暦年贈与だと贈与税額控除でも払い過ぎた税金の還付はない

贈与税額控除の仕組みや、その計算方法、相続時精算課税制度を選択している場合の贈与税額控除はどうなるか?等について、解説しています。

贈与税額控除とは

贈与税額控除とは、相続財産に加算された贈与財産で、既に贈与税を納めている場合、その「贈与税額を相続税額から控除できる」というものです。

相続財産に加算される贈与財産としては、

  1. 相続開始前3以内の贈与
  2. 相続時精算課税制度での贈与
  3. 贈与財産の相続財産への持ち戻し

となります。

それぞれについて詳しい内容は、以下のページにて記載しています。

  1. 生前贈与加算とは相続前3~7年以内の贈与を遺産に加算すること
  2. 相続時精算課税制度のメリット・デメリット
  3. 特別受益

相続開始前3以内の贈与は相続財産に加算するなど、ある一定の贈与(過去に既に受けた贈与)については、その贈与された財産を相続財産に加算して、相続税を計算するという決まりがあります。

贈与税額控除とは、過去に贈与された際に贈与税を納めている場合には、その贈与税額を相続税額から控除できる制度です。

贈与された際に贈与税を納めていた場合、贈与税として課税され、今度また相続税として課税されると、同じ財産に対して税金を2回支払っていることになります。

再び税金
再び税金
同じ財産に対して税金を2回支払うことに・・。

そこで、贈与税額控除として、贈与で納めた贈与税については相続税から控除できます。

贈与税額控除の計算方法

贈与税額控除の額は、以下の計算式(A×C/B)で算出します。

  1. A:贈与を受けた年分の贈与税額(※相続時精算課税における贈与税額を除く)
  2. B:贈与を受けた年分の贈与財産の合計額
  3. C:Bのうち、相続税の課税価格に加算された贈与財産の価額

例えば、父親が他界し相続が発生。

子供が相続発生1年前に、父親から1,000万円、母親から500万円贈与され、贈与税として366万円を支払っていたとします。

その場合、以下のようになります。

  1. A:366万円
  2. B:1,500万円
  3. C:1,000万円

この場合、贈与税額控除は「366万円(A) × 1,000万円(C) / 1,500万円(B) = 244万円」となります。

今回の相続税が500万だった場合は、この500万から244万を控除できます。

払いすぎた贈与税が戻ってこない?

上の相続税が500万ではなく、200万だった場合はどうなるでしょうか?

200万円-244万=マイナス44万円で、44万円の還付(44万円が戻ってくる)と思いきや、還付されません(戻ってきません)。

そんなバカな!と思うかもしれませんが、相続時精算課税制度で贈与された場合を除いて、払いすぎた贈与税は還付されません。

還付されない
還付されない
相続時精算課税制度で贈与された場合を除いて、払いすぎた贈与税は還付されません。

年間に贈与を受けた金額にかかった贈与税が、相続税を上回る場合は、その上回った部分の贈与税額は還付を受けることができないのです。

ただし、相続時精算課税制度によって、贈与を受けた財産にかかった贈与税が相続税を上回った場合には、還付されます。

相続時精算課税制度を選択していて、贈与税が還付される例

以下のような場合は、贈与税が還付されます。

例:父親が相続時精算課税(2,500万円まで非課税で税率は一律20%)を選択し、子供に3,500万円贈与。

その2年後に父親が他界。

その時の相続税が100万円。

子供は父親に贈与された際、(3,500万円-2,500万円)×20%=200万円を、贈与税として納税しています。

そして、今回の相続税が100万円。100万円(相続税)-200万円(既に支払済みの贈与税)=マイナス100万円

この100万円は還付されます。

もしも、既に支払済みの贈与税額が、相続時精算課税制度を選択しているものでなかった場合は、還付されません。

動画で解説

贈与税額控除をしても、払いすぎた贈与税が戻ってこないこともある、ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

贈与税額控除は払いすぎた贈与税が戻ってこない場合がある

動画内容

そもそも贈与税額控除って何?というところから、お話させていただきたいと思います。

贈与税額控除とは、相続税の計算をするときに、過去に支払った贈与税のうち一定のものを、相続税から控除することをいいます。

亡くなった人から過去に贈与を受けていること、それについて贈与税を支払っていること、そして、ここが重要なのですが、そのとき贈与された財産が相続財産に加算されていること、これが贈与税額控除の発生条件になります。

贈与された財産のうち、相続財産に加算されるものは決まっています。

「相続開始前3年以内の贈与」と「相続時精算課税制度での贈与」、この2つです。

それぞれの詳細は、他の動画で解説をしておりますので、ご覧ください。

それでは「相続開始前3年以内の贈与」の例で、贈与税額控除の計算例を見てみましょう。

たとえば、お父さんが亡くなり、お子さんが財産を相続したとします。

お子さんはお父さんから、亡くなる1年前に1,000万円の贈与を受けて、177万円の贈与税を支払っていたとします。

相続によって財産を受けた人が、同じ人から3年以内に贈与された財産があるとき、その贈与財産を相続財産に加算する、というルールがあります。

よってこの場合、お父さんの相続財産に、この1,000万円が加算されます。

したがって、1,000万円を含めた財産から相続税が計算されます。

しかし、それだと後から加算した1,000万円に贈与税と相続税の2つの税金が、二重に発生してくることとなります。

これではおかしいので、この場合は相続税を優先して、贈与税を相続税から控除して調整します。

これが贈与税額控除です。

もし、お子さんの相続税の計算結果が300万円だった場合、そこから177万円を控除した123万円が、お子さんが負担する相続税になります。

では、同じ年に母親から500万円を贈与され、併せて1,500万円の贈与に対し、贈与税を366万支払っていたとしたらどうでしょうか。

今回はお父さんの相続ですから、お母さんからの贈与にあたる贈与税を控除することはできません。

したがって、366万円のうち、1500万円の1000万円にあたる、244万円を控除することになります。

では、相続税よりも支払った贈与税のほうが大きい場合、これはどうなるのでしょうか。そんなことあり得るのか、と思われるかもしれませんが、贈与税と相続税では、基礎控除などの計算方法が異なるので、あり得ます。

もしも納めた贈与税のほうが大きいときは、それが相続開始前3年以内の贈与によって、支払った贈与税によるマイナスなのか、相続時精算課税制度によるものなのかで、扱いが変わってきます。

相続開始前3年以内の贈与であれば、マイナスになったとしても還付されません。

これに対し相続時精算課税制度によるマイナスであれば、贈与税の還付を受けることができます。

それでは最後に、相続時精算課税制度による贈与税額控除で、贈与税が還付される具体例を見てみましょう。

相続時精算課税制度とは、累計で2,500万円までの贈与が非課税となる制度となります。

しかしそれを超えると、それ以後の贈与は一律20%の贈与税が発生し続けます。

もし、相続時精算課税制度を使って、お父さんがお子さんに累計3,500万円の贈与をした場合、オーバーした1,000万円の20%ですから、お子さんは200万円の贈与税を納めていることになります。

そして、お父さんが亡くなり、3,500万円の贈与を加算して計算された、お子さんの相続税が150万円だったとします。

この場合、150万円から200万円を控除すると、マイナス50万円になりますよね。

これは相続時精算課税制度で生じた贈与税ですので、お子さんは相続税の申告をすることで、差額の50万円の還付を受けることができる、というわけです。

同じ贈与税額控除でも、マイナスになったときの扱いに差があるということを知っておいてください。