相続放棄で相続税を安くすることは出来ない

もし、相続放棄によって基礎控除額が上がったり下がったりしてしまうと、わざと相続放棄をして税金を安くする人が出てくるかも知れません。

そのため、相続税法のルールでは、相続放棄をしても「法定相続人の数は変わらない」ことになっています。

相続放棄に関係なく法定相続人の数は決定している

相続放棄をして相続人を増やす。

そうすれば、相続税の基礎控除額が増えて、相続税の節税になる。

こう考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これは無理です。

節税?
節税?
この人が相続放棄したら相続人が増える!よっしゃー。相続税の基礎控除額が増えるぞー。節税万歳!とはなりません。

相続税の基礎控除額の計算には「相続人ではなく法定相続人」を使います。

相続人は民法で規定されています。

ただ、この民法の相続人を使い、そのまま相続税を計算すると、相続人の意思で相続税を安くすることが出来る場合が発生します。

なので、「相続人の意思で相続税を安くする」ことを防ぐために、相続税法で独自に、相続人を定めたものを法定相続人と言います。

では、相続税法独自の相続人(法定相続人)とは何なのか?

これは、民法で規定されている相続人に、少しだけ条件を追加したものです。

その条件というのは、

相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人

です。

これを相続税法独自の相続人(法定相続人)と定義しています。

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法定相続人になれる人

そして、相続税の基礎控除額の計算には、民法規定の相続人ではなく法定相続人を使います。

よって、相続税の計算では、相続放棄をする前の状態で、法定相続人の数が決まります。

決定
決定
相続放棄の前に、法定相続人の数は決定している

なので、相続放棄で法定相続人の数を調整することは出来ません。

これは「相続放棄しても基礎控除額は変わらない」ことを意味します。

ただ、注意点は相続税の基礎控除額の計算には法定相続人を使うのであり、相続人は民法で規定されている人に変わりありません。

言葉のマジックみたいでややこしいのですが、相続放棄がある場合には、相続税の基礎控除額の計算には、相続人(民法で規定)ではなく法定相続人(相続税を安くさせないために、相続税法で独自に定めたもの)を使うということです。

もちろん、相続放棄がなければ、法定相続人(相続税法で独自に規定)=相続人(民法で規定)となります。

相続放棄があった場合の基礎控除額
相続放棄があった場合の基礎控除額
相続放棄しても相続税の基礎控除額は変わりません。

上の図の場合、相続人6名、法定相続人2名となります。

仮に相続税の基礎控除額の計算に、法定相続人ではなく相続人を使う場合の相続税の基礎控除額は、

3000万 + (600万 × 6名) = 6600万

となります。

もしも、母が放棄していなければ、

3000万 + (600万 × 2名) = 4200万

です。

母が放棄するのとしないのでは、相続税が大きく変わってきます。

意思によって相続税を安くさせることを防ぐために【相続税の基礎控除額の計算には、相続人ではなく法定相続人を使います】と相続税法で定めているということです。

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相続税計算方法

動画で解説

相続放棄しても基礎控除額は変わらない、ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

相続放棄は相続税の節税になる?

動画内容

相続税の計算では、相続税の対象になる財産の合計が、基礎控除額以下であれば、相続税はかかりません。

基礎控除(額)は、3,000万円に法定相続人の数×600万円を加えた額で計算されます。

たとえば、独身の方が亡くなった場合、その法定相続人は、亡くなった方の親となります。

もし、両親が健在であれば、両親ともに法定相続人になるので人数は2人です。

この場合の基礎控除額は、4,200万円になりますので、相続財産が4,200万円を下回っていれば、相続税はかかりません。

このように相続税の計算では、法定相続人の数がとても重要になってきます。

それでは、この法定相続人をどうやって数えるのか、というと、税法には独自のルールがあります。

相続についてのルールといえば、よく知られているのは、民法だと思います。

しかし、法定相続人の数え方については、民法と税法では、いくつか違いがあります。

その1つが、相続放棄をしたときの扱いです。

相続放棄とは、みずから相続権を放棄することをいいます。

民法の場合、相続人が相続放棄をしたとき、その相続権は次の順位の相続人に移ります。

さきほどの例で、もし両親が2人とも相続放棄をした場合、その相続権は、亡くなった方の兄弟や姉妹に移ります。

兄弟や姉妹が6人いれば、相続人は6人です。

では、このとき相続税の基礎控除額の計算も、法定相続人を6人として、計算するのかというと、そうはしません。

相続税の計算では、相続放棄をする前の状態で、法定相続人の数が決まります。

つまり、両親2人のまま変わらない、ということです。

もし相続放棄によって、基礎控除額が上がったり下がったりしてしまうと、わざと相続放棄をして、税金を安くする人が出てくるかも知れません。

そのため税法のルールでは、相続放棄をしても法定相続人の数は、変わらないことになっています。

逆に相続放棄をして、相続人の数が減ることもあります。

たとえば両親が法定相続人の場合、母親1人が相続放棄をすれば相続人は父親1人に減ります。

このときも基礎控除額の計算は、相続放棄が行われる前の人数、つまり2人のままで行います。

相続放棄をしても「相続税の基礎控除額は変わらない」と覚えておきましょう。