未成年の相続人が成人してから遺産分割をするために未分割を選択
相続税の未分割申告は、原則は避けるべきです。
- 精神的な負担が長引く
- 税額軽減の特例が使えない
- 被相続人の遺産から税金を捻出できない
などのデメリットがあるからです。
ただ、戦略的に未分割申告を選択したほうがいい場合もあります。
一つは相続人の中に未成年者がいる場合です。
未成年者は単独で遺産分割協議(法律行為)をすることが出来ません。
未成年者の法律行為には親権者の同意が必要です。
しかし、その親権者が共同相続人である場合には、利益相反となるため特別代理人を立てる必要があります。
詳しくは未成年者や胎児がいる場合の遺産分割には特別代理人を立てるに記載しています。
そして特別代理人の選任申立てのため、遺産分割協議案を家庭裁判所に提出します。
問題はこの遺産分割協議案が、未成年者だからといって法定相続分未満にしている場合、特別代理人の選任が認められない場合があります。
例えば法定相続分通りに、その未成年者が遺産相続するとなった場合、数億円も相続させることになったらどうでしょうか?
教育上の観点から、若いうちに多額の遺産を相続させたくないと考える方も少なくありません。
そこで一旦未分割で相続税を申告し、その未成年者が成人になってから遺産分割をするということがあります。
ただし、この手法が使えるのは、その未成年者が20歳に近い年齢である必要があります。
詳しくは申告期限後3年以内に遺産分割がまとまらない場合に記載していますが、成人になるまで3年以上ある場合、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書を提出し、承認される必要があります。
そして、「共同相続人の中に未成年者がいる」という理由だけでは、承認されない可能性が高いです。
よって、相続税の申告期限から成人になるまでに3年以上かかる場合には、この手法は使えないと考えたほうが賢明です。
1回目と2回目の相続税の合計額を抑えるために未分割を選択
父親がなくなり、その父親の遺産分割協議もまとまらない最中に母親が亡くなった。
父親・母親・子供2人だとした場合、1回目の相続では母と子供2人が、2回目の相続では子供2人が相続人となります。
(ちなみに、このような1回目の相続が完了する前に、その相続人が亡くなってしまうことを数次相続といいます。)
そしてこの場合、母親が父親の遺産をどのように相続する(したことにする)かを残った相続人で決めます。
なので、この場合は子供2人が決めることになります。
(なお、残った相続人が1人の場合は、法定相続分で相続したことにするのか?それとも残った相続人が決めるのか?という論点があります。残った相続人が複数の場合は、その相続人で(この場合は母親の相続分を)決めます。)
1回目の相続税の申告では、あくまでも母親も相続したということなので、母親の分も申告する必要があります。
やっかいなのが申告期限が異なってくることです。
仮に
- 父の相続開始日:令和1年7月3日
- 母の相続開始日:令和2年2月1日
だったとします。
この場合、申告期限はそれぞれ以下のようになります。
- 父の相続
子供2人:令和2年5月3日
母親:令和2年12月1日 - 母の相続
子供2人:令和2年12月1日
数次相続の場合、1回目と2回目の相続税の合計が安くなるように、遺産分割するのが鉄則です。
なので1回目の相続税の申告(子供2人の申告)の際に未分割で申告をし、財産評価を確定して合計での税負担が一番少ない形での遺産分割をして、1回目の相続に係わる申告の更正の請求、もしくは修正申告をするという方法があります。
動画で解説
相続税を未分割申告した方がいい場合について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
今回は、あえて未分割申告をする方がいいケースをご紹介します。
1つ目は、相続人の中に未成年者がいる場合です。
未成年者は、自分だけで遺産分割協議に加わることができません。
何故かと言うと、遺産分割協議は法律行為なので、未成年者には認められていないからです。
未成年者の法律行為には親権者、つまり、一般的には親の同意がなければいけません。
けれども、親と未成年者である子供が相続人になった場合には、親と子どもで利益相反となるため、親が子供の代理人にはなれません。
このような場合には、家庭裁判所に「特別代理人」を選んでください、という申し立てをします。
これを「特別代理人の選任」と言い、この特別代理人の選任には、遺産分割協議案が必要です。
ただし、この遺産分割協議案で未成年者の取り分を、法定相続分未満にしている場合には、特別代理人の選任が認められないときがあります。
しかし、未成年者に法定相続分未満の取り分しか分けたくない場合もあります。
例えば、法定相続分通りに未成年者が遺産相続をすると、数億円も相続することになったら、どうでしょうか?若いうちに数億円を遺産としてもらう、というのは教育上の観点から、あまり良くないと考える方もいるでしょう。
そこで一旦、未分割で相続税を申告し、その未成年者が成人になってから、改めて遺産分割をするという場合があります。
ただし、このやり方が使えるのは、その未成年者が20歳に近い年齢であることが必要です。
詳細は割愛いたしますが、相続税の申告期限から、成年になるまで3年以上かかる場合にはこの方法は使えない、と考えましょう。
未分割申告をした方がいい場合の2つ目のケースは、1回目の相続が終わらない前に、2回目の相続が起きた場合です。
この場合は、相続税の合計額を抑えるために、未分割申告を選択する方が良い場合があります。
例えば、お父さんとお母さん、そして子ども2人の家庭で、お父さんが亡くなり、その遺産分割協議をしている最中にお母さんが亡くなった、というようなケースです。
お父さんが亡くなった時、つまり、1回目の相続人はお母さんと子供二人です。
次にお母さんが亡くなった時、つまり、2回目の相続人は子ども二人だけです。
こういう時には、お母さんがお父さんの遺産を、どんなふうに相続したかを残った子ども二人で決めます。
亡くなったお母さんも一旦は、お父さんの遺産を相続しました、という手続きをするということです。
ただし、お母さんの申告期限が子ども2人と違う、という注意点があります。
例えば、お父さんが亡くなった日が令和元年7月3日、お母さんが亡くなった日が令和2年2月1日だとします。
すると、お父さんの相続の申告期限は、通常であれば、亡くなった日の翌日の10カ月後である、令和2年5月3日となります。
そして、子ども2人は令和2年5月3日で問題ありません。
ただし、お母さんは令和2年2月1日が、申告期限となります。
何故なら、お母さんは令和2年2月1日に死亡しているからです。
ちなみに、お母さんの相続開始日は、令和2年2月1日で、その申告期限は子ども2人とも、令和2年12月1日となります。
このように短期間に相続が続いた場合には、1回目の相続で子供2人分の申告を未分割申告にして、財産評価を確定させます。
そして、合計で相続税の負担が一番少なくなる方法で、遺産分割をしてから、1回目の相続について「更正の請求」または修正申告をすると節税ができます。
いずれにしても、細かい計算が必要になりますので、こういうケースは専門家に相談をして、節税効果が高い方法を教えてもらいましょう。
そして、相続のことなら、税理士法人・都心綜合会計事務所にお任せください。
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