
相続放棄を選択すると、亡くなった方の預貯金などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産もすべて手放すことになります。しかし、すべての財産を失うわけではなく、相続放棄をしても受け取れる財産は存在します。代表的なものとして、お墓や仏壇などの祭祀財産、そしてご遺族やご自身が受取人に指定されている生命保険金などが挙げられます。さらに、未支給年金や遺族年金なども受け取ることが可能です。その一方で、相続放棄をしたにもかかわらず、返済義務が残ってしまう借金も存在するため注意が必要です。また、年金と同じような公的なお金であっても、税金や医療費の還付金は自分の口座に受け取ってしまうと相続放棄ができなくなる恐れがあります。正しい知識を持たずに手続きを進めてしまうと、受け取れるはずの財産を逃してしまったり、思いがけず借金を背負ってしまったりする危険があります。この記事では、相続放棄の対象外となる財産や、手続きにおける重要な注意点について、初心者の方に向けてわかりやすく解説します。
相続が発生した際、何の手続きもしなければ、故人の預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。
もし借金の額が大きい場合などに相続放棄という手段を選ぶと、これらすべての財産を手放すことになります。
マイナスの借金だけを放棄して、プラスの預貯金だけをもらうといった都合のよい選択はできません。
相続したプラスの財産の範囲内でのみ借金を返済する限定承認という別の制度もありますが、手続きが非常に複雑です。
このように、相続放棄をするとすべてを失うとイメージされがちですが、例外として受け継ぐことができるものもあります。
そもそも民法上の相続財産に含まれないものであれば、相続放棄をした後でも引き継ぐことが可能です。
その代表例となるのが、お墓や仏壇などの祭祀財産(さいしざいさん)です。
家系図、仏壇、位牌、神棚、お墓などは、ご先祖様を祀るための特別な財産として扱われます。
これらは法律上、通常の相続財産とは切り離して考えられています。
そのため、相続放棄をした人であっても、お墓や仏壇をしっかりと受け継ぎ、守っていくことができるのです。

相続放棄をした場合でも、生命保険金を受け取れるケースがあります。
それは、生命保険の受取人が「相続放棄をした人自身」に指定されている場合です。
このケースにおいて、生命保険金は故人の財産ではなく、受取人に指定された人の固有の財産として扱われます。
そのため、相続放棄の手続きを完了した後であっても、正当な権利として堂々と受け取ることができます。
死亡退職金についても同様で、会社の規定などにより受取人がご遺族に指定されていれば、受け取れる可能性が高いです。
この仕組みを利用すれば、親の借金は相続放棄で免れつつ、生命保険金として手元に現金を残すという対策も可能になります。
ただし、税金を計算する上では十分な注意が必要です。
受け取った生命保険金はみなし相続財産として扱われ、相続税の課税対象にはなってしまいます。
生命保険の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」で計算されます。
この人数の計算に相続放棄をした人を含めることはできますが、相続放棄をした人自身が保険金を受け取った場合、この非課税枠を使って税金を安くすることはできません。
とはいえ、相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)という大きな非課税の枠組みが別途用意されています。
受け取った保険金の額がこの基礎控除の範囲内に収まっていれば、結果的に相続税を支払う必要はありません。
税金の負担がどうなるか不安な場合は、専門家に確認しておくと安心です。
ご家族が亡くなった際に支給される年金関係のお金も、相続放棄をしても受け取れる財産の一つです。
代表的なものとして、遺族年金と未支給年金が挙げられます。
遺族年金は、残されたご家族の生活を保障するために支給されるものであり、受給権者であるご遺族固有の権利とされています。
また、亡くなった方が生前に受け取るはずだった未支給年金についても、一定の遺族が自己の権利として請求することができます。
これらは故人の相続財産には含まれないため、相続放棄の手続きをした後でも問題なく受け取ることが可能です。
ただし、受け取った際の税金の扱いはそれぞれ異なります。
遺族年金は非課税のため、税金は一切かかりません。
一方で、未支給年金は受け取った遺族の一時所得として、所得税の対象になります。
ただし、一時所得には最高50万円の特別控除枠があるため、未支給年金だけで実際に税金が発生するケースは稀です。
なお、どちらの年金も故人の財産ではないため、相続税の対象にはなりません。
これらの年金は請求の手続きを行わないと受け取ることができないため、忘れずに年金事務所などで手続きを行いましょう。
未支給年金などの公的なお金は受け取ることができますが、混同しやすいのが「還付金」です。
例えば、払いすぎた所得税の還付金や、高額療養費制度による医療費の還付金などが該当します。
これらは年金と同じように国や役所から振り込まれるお金ですが、法律上の扱いは全く異なります。
還付金は「亡くなった方(故人)が本来受け取るはずだった財産」であり、明確な相続財産の一部となります。
そのため、相続放棄を検討している人が請求手続きを行い、自分宛てに還付金を受け取ってしまうと、相続する意思がある(単純承認)とみなされる危険性が高いです。
使わずに自分の口座に振り込ませて保管しておくだけでも、相続財産を処分したと判断されるおそれがあります。
単純承認とみなされると、後から借金が発覚しても相続放棄ができなくなり、すべての借金を背負うことになってしまいます。
国から送られてきた通知だからといって安易に受け取らず、還付金については手を付けないのが最も安全です。
ただし、高額療養費の還付金については重要な例外があります。
亡くなった方が、ご自身の健康保険の扶養に入っていた家族(被扶養者)である場合です。
この場合、高額療養費を受け取る権利は保険料を支払っている人(被保険者)にあるため、受け取っても相続放棄には影響しません。
故人の借金を引き継ぎたくないという理由で、相続放棄を選ぶケースは非常に多く見られます。
しかし、保証人に関する借金には、思わぬ落とし穴が存在します。
例えば、親が第三者の借金の保証人になっていた場合、通常はその保証人としての立場も相続の対象になります。
このケースであれば、親の財産を相続放棄することで、保証人としての責任も一緒に放棄することが可能です。
本当に注意しなければならないのは、子供であるあなた自身が、親の借金の連帯保証人になっていた場合です。
このケースでは、親が亡くなって相続放棄をしたとしても、あなた自身の連帯保証人としての責任は絶対に消えません。
親の相続人としての借金の返済義務は免れても、連帯保証人として借金を返済する義務がそのまま残ってしまうのです。
親の事業の借り入れや、住宅ローンなどで連帯保証人になっている場合は、相続放棄だけでは解決しません。
このようなケースでは、他の債務整理なども視野に入れる必要があるため、必ず早めに専門家へ相談してください。
相続放棄を検討する際、故人の預貯金からお葬式代を出してもいいのか、お香典は受け取っていいのかと悩む方は非常に多いです。
まず、参列者からいただくお香典は、ご遺族に対する慰めの気持ちとして贈られるものであり、故人の財産ではありません。
そのため、お香典を受け取っても相続放棄には全く影響せず、そのまま葬儀費用に充てて問題ありません。
一方、故人の預貯金を使って葬儀費用を支払う行為については、非常にデリケートな判断が必要です。
過去の裁判例では、身分相応の一般的な葬儀費用であれば、故人の財産から支払っても単純承認にはあたらないとされたケースもあります。
しかし、不必要に豪華な葬儀を行ったり、葬儀費用以上の額を引き出してしまったりすると、相続財産を処分したとみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
安全を期すのであれば、故人の預貯金には手を付けず、ご遺族の自己資金やお香典の範囲内で葬儀を行うのが最も確実です。
迷った場合は、勝手に判断せずに専門家へアドバイスを求めることをお勧めします。