一部分割財産を特別受益として計算する

遺産の一部しか遺産分割が完了していない場合の、相続税申告方法について解説しています。

遺産の一部しか遺産分割が完了しない場合

現預金の分割は相続人で合意がとれた。だけど、不動産はまとまらない。

あるいはその逆。もしくは、この財産だけは譲れない。

一部未分割
一部未分割
遺産の一部の分割協議がまとまらない

このような場合も少なくありません。また、

  • 相続人が多数いる
  • 遺産が多岐にある
  • 遺産の一部の把握が困難

などの場合には、先んじて遺産の一部のみを分割協議することもあります。

関連記事へのアイコン関連記事

故人の遺産なのか不明な財産がある場合の遺産分割協議は?

また、法律的にも一部のみの遺産分割は禁止されていません。

そして、実は遺産の一部が未分割である場合の相続税の計算方法は、相続税法等に規定がありません。

規定
規定
遺産の一部が未分割である場合の相続税の計算方法に規定はない

では計算出来ないのかというと、そういうわけでもなく、以下の2つの計算方法があります。

  1. 積上方式
  2. 穴埋方式

ただ、相続税申告の実務の現場では、過去の裁決事例等を考慮すると、穴埋方式で計算するのが一般的で合理的と言えます。

穴埋方式

穴埋方式とは、一部分割財産を特別受益と考えます。(特別受益についての詳しい内容は、特別受益に記載しています。)

なので一旦、分割・未分割に関係なく遺産全体を分割対象財産とし、これに法定相続分を乗じて計算します。(法定相続分についての詳しい内容は、法定相続分に記載しています。)

その金額から一部分割財産を差し引き、未分割財産の配分額を算出します。

そして、その一部分割財産+未分割財産の配分額が各相続人の課税価格となります。

穴埋方式の具体的計算例

遺産の総額が4億円、相続人が長男と次男の2人、長男が1億5千万、次男が5千万円を遺産相続することは確定したが、残りの2億円は未分割。

この場合の穴埋方式の計算方法は以下のようになります。

  1. 相続財産総額4億円
  2. 長男の法定相続分2億円
  3. 次男の法定相続分2億円
  4. 長男の未分割財産配分額5千万円
    (2.の2億円 - 分割済の1億5千万)
  5. 次男の未分割財産配分額1億5千万円
    (3.の2億円 - 分割済の5千万)
  6. 長男の課税価格2億円
    (未分割財産配分額5千万円 + 分割済の1億5千万)
  7. 次男の課税価格2億円
    (未分割財産配分額1億5千万円 + 分割済の5千万)

穴埋方式は遺産全体に対して法定相続分を乗じるため、相続人間の公平が保てるという特徴があります。

積上方式

積上方式とは、未分割財産に法定相続分を乗じる計算方式です。

積上方式の具体的計算例

上述の穴埋方式と同様の条件で、積上方式で計算した場合は、以下のようになります。

  1. 未分割財産2億円
  2. 長男の未分割財産配分額1億円(1.の2億円 × 1/2)
  3. 次男の未分割財産配分額1億円(1.の2億円 × 1/2)
  4. 長男の課税価格2億5千万円
    (未分割財産配分額1億円 + 分割済の1億5千万)
  5. 次男の課税価格1億5千万円
    (未分割財産配分額1億円 + 分割済の5千万)

このように計算方法で課税価格が異なってきます。

ただ、相続税申告の実務においては、穴埋方式で計算するのが相当である、という判決があり、この積上方式で計算することは、ほぼないと考えた方が賢明です。

動画で解説

遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告方法について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

遺産の一部が未分割である場合の相続税の申告方法

動画内容

遺産の分割で、例えば現金や預貯金の分割については、相続人の間で合意ができた。

でも、不動産についてはまとまらない、という場合も少なくありません。

また、相続人が多数いたり、遺産が住宅地や山林、マンションや預金などいろいろな種類があったり、さらには遺産の全部がなかなか分からない。

こんな場合には、遺産の一部を先に分割協議するというのも一つの手です。

法的にも一部のみの遺産分割は禁止されていません。

しかし、遺産の一部だけを分割し、残りが未分割である場合の相続税の計算方法には規定がありません。

では計算はできないのか?というと、そうではありません。

実は2つの計算方法があります。

それは「穴埋め方式」と「積み上げ方式」です。

ただ、実際には過去の裁判の事例などから、「穴埋め方式」で計算するのが一般的です。

では、さっそく穴埋め方式についてご説明致します。

穴埋め方式とは、一部分、先に分割した財産を特別受益、つまり亡くなった人の生前にもらったもの、として考えます。

このため一旦は、分割・未分割に関係なく、遺産全体を分割の対象とする財産と考え、これに法定相続分を掛けて計算します。

そして、その金額から先に分割した財産を差し引きして、未分割財産の配分額を計算します。

最後に先に分割した財産に未分割財産の配分額を足して、各相続人の課税価格とします。

では具体的に例を出して計算してみましょう。

亡くなった人:お父さん

相続人:長男と次男の2人

相続財産の総額:5000万円

分割済み財産:長男2000万円、次男1000万円

これは合意、確定しました。

残りの2000万円が未分割。

これを穴埋め方式で計算すると、次のようになります。

相続財産総額は5000万円。

そのため、長男と次男の法定相続分は、それぞれ2500万円です。

長男の未分割財産配分額は、法定相続分の2500万円から、分割済みの2000万円を差し引いた500万円

次男の未分割財産配分額は、法定相続分の2500万円から、分割済み1000万円を差し引いた1500万円

そして、長男と次男の課税価格は

長男:未分割財産配分額500万円+分割済みの2000万円で2500万円

次男:未分割財産配分額1500万円に分割済みの1000万円を足して2500万円

このように穴埋め方式は、遺産全体に対して法定相続分を掛けるため、相続人どうしで公平になる、という特徴があります。

もう一つの積み上げ方式は、未分割財産に法定相続分を掛ける方式です。

ただ、この積み上げ方式では、相続人の間で公平にならないため、穴埋め方式で計算する、という判決があり、積み上げ方式を使うことは、ほぼございませんので、詳細は割愛をさせて頂きます。

このように、自分達の遺産分割が一部だけ合意した場合でも、相続税の計算は可能です。

申告期限に間に合うように、早めに準備をしながら、計算方法など不安な点があったら、ぜひ専門家に相談して下さい。