相続放棄してもお墓や仏壇は引き継げる
大前提として相続が発生した場合、相続放棄をしなかったら故人のプラスの遺産(現預金など)だけでなく、負債(借金など)も相続します。
相続放棄をすると、この遺産と負債、全てを放棄することになります。
負債だけ放棄して遺産を相続するということはできません。
なお、負債の相続をプラスの遺産の範囲内に限定するということはできます。
これは限定承認というもので相続放棄とは別物です。
限定承認の詳しい内容は「限定承認で相続放棄をしなくても借金の実質的な相続回避ができる」に記載しています。
相続放棄は故人の財産と負債を全て放棄することになりますが、この全てが曲者です。
相続財産には思えない以下のようなものも、この全てに含まれてくる場合(相続財産になる場合)があります。
- 契約上の地位
- 借地権
- 借家権
逆に遺産に思えるようなものでも相続財産に該当しなければ、相続放棄をしても引き継ぐことが可能です。
その代表的なものとして、お墓や仏壇があります。

お墓や仏壇は相続放棄しても引き継ぐことが可能
お墓や仏壇はそもそも相続財産ではありません。
(詳しくは遺骨・遺骸・系譜・祭具・墳墓は相続財産ではないに記載しています。)
- 系譜(家系図)
- 仏壇
- 位牌
- 神棚
- 墳墓
などの祭祀財産は、相続放棄しても引き継ぐことが可能です。
祭祀財産は相続財産ではないからです。
受取人が相続放棄者でも生命保険金を受け取れる
相続放棄しても生命保険金を受け取れる場合があります。
それは受取人が相続放棄した人になっている場合です。
このような場合、その生命保険金は相続財産ではなく、相続放棄した人の固有の財産となります。
固有の財産であるため、相続放棄しても生命保険金を受取れます。
また、似たような事例で死亡退職金も相続放棄しても受け取れる場合があります。
詳しくは「相続放棄しても死亡退職金はもらえる?」に記載しています。
この相続放棄をしても生命保険を受取れる活用方法としては、例えば不動産(負動産)や借金は相続したくないけれども、現金は相続したい。
そのような場合に故人の生前に一時払い終身保険に入り、生命保険の受取人を(相続放棄をする予定の)相続人します。
そうすれば実際に相続放棄して不動産や借金の相続を免れつつも、生命保険金を固有の財産(現金)として受け取れます。
ただし、相続税法上は「みなし相続財産」として、この生命保険金は相続税の計算対象となります。
相続放棄しても保証債務には要注意
故人の債務(借金など)を引き継ぎたくないことが、相続放棄をする理由の一番である場合がほとんどです。
ただし、保証債務には注意が必要です。
通常、被相続人が誰かの保証人になっていた場合、相続人が保証債務を相続し保証人になります。
この保証人になるのが嫌で相続放棄する。
しかし、以下のような保証債務は、相続の対象にならない場合があります。
- 身元保証債務
- 根保証債務(信用保証債務)
あくまでも個別事例ごとに判断する必要がありますが、相続の対象にならない場合には、相続放棄しても引き継がないといけない可能性があります。
保証債務には注意が必要です。
相続放棄の財産に含まれないものを動画で解説
相続放棄しても放棄する財産に含まれないものについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴できます。
動画内容
相続財産には現金や有価証券などのプラスの財産と、亡くなった人の借金やローンといったマイナスの財産があります。
相続ではプラスとマイナスの両方の財産を相続しなければなりません。
「プラスの分だけ相続したい」というような都合の良いことはできないのです。
さて、マイナスの財産の方が多い場合に有効なのが「相続放棄」です。
相続放棄とは相続できる権利を全部放棄する代わりに、亡くなった人の借金を負わないで済むという方法になります。
今回は、この相続放棄で放棄する財産に含まれないもの、についてお話しを致します。
まず、どうしてこのような話をするか、というところから説明します。
相続放棄をすると「何もかも受け取れなくなる」、あるいは「何でも放棄できる」と考えてしまうかも知れませんが、そうではありません。
これから説明する放棄する財産に含まれないものとは言い換えると、相続放棄をしても受け取ることができる財産や、逆に相続放棄をしても負わなければならない債務のことです。
相続放棄をしても受け取れる財産が何かを知っていれば、無理に相続をする必要がなくなるかも知れません。
また、相続放棄で免除されると思って放棄した債務が放棄できないものだった場合は、プラスの財産ももらえない上、債務だけが残る最悪のケースになります。
このことから相続放棄で「放棄する財産に含まれないもの」を知ることは、とても大切なことなのです。
それでは相続放棄で「放棄する財産に含まれないもの」を具体的に説明します。
まずはお墓や仏壇、位牌、神棚などです。
このような祭祀にまつわるものは、そもそも相続財産にはなりません。
相続財産にならないため、相続放棄をしても受け取る権利があります。
続いては生命保険金と退職による弔慰金です。
亡くなった人が契約していた生命保険金は受取人に指定された人の固有の財産とされ、相続放棄をしても受け取ることができます。
また、死亡した場合の退職金を会社の規定で遺族に支払う弔慰金としている場合、そのお金は遺族のものですので、これも相続放棄をしても受け取ることが可能です。
ただし、生命保険金や弔慰金はお墓などと違って、相続税の課税対象となります。
相続税がかかるため、相続放棄によって受け取れなくなってしまうと誤解されやすいのですが、受け取れますので安心してください。
最後はマイナスの財産となる身元保証債務や根保証債務です。
身元保証債務とは他人の身元保証人となり、その他人の行為によって生じた損害を賠償する債務のことをいいます。
根保証債務とは不特定に対して継続的に発生する債務のことです。
たとえば事業をされている人が金融機関などと締結することが多いものになります。
これらの債務は相続の対象とならない場合があります。
相続の対象にならなければ放棄することができませんので、必ず専門家に相談をしてください。
そして相続に関することなら、税理士法人・都心綜合会計事務所にお任せください。