加算
相続税が取得費に加算出来ます。

例えば、Aという土地とBという建物を相続し、全部で相続税として500万円払ったとします。そのうち、

  1. Aの土地に関する相続税は300万円
  2. Bの建物に関する相続税は200万円

だった場合に、相続税の申告期限から3年以内にAの土地を売却する場合には、取得費に300万円を加算できるということです。

この仕組みを相続税の取得費加算の特例といいます。

相続税の取得費加算の特例

なぜこのような制度があるのかというと、簡単に言ってしまえば相続税納税の特典です。

納税資金の確保が困難。そんな時に、相続した財産を売却し相続税を納める場合には、取得費加算という特典を付けますということです。

相続税の取得費加算の特例を受けられる条件は以下のようになります。

  1. 相続税が課税されていること
  2. 相続または遺贈により財産を取得していること
  3. 相続開始の日から3年10カ月以内に売却していること

相続税の取得費加算の特例は、基本的には相続税を納めるための特典なのですが、相続税を納めた後でも、上記の条件に該当していれば適用できます。

支払済み
支払済み
相続税を納めた後でも条件に該当していれば、取得費加算の特例は適用できます。

相続税の取得費加算の対象になる財産は、単純承認により取得した譲渡所得になる財産です。具体的には、

  1. 土地
  2. 建物
  3. 株式
  4. 動産

などが該当します。たとえ、上記のような資産でも、限定承認で相続した場合には、相続税の取得費加算の特例の適用はできません。

限定承認の詳しい内容は限定承認で借金の相続を回避に記載しています。

また、売却した財産が

  1. 雑所得
  2. 山林所得
  3. 事業所得

に該当するような場合も適用対象外です。

空き家の3000万円の特別控除と取得費加算は選択適用

2016年4月以降に空き家を相続し、2016年4月1日~2019年12月31日までの間に売却した場合には、3000万円の特別控除という制度があります。

厳密には様々な条件があります。詳しくは空き家の相続問題に記載しています。

この空き家の特例と取得費加算の特例は、両方適用出来ません。なので、どちらかを選択する形になります。

選択
選択
空き家の特例と取得費加算の特例は両方適用出来ません。どちらかを選択する必要があります。

平成26年12月31日以前に相続で取得した土地等はもっと有利だった

取得費の金額計算ですが、平成26年12月31日以前の相続で取得した土地等(借地権などを含む)については、売却していない土地等の分の相続税も取得費に加算出来ました。

例えば、平成26年12月31日以前に以下のように財産を取得し、Aの土地を売却したとします。(*は、全体の相続税が1000万の場合の、その財産の占める割合の相続税額です。)

  1. Aの土地:(*相続税200万円)
  2. Bの土地:(*相続税300万円)
  3. Cの建物:(*相続税500万円)

この場合、取得費にAの200万円はもちろん、Bの土地の300万円も加算出来ました。

もしも、これが平成27年1月1日以後に相続した財産だったら、Aの200万円だけの取得費加算となります。

相続財産の3年以内の売却について動画で解説

相続財産の3年以内の売却について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

相続財産は3年以内の売却が有利?

動画内容

相続財産は3年以内の売却が有利、ということについてお話しを致します。

不動産や株式といった、お金でないものを相続した場合の相続税は、自己負担か、あるいは相続した財産を売却して、準備することが一般的です。

しかしながら、不動産や株式を売却すると、その売却によって得た利益には、譲渡所得税が課されます。

譲渡所得税は、売却して得た金額から、その財産の取得費用と、譲渡するためにかかった費用を控除した金額に、所定の税率をかけて計算します。

財産の取得費とは、財産の購入費などのことです。

しかし、相続税を支払うために準備したお金に、税金がかかるのは、ちょっと納得いきませんよね。

そこで、相続財産については、相続税の申告期限後3年以内に売却した場合、売却した財産にかかる相続税を、財産の取得費に加算してよいとしています。

つまり、売却によって得た利益から、相続税分を控除してよい、ということです。

相続税額の取得費加算が認められる条件は、次の3つです。

  1. 相続税が課税されていること
  2. 相続または遺贈により財産を取得していること
  3. 相続開始の日から3年10カ月以内に売却していること

重要なのは3つ目の期限です。

つまり、相続財産を売却するなら、3年以内にした方が、節税に有利というわけです。

ちなみに、利益から控除できる相続税額は、売却した財産に相当する金額だけです。

その人が相続した全ての財産に対して、売却した財産がどのくらいを占めるか、その割合で計算をします。

また、対象は譲渡所得税がかかるものだけですので、事業所得や雑所得など、他の所得に該当する売却であれば、この特例は使えません。

ちなみに、亡くなった人が暮らしていた空き家を売却した場合、別の特例があって、売却によって得た利益から、最高3,000万円まで控除できる特例もあります。

この空き家の特例は、相続税額の取得費加算とは併用できませんので、注意をしてください。