
遺産の代償分割とは、特定の相続人が不動産などの遺産を多く受け取る代わりに、他の相続人に対して自分の財産(現金など)を支払うことで、相続人同士の不公平をなくす分割方法です。2024年からの相続登記義務化もあり、不動産の権利関係をスッキリさせられる代償分割は注目されていますが、やり方を間違えると思わぬ税金(贈与税や譲渡所得税)の対象になります。正しい手続きのポイントを分かりやすく解説します。
遺産の代償分割とは、遺産を多く相続した人(例:実家の土地を丸ごと相続した長男)が、他の相続人(次男や長女など)に対して、自分が持っている現金などを「代償金」として支払うことで、相続人同士の公平を図る方法です。
たとえば、1億2,000万円の価値がある土地を相続人4人(長男・次男・長女・次女)で相続するケースを考えてみましょう。
この土地を「共有名義」にするのは、将来不動産を売却したり活用したりする際に全員の同意が必要となり、後の世代でトラブルの種になるためおすすめできません(参考:共有での遺産相続は避けるべき!)。さらに、2024年(令和6年)4月1日からは「相続登記が義務化(期限は3年以内)」されたため、不動産の取得者を明確に決めて単独名義にする重要性が以前よりも高まっています。
そこで、一旦長男が土地をすべて相続し、その代わりに長男から他の3人へそれぞれ3,000万円ずつ現金を支払う。これが代償分割の典型的な流れです。
代償分割は、以下のようなケースで特によく使われます。
代償分割のメリット
代償分割のデメリット
最大のデメリットは、遺産を多く引き継ぐ人に「代償金を支払うだけの資金力(現金)」が必要になるという点です。

ただし、一括で支払える現金がない場合は、相続人同士で合意すれば分割払いにすることも可能です。相続した土地にアパートを建て、そこから得られる家賃収入を原資にして、毎月少しずつ他の相続人に代償金を支払っていくといった工夫も考えられます。

【要注意】分割払いにする際のリスク
分割払いは手元の資金がなくても代償分割ができる便利な方法ですが、数年後に支払いが滞る「未払いトラブル」に発展するケースも少なくありません。もし分割払いを選択する場合は、万が一の事態に備えて、強制執行の効力を持つ「公正証書」で合意内容を残しておくことを強くおすすめします。
代償分割で他の相続人に渡す財産は、現金に限りません。「相続人自身が元々持っていた不動産」などを代わりとして渡すことも可能です。
しかし、不動産などを代償として渡す場合は要注意です。税務上は「不動産を時価で売却して、そのお金を渡した」のと同じ扱いになるため、不動産に含み益がある場合は譲渡所得税の申告と納税が必要になります。

代償分割で最も怖いのが、手続きの不備により意図せず「贈与税」がかかってしまうケースです。
例えば、相続人が長男と長女の2人で、遺産が「3,000万円の土地」のみ。これとは別に「受取人が長女に指定されている生命保険金5,000万円」があったとします。
二人が話し合い、以下のように分けることにしました。
一見、お互い4,000万円ずつで公平に分けたように見えます。しかし、長女が長男へ渡した1,000万円には贈与税が課せられてしまいます。
なぜ贈与税がかかるのか?(生命保険の落とし穴)
その理由は、生命保険金は「受取人固有の財産」であり、原則として遺産分割の対象となる「本来の相続財産(遺産)」ではないからです。
つまり、法的には長女は「遺産」を1円も引き継いでいない状態になります。遺産をもらっていないのに長男にお金を渡す行為は、「遺産をもらった代償」としては認められず、単なる「長女から長男へのプレゼント(生前贈与)」とみなされてしまうのです。
このように、代償分割に生命保険を活用する場合は、受取人の指定などに十分な注意が必要です。(詳しくは代償分割には生命保険が有効だが贈与税の対象になる可能性があるをご覧ください。)

通常の代償分割でも要注意!贈与税を防ぐ「遺産分割協議書」の書き方
上記のような生命保険のケースでなくても、油断は禁物です。例えば、正しく「長男が土地をすべて相続し、自分の貯金から長女に代償金を払う」という通常のケースであっても、やり方を間違えると贈与税を疑われます。
正しい代償分割であることを税務署に証明するためには、必ず遺産分割協議書に代償分割の旨をはっきりと明記しなければなりません。
記載がないまま長男から長女へお金を移動させると、単なる兄弟間の贈与とみなされてしまいます。
必ず協議書の中に「長男〇〇は、本件不動産を取得する代償として、長女〇〇に対し、代償金として金〇〇万円を支払う」といった一文をしっかりと記載しておくことが重要です。
個人の現金を直接やり取りする以外に、法人を設立して代償分割に似た効果を生み出す方法もあります。

たとえば、1億6,000万円の収益物件(アパートやマンションなど)を、相続人4人(長男・次男・長女・次女)で分けるケースです。
まず長男が不動産を全て相続し、その物件を管理する「不動産管理会社」を新たに設立します。そして、その会社に次男・長女・次女を「役員」として迎え入れます。
不動産から得られる家賃収入などの利益の中から、次男・長女・次女に対して「役員報酬」という形でお金を支払っていくのです。
厳密には代償分割という制度そのものではありませんが、実質的に「長男が不動産を持ちつつ、他の兄弟にも利益を分配する」という同じ効果が見込めます。
(参考:不動産管理会社で所得分散や会社設立での相続税節税方法)
ただし、この方法には以下のような取り決めや負担が伴います。
代償分割は相続税、贈与税、譲渡所得税など様々な税金が絡む上、親族間の権利関係にも直結します。実行する前には必ず税理士などの専門家へご相談することをおすすめします。
遺産の代償分割について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
遺産の代償分割とは何人かいる相続人の中で、他の人よりも多く遺産を相続した人が他の相続人にお金などを渡して、相続人の間で不公平がおきないようにする方法です。
例えば都心で4,000万円の土地を、長男、次男、長女、次女の4人で相続になった場合で考えてみましょう。
この土地を4つに分けたら、とても小さくなってしまいます。
そして実家の土地だから誰かに売るのも嫌なんです。
そんな時、長男が土地を全部相続して、その代わりに長男から他の3人に4,000万円を4で割った金額である1,000万円ずつをお金で払います。
こうすれば4人が平等な相続をしたことになります。
このようなやり方を代償分割と言います。
遺産の代償分割は相続する人の間で相続額が公平になること、また土地を共有名義にして、次の世代で権利関係を複雑にしないで済むこと、これがメリットとなります。
ただし、この例では長男は3,000万円の現金を用意しなければなりません。
これがデメリットです。
一気に3,000万円払うのは大変なので、分割払いもできます。
相続した土地にマンションを建てて、その収入から払うこともできます。
遺産を代償分割する時には、必ず遺産分割協議書にその内容を書きましょう。
遺産の代償分割には、現金以外に土地などを渡すこともできますが、譲渡所得税や贈与税の対象になることがあります。
遺産の代償分割でお悩みの方は、税理士法人・都心綜合会計事務所にお任せください。