
不動産賃貸業の税金対策として有効な「不動産管理会社の設立」。大きく分けて、不動産の名義を個人のままにするか、法人にするかの2つの方法があります。メリットだけでなく、税務調査で否認されないための重要ポイントや維持コストの注意点も解説します。
不動産賃貸業は年数が経つにつれて、以下のような理由から経費が少なくなっていく傾向があります。
経費が減るということは、それだけ利益が出やすくなり、結果として所得税の負担が年々重くなることを意味します。
この増え続ける所得税の負担を軽減し、同時に相続税対策も行うために有効なのが不動産管理会社の設立です。
オーナー1人に集中している不動産収入を、会社を利用して上手くコントロールすることで、以下のような効果が期待できます。
この法人を利用した対策には、大きく分けて次の2つのアプローチがあります。
不動産の名義はそのまま個人の状態にしておき、管理業務だけを会社で行うアプローチです。これには主に2つの方式があります。
管理委託方式とは、個人(オーナー)が所有する不動産の管理業務を、設立した会社に委託する形です。
会社が担う管理業務としては、集金、清掃、更新業務、入居者募集、苦情対応、賃貸借契約の締結など多岐にわたります。
オーナーはこれらの業務の対価として、個人から会社へ「管理料」を支払います。
そして、会社は受け取った管理料の中から、配偶者や子供などの家族を役員や従業員にし、役員報酬や給与として支払います。
これにより、オーナー1人に集中していた不動産収入を家族へ分散させることができます。

収入が分散されることでオーナー個人の財産増加を防ぎ(相続税対策)、さらに給与を受け取る家族は給与所得控除が使えるため、世帯全体での税負担を軽くできるメリットがあります。
【⚠️税務調査の重要注意ポイント】
ここで非常に注意が必要なのが、役員報酬の「実態」です。
節税目的で家族を役員にしたものの、実際には何も業務を行っていない場合、税務調査で「実質的な給与ではない」として厳しく否認される可能性が高いです。
役員報酬を支払うからには、実際に清掃や集金、帳簿づけなどの業務をしっかりと行っているという「実態(証拠)」を残すことが不可欠です。
税務調査で否認されないためにも、以下のような対策を徹底しましょう。
また、個人から会社に支払う管理料も、家賃収入の5~8%程度が世間一般の相場とされています。
「節税したいから」と、家賃収入100万円に対して50万円を管理料にするような極端な設定も、税務上否認されるリスクがあります。
【⚠️見落としがちな「社会保険料」の負担】
税金対策として家族に役員報酬を支払う場合、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が発生します。
所得税や住民税が安くなっても、社会保険料の負担が重くのしかかり、「トータルで見ると手元にお金が残らなかった」という失敗ケースも少なくありません。
事前のシミュレーションでは、必ず社会保険料の負担も含めて計算することが重要です。

サブリース方式は、不動産管理会社がオーナーの不動産を丸ごと借り上げ、オーナーに代わって入居者(テナント)へ転貸(てんたい)する方式です。
節税の基本的な仕組みは管理委託方式と同じです。
【⚠️税務調査の重要注意ポイント】
サブリースの場合、会社が空室リスクや家賃下落リスクを負うため、管理委託方式よりも高い手数料(実際家賃の15~20%程度)を設定するのが一般的です。
しかし、立地が極めて良く「常に満室で空室リスクがほとんどない優良物件」に対して、家族の会社だからといって20%もの高い手数料を引いてしまうと、税務署から「不当な利益移転である」と判断されるリスクがあります。
手数料の割合は、実際の空室リスクや業務内容に見合った適正な水準に設定することが非常に重要です。
近年、実態のない同族会社への高額なサブリース手数料は、税務調査で最も狙われやすいポイントの一つです。

