
借金などのマイナス財産を引き継いだ場合、相続税の計算上はプラスの相続財産から差し引く(債務控除)ことができます。しかし、他人の借金を肩代わりする「保証債務」は原則として控除の対象外です。一方、「連帯債務」は自分の負担分であれば控除対象となり、他人の負担分であっても一定の厳格な条件を満たせば例外的に債務控除が認められます。
相続が発生すると、現金や預金といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナス財産も引き継ぐことになります。
ただし、相続税を計算する上では、この引き継いだ借金などをプラスの財産から差し引くことができます。これを債務控除と呼びます。
たとえば、現金1,000万円と借金1,000万円を同時に相続したケースでは、差し引き0円となるため、この部分に対して相続税はかかりません。
なお、被相続人が遺した借金は、相続開始と同時に、各相続人が法定相続分に応じて自動的に背負うことになります。
遺産分割協議において「長男だけが借金を全て引き継ぐ」と取り決めた場合、相続人同士の合意としては有効です。しかし、これを債権者(銀行など)に認めてもらうには、債権者の承諾が別途必要になります。
もし長男の支払い能力が不十分だと判断された場合、銀行側が名義変更を認めないケースもあるため、注意が必要です。
他人の借金を保証している「保証債務」は、将来いくら負担するかが確定していないため、原則として債務控除の対象にはなりません。なお、日常的によく耳にする「連帯保証債務」についても、税務上の取り扱いは通常の保証債務と同じです。
しかし、以下の3つの条件をすべて満たす場合に限り、例外的に控除が認められます。
これらすべてを満たした上で、主たる債務者が弁済不能となっている金額部分のみを、保証債務者の債務として相続財産から控除することが可能です。

複数の人が共同で返済義務を負う「連帯債務」の場合、債務控除の取り扱いは以下のようになります。連帯債務の身近な例としては、夫婦や親子で組む連帯債務型の住宅ローン(フラット35の収入合算など)があります。
まず、「1」の自分が本来負担すべき金額については、連帯債務であっても自身の債務として債務控除が可能です。ただし、住宅ローンで団体信用生命保険(団信)に加入しており、死亡によって借金がゼロになる場合は、そもそも差し引くマイナス財産がなくなるため債務控除はできません(詳しくは下記の関連記事をご覧ください)。
さらに、上記「2~4」の条件をすべて満たす事情がある場合には、本来の自分の負担金額にプラスして、弁済不能者の負担を肩代わりしなければならない金額も債務控除に含めることができます。

被相続人(Aさん)自身には借金がなかったため、問題なく相続できると思っていた相続人(Bさん)。ところが後日、突然Bさん自身の預金が借金と相殺されたり、口座を差し押さえられたりするトラブルが起こることがあります。
なぜ、借金とは無縁のはずの自分の財産が狙われるのでしょうか?
これは、被相続人が生前に抱えていた「保証債務」を、知らずに相続してしまった可能性が高いケースです。

たとえば、被相続人(Aさん)の父親(Cさん)が、Aさんの弟(Dさん)の借金の保証人になっていたとします。
Cさんが亡くなった際、Aさんは相続放棄をせず、財産と一緒に「Cさんの連帯保証債務」を引き継ぎました。
その後、Aさんが亡くなり、さらに本来の借主である弟のDさんも亡くなった(あるいは返済不能になった)とします。
この場合、Aさんの相続人であるBさんに、Dさんの借金返済の義務が回ってきてしまうのです。
生前のうちに保証債務や連帯債務の存在に気付いていれば、
といった対策が取れます。しかし、存在を知らないままでいると、ある日突然、相続人自身の財産が差し押さえられるような深刻な事態に直面しかねません。
相続が発生した際は、目に見える借金だけでなく、誰かの保証人や連帯保証人になっていなかったかどうかも、念入りに確認することが非常に重要です。
保証債務や連帯債務が「相続財産から控除できるかどうか」について、税理士法人 都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が動画でわかりやすく解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
相続では現金などプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も相続人に承継されます。
ただし、マイナスの財産を相続した人は、相続税の計算において債務控除を受けることができます。
債務控除とはマイナスの財産をプラスの財産から控除して、相続税を計算できる制度です。
もし父親Aさんが亡くなって、その長男がAさんの現金1,000万円と借金300万円を相続した場合、1,000万円から300万円の債務控除を受けることができるので、差額700万円が長男の課税対象となります。
ところが亡くなった人の借金が保証債務や連帯債務の場合、債務控除は原則として適用できません。
保証債務というのは借金の主たる債務者が別にいて、その人が返せなかった場合の保証人となっていることです。
たとえば父親Aさんがその弟Bさんが作った借金300万円の保証債務を負っている場合、もしBさんが借金を返せなくなったときに、Aさんが代わりに300万円を返さなくてはならないという債務になります。
また連帯債務とは、債務者がそれぞれ借金を返済する義務を負います。
たとえば父親Aさんが弟Bさんの借金300万円の連帯債務を負っている場合、Bさんが返せなくなるかどうかに関係なく、Aさんの元に返済の請求がやってくることもあるということです。
保証債務と連帯債務とでは返済義務の重さはだいぶ違いますが、相続税の計算においては、どちらも債務控除の対象には原則なりません。
なぜなら債務控除の対象になるのは、負担する債務の金額が確定しているものに限られるからです。
保証債務の場合、Bさんが借金をきちんと返せばAさんは返済しないで済みますし、仮にBさんの代わりに返済してあげたとしても、AさんはBさんに返すよう請求できますので、Aさんの負担がいくらになるのかまだわかりません。
連帯債務もAさんとBさんで300万円を返済する約束ですから、Aさんがいくら負担してもよいため負担額は確定していません。
このように負担額がはっきりと決まっていないという点から、保証債務や連帯債務は債務控除の対象とすることが原則できないのです。
ただし特別な事情があって、負担額がはっきりとしているときは、債務控除を適用できるということがあります。
保証債務の場合、弟Bさんが返済できない状態で、父親Aさんが返済しないといけない状態にあり、かつ、弟Bさんから返還を受けられる見込みがない状態であれば、債務控除を適用できる余地もあります。
連帯債務の場合、父親Aさんの負担する金額がもともと100万円と決められているときは、その100万円について債務控除を適用できる余地があります。
またこのとき弟Bさんが50万円について返済不能となり、その50万円も父親Aさんが負担しなければならず、後にBさんから返還を受けられる見込みがないときは、父親Aさんがもともと負担すべき100万円に、Bさんから引き受けた50万円をプラスして債務控除を適用することもできます。
ただし借金のある相続では、債務控除が適用できるかどうかというよりも、まず、その借金を本当に自分が負担できるかどうかを考えて、相続をすることが重要となります。
自分ではどうしようもできない借金があるときは、相続放棄や限定承認の手続きを行いましょう。
そして、その判断を正しく行うためには、日頃から借金がいくらあるのかをご家族できちんと共有していくことが重要です。