1人だけ相続放棄しても【負の遺産】は消えない
相続放棄したことにより、新たな相続人を生む場合があります。
そして、その新たな相続人も相続放棄をしないと、その方が【負の遺産】を受け継ぐことになります。
親族全員で相続放棄しないと誰かが負の遺産を引き継ぐことになる
借金等の負の遺産から逃れるため、相続放棄をした。
無事手続きも終わりホッと一息。
気持ちは分かります。
ただ、相続放棄はご自身のことだけを考えてしてはいけません。
というのも、相続放棄をすると相続人が変わり、負の遺産はその相続人へ引き継がれることになるからです。
詳しくは、相続放棄をすると相続人が変わるに記載しています。
また、相続放棄の誤解として、相続放棄すると、自分の子供へ相続させることが出来ると考えている方も少なくありません。
ちなみに、この場合子供へ相続させることは出来ません。
相続放棄は代襲相続の原因とならないからです。
(詳しくは代襲相続とは?実例でわかりやすく解説に記載)
だったら別に相続放棄しても問題ないじゃない?と思うかもしれません。
しかし、相続放棄は代襲相続の原因にはならなくても、同じ順位(相続順位)の者が全員相続放棄した場合、次の相続順位の者へ相続することになります。
相続人の順位についての詳しい内容は、法定相続人になれる人に記載しています。
例えば、被相続人(故人)に以下のような親族がいたとします。
- 子供(第1順位)
- 配偶者(第1順位)
- 母親(第2順位)
- 兄A(第3順位)
- 妹B(第3順位)
この親族関係の場合、被相続人(故人)の借金は誰が相続することになるのか(誰が相続人になるのか)?
以下のようになります。
- 放棄:子供 → 配偶者
- 放棄:子供・配偶者 → 母親
- 放棄:子供・配偶者・母親 → 兄A・妹B
- 放棄:子供・配偶者・母親・兄A → 妹B
このように、親族全員(この場合、子供・配偶者・母親・兄A・妹B)が相続放棄しないと、親族のうち誰かが被相続人の借金を相続することになります。
もしも、被相続人に莫大な借金があり、そのことを知っているのが配偶者と子供だけで、その配偶者と子供が他の親族に何も知らせずに相続放棄をしたら・・
そうです。
誰かが負の遺産を引き継ぐことになります。
相続放棄は親族(第1~第3順位の相続人全員)が協力し行いましょう。
そして、明らかに借金等の負の遺産の方が多い場合には、親族全員で相続放棄しましょう。
代襲相続に似ている再転相続の場合の相続放棄
代襲相続に似ている再転相続というものがあります。
例えば、被相続人(A)に子供(B)とBの子供である孫(C)がいたとします。
代襲相続はBがAの生存中に既に死亡したことなどにより、CがAの遺産の相続権がある状態です。
再転相続というのは、Aが死亡し、BがAの遺産を相続するか放棄するかという熟慮期間中にBが死亡してしまい(BがAの遺産を相続するか放棄するか決めていない状態)、CがAとBの遺産を相続することになったという状態です。
このような再転相続の場合の相続放棄には注意が必要です。
まず、Cが相続放棄する場合、以下の2つの相続放棄を検討する必要があります。
- Aからの相続
- Bからの相続
Aの相続の際に相続放棄が出来るはずであったBの地位を、Cが引き継いでいると考えることから、Aの相続に関する相続放棄も検討し、相続放棄することが可能です。
ただ、Bからの相続を放棄した場合、Aからの相続も自動的に放棄したことになります。
これはBからの相続を放棄したことにより、CはBの地位を引き継いだことにならないからです。
なので、Aの遺産は相続したいが、Bの遺産は放棄したい。
これは出来ません。
Bの遺産を放棄 → Aの遺産も放棄、となります。
ただ、Aの遺産は放棄し、Bの遺産を相続することは出来ます。
Cが(A,Bからの)相続放棄できる期間は、Bが死亡してCが自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月となります。
ちなみに、A,B両方からの相続を放棄したい場合は、Bの相続放棄の手続きだけをすれば大丈夫です。
自動的にAからの相続を放棄したことになりますので、この場合Aに関する相続放棄の手続きは不要です。
相続放棄で借金等の負の遺産を消す方法を動画で解説
相続放棄を活用して借金等の負の遺産を消す方法について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
相続放棄の手続きは、相続人がそれぞれ行います。
1人だけ放棄しても、その効果は他の相続人には及びません。
このことから、借金を理由に行う相続放棄は、親族全員でする必要があります。
相続放棄をすると、その相続権は、次の相続順位の相続人に移ります。
亡くなった人の配偶者以外は、ひとつ前の相続順位の相続人が、相続放棄することで、相続人となります。
相続順位は、子、親、兄弟姉妹の順に移ります。
たとえば、亡くなった人の子が相続放棄をした場合は、亡くなった人の親が、相続人になります。
借金が多いことを理由に、相続放棄をしたのであれば、自分の手続きが終わっても、その借金は身内が背負うことになるため、安心できません。
したがって、借金を理由に行う相続放棄は、親族全員で行う必要があります。
相続放棄をする時は、自分が相続放棄をした場合、誰が次の相続人になるのかを考え、新しく相続人になる人には、必ず連絡しましょう。
最後に、再転相続での相続放棄について説明をします。
再転相続とは、相続人が3ヶ月以内に相続するか、放棄するか選択しないまま、亡くなってしまった時の相続のことです。
再転相続の相続人になると、まだ相続するかどうか決まっていない、前の相続財産についても、相続するか放棄するかを選択することができます。
わかりにくいので、具体例で説明を致します。
祖父A、父B、子Cの親子3代を例に考えてみましょう。
まず、祖父Aが亡くなり、父Bが、祖父Aの財産の相続人になったとします。
しかし、父Bは、祖父Aの財産を放棄するかどうか迷っている間に、祖父Aが亡くなった一ヶ月後に、亡くなってしまいました。
この場合、子Cは、祖父Aと父Bの両方の財産を相続します。
まず、父Bからの財産については、通常の相続ですから、子Cは当然に、相続するか放棄するか、決める権利があります。
でも、それだけではなく、再転相続では、子Cは父Bの地位を承継し、祖父Aの財産についても、相続するか放棄するか、決める権利があるのです。
祖父Aの財産は放棄し、父Bの財産のみ相続することも可能です。
ただし、祖父Aの財産は相続し、父Bの財産を放棄することはできません。
父Bの地位を放棄すると、祖父Aの財産を相続する権利がなくなるからです。
したがって、全ての財産を放棄したい場合は、父Bの財産のみ、相続放棄の手続きをすれば大丈夫です。
再転相続についても、相続放棄を行える期間は、相続があったことを知った日から3ヶ月以内です。この場合、父Bが死亡したことを知った日から、3ヶ月以内となります。
少し変わった相続放棄の例として、知っておいてください。