管理だけを会社に任せるのではなく、不動産(建物など)の名義そのものを法人にする方法です。
近年では、こちらのほうが所得税・相続税対策としてより抜本的で有効と言われています。
最大の理由は、不動産を法人名義にすれば、家賃収入の100%が法人(会社)の売上になるからです。
個人の不動産収入は完全にゼロになり、元オーナーの収入は会社からの役員報酬のみとなります。
これにより、個人の手元に現金がどんどん貯まっていくのを防ぎ、強力に相続財産の増加をストップさせることができます。
また、法人が所有する物件に社長やその家族(役員)が住み、会社に一定の家賃(適正家賃)を支払うことで、実質的に自宅の家賃の大部分を会社の経費にする(役員社宅の活用)という強力な節税メリットも得られます。
もちろん、配偶者や子供を役員にして所得を分散させることも可能です。
ただし、「不動産を会社が所有する=株主が間接的に不動産を所有する」ことと同義になるため、会社設立時に「誰を株主にするか」という設計が非常に重要になります。
【⚠️移転時の初期費用に注意】
建物を個人から法人へ売却などで移転する際には、法人側に「不動産取得税」や「登録免許税」といった初期費用(移転コスト)が発生します。
また、建物の売買には消費税がかかるケースもあります。
特に近年は税制改正により、居住用の賃貸建物を法人が買った場合、支払った消費税を会社の経費や還付として差し引く(仕入税額控除)ことが、原則としてできなくなりました。
そのため、想定以上に初期費用が高額になるケースがあります。
法人化による毎年の節税額と、この初期費用を比較し、「数年単位でしっかりと元が取れるか」を事前にシミュレーションしておく必要があります。
【⚠️法人の「毎年の維持コスト(ランニングコスト)」】
個人の確定申告とは異なり、法人はたとえ赤字であっても毎年「法人住民税の均等割(最低でも約7万円)」を納める必要があります。
また、法人の決算申告は非常に複雑なため、税理士に依頼する報酬も個人事業主時代より高くなるのが一般的です。
毎年の「節税額」とこれらの「維持コスト」を天秤にかけ、総合的にプラスになるかをしっかり検討しましょう。
【⚠️土地の無償返還の届出書】
多くの場合、土地は個人のままで建物だけを法人に移転します。
このとき、税務署へ「土地の無償返還の届出書」を提出しなければなりません。
これを忘れると、個人から法人へ借地権をタダで贈与したとみなされ、会社側に多額の法人税が課せられてしまう恐れがあるため注意が必要です。
通常、不動産そのものは「半分だけ渡す」といったことが物理的に難しく、金額も大きいため生前贈与がしにくい財産です。
しかし、不動産を法人が所有していれば、「不動産の贈与」ではなく「法人の株式(出資持分)の贈与」という形に変換することができます。
株式であれば、細かく分けて少しずつ子供や孫へ生前贈与することが容易になります。
また、不動産そのものを贈与するときにかかる高額な登記費用や不動産取得税も、株式の贈与であればかかりません。
共有名義による将来のトラブルも防ぎやすくなります。
さらに、現在、生前贈与の「持ち戻し期間」は段階的に7年へ延長される新ルールに移行しているため、株式化して早めに少しずつ贈与をスタートさせることがより一層重要になっています。
ここで大きなメリットとなるのが「孫への贈与」です。
原則として、法定相続人ではない孫への生前贈与は、この「7年の持ち戻しルール」の対象外となります。
株式に変換して孫へ贈与することで、より効果的な相続税対策が可能になります。
ただし、遺言書でその孫にも財産を残す場合(遺贈)や、すでに子供が亡くなっており孫が代襲相続人になる場合は、孫であっても持ち戻しの対象となるため注意が必要です。
【⚠️株式評価の注意点(取得後3年以内のルールとマンション評価)】
ただし、ここにも落とし穴があります。会社の資産が「不動産ばかり」になっている会社(土地保有特定会社など)の場合、株式の評価額が結局は純資産(不動産の価値)に連動して計算されてしまい、「株にしたのに評価額が全然下がらない」という事態になりかねません。
さらに、法人が不動産を取得してから「3年以内」にその株式を贈与(または相続)する場合、不動産は路線価などではなく通常の市場価格(高い価格)で評価しなければならないという厳しいルールがあります。
また、近年(2024年以降)はマンション(区分所有建物)の相続税評価額の計算ルールが厳格化されました。(※なお、一棟丸ごとのアパートやマンションには、この新ルールは適用されません。)
これにより、法人が所有する不動産がマンションの場合、3年経過後であっても市場価格の最低6割程度まで評価額が引き上げられる可能性があります。
設立してすぐに株を贈与しても節税効果は薄いため、株式を使った生前贈与を進める場合は、税理士による精緻な株価計算と中長期的な事前対策が欠かせません。