
相続税の未分割申告はデメリットが多いため、基本的には避けるべきだとされています。しかし、状況によってはあえて未分割申告を選択した方が、結果的に有利になるケースも存在します。代表的な例としては、未成年の相続人が18歳の成人を迎えてから遺産分割を行いたい場合が挙げられます。また、短期間に相次いで相続が発生する「数次相続」において、全体の相続税額を抑えたい場合にも非常に有効な戦略となります。この記事では、戦略的に未分割申告を活用すべき具体的なケースについて、わかりやすく解説していきます。
相続税の未分割申告には、精神的な負担が長引くことや、税額軽減の特例が使えないといった多くのデメリットがあります。
未分割のままだと上記のようなデメリットが生じるためです。
このようにデメリットが目立つ未分割申告ですが、あえて選んだ方が有利になるケースが存在します。
その代表例が、相続人の中に18歳未満の未成年者が含まれている場合です。
法律上、未成年者は単独で遺産分割協議に参加することができません。
未成年者が遺産分割を行うには、原則として親権者の同意が必要となります。
しかし、親権者である親も一緒に相続人となっている場合、親と子で利益が相反する状態になってしまいます。
この場合、親は子供の代理人になれないため、家庭裁判所に申し立てて「特別代理人」を選任してもらわなければなりません。
詳しくは未成年者や胎児がいる場合の遺産分割には特別代理人を立てるに記載しています。
特別代理人を選任する際には、事前に遺産分割協議案を家庭裁判所へ提出する必要があります。
ここで注意すべきなのは、未成年者の取得分を法定相続分よりも少なく設定した協議案は、裁判所に認められないことが多いという点です。
法定相続分通りに分けた結果、未成年の子供に数億円といった多額の財産を相続させるケースも起こり得ます。
教育上の観点から、若いうちから多額の財産を手にさせるのは避けたいと考える親御さんは少なくありません。
そこで、まずは未分割の状態で相続税を申告し、未成年者が18歳の成人を迎えてから改めて遺産分割を行うという戦略が有効になります。
未分割申告の際は、ひとまず法定相続分で計算した税額を各人が立て替えて納税する必要があります。
もし手元に納税資金がない場合は、遺産分割前でもひとつの金融機関につき上限150万円まで引き出せる「預貯金の仮払い制度」の活用も検討しましょう。
ただし、実際の引き出し可能額には「口座残高×3分の1×法定相続分」という計算式があるため、必ずしも150万円全額を引き出せるわけではありません。
後から「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を使って税金を取り戻すためには、絶対に必要な条件があります。
それは、最初の未分割申告を行う際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出しておくことです。
これを出し忘れると、数年後に18歳になって遺産分割をしても特例が一切使えなくなり、大きな損失に繋がります。
また、この戦略が現実的に使えるのは、該当する未成年者が18歳目前である場合に限られます。
詳しくは申告期限後3年以内に遺産分割がまとまらない場合に記載していますが、申告期限から3年以上経過する場合は特別な手続きが必要です。
具体的には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を受けなければなりません。
単に「未成年の相続人がいるから」という理由だけでは、特別代理人を立てれば解決するとみなされるため、承認される可能性は極めて低いです。
そのため、成人になるまで3年以上の期間が空く場合には、この戦略は使えないと考えておきましょう。
父親が亡くなり、その遺産分割協議が終わらないうちに母親も亡くなってしまったケースを想定してみましょう。
家族構成が父親、母親、子供2人の場合、1回目の相続(父親)では母親と子供2人が相続人になります。
続く2回目の相続(母親)では、子供2人のみが相続人となります。
このように、最初の相続手続きが完了する前に次の相続が発生することを「数次相続」と呼びます。
この場合、亡くなった母親が父親の遺産をどのように引き継いだことにするかは、残された子供2人の話し合いで決定します。
1回目の相続税申告では、母親も財産を相続した前提で申告を行わなければなりません。
ここで非常に複雑になるのが、それぞれの相続税の申告期限がズレてしまうという点です。
例えば、次のような日程で立て続けに相続が発生したと仮定します。
このケースにおける申告期限は、以下の通りに計算されます。
なお、令和8年5月3日は祝日(憲法記念日)であり、続く数日も連休となるため、実際の法的な申告窓口の期限は連休明けの平日(令和8年の場合は5月7日木曜日)にスライドします。
この記事では基本的な考え方を理解していただくため、原則である「10ヶ月後」の目安で記載しています。
数次相続が発生した場合、1回目と2回目の相続税を合算した総額が最も安くなるように遺産を分けるのが節税の鉄則です。

したがって、まずは期限が早く到来する1回目の申告(子供2人分の申告)を、法定相続分で分けたと仮定する「未分割状態」で済ませておきます。
とりあえず未分割で申告しておくことで、期限を守りつつ財産評価を確定させることができます。
その後、トータルの税負担が最小になる遺産分割の割合をじっくりとシミュレーションします。
最終的な遺産分割協議がまとまった段階で、1回目の申告に対して更正の請求や修正申告を行うという手法が非常に有効です。
なお、この場合も後から特例を適用して税金を取り戻すためには、1回目の未分割申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておく必要があります。
特例の適用漏れを防ぐためにも、見込書の提出は決して忘れないようにしましょう。
また、未分割の状態が長引く場合に忘れてはいけないのが、2024年4月に施行された「相続登記の義務化」への対応です。
遺産に不動産が含まれている場合、相続開始から3年以内に相続登記を行わないと過料の対象になる恐れがあります。
遺産分割の話し合いが3年以内にまとまらない場合は、ペナルティを避けるため、とりあえず「相続人申告登記」という簡易的な手続きだけは済ませておきましょう。