結婚・子育て資金の一括贈与は「直前の相続税対策」には向かない
結婚・子育て資金の一括贈与のメリットや注意点、行う方法、非課税になるもの・ならないもの等について、解説しています。
最大1000万円までの一括贈与が非課税
平成27年度から、贈与の特例として、【結婚・子育て資金の一括贈与】というものがあります。
これは直系尊属からの贈与が対象となり、「子ども」はもちろん、「孫」や「ひ孫」にも最大1000万円まで非課税で一括贈与できます。
結婚・子育て資金の一括贈与は、教育資金一括贈与と非常に似ています。
(教育資金一括贈与についての詳しい内容は、教育資金一括贈与のメリットや注意点にて記載しています。)
贈与税が非課税となる期間は「平成27年4月1日~令和3年3月31日までの間」です。
祖父母等(直系尊属である贈与者)が「20歳以上50歳未満」の子や孫等に、結婚・子育て資金の支払いに充てるための金銭等の贈与が対象です。
贈与を受けた人が満50歳を迎える時点で、贈与された金額に残額があれば、その残額はその年の「贈与税の対象」になります。
受贈者一人につき、最大1000万円までの金額が非課税になります。
なので、2人の孫に贈与する場合には、「2000万円を非課税で一括で贈与できる」ということです。
また、暦年贈与や相続時精算課税の非課税枠に影響をしません。
なので、結婚・子育て資金の贈与の特例で、1000万円を贈与した同じ年に、110万円以内の贈与をしても非課税ということです。
(ちなみに、相続時精算課税制度を一度選択すると、暦年課税制度への変更は一生できません。)
教育資金一括贈与の場合は、贈与している期間中に贈与している人(被相続人)が死亡しても、相続税の課税の対象になりません。
また、相続開始3年前の贈与でも、相続財産に加算されることはありません。
なので、教育資金一括贈与の場合は、直前の相続税対策が可能でした。
ただ、結婚・子育て資金の一括贈与は、贈与者が死亡した時に、贈与した残額がある場合は、その残額は「相続財産に加算されて相続税の対象」となります。
なので、結婚・子育て資金の一括贈与は、直前の相続税対策としては有効ではありません。
結婚・子育て資金の一括贈与の方法
金融機関で専用口座を開設します。
そこに結婚・子育て資金の一括贈与として、贈与された金額の預入等をします。
一度に全額預入ではなく、分割預入も可能です。
専用口座は「受贈者(贈与される側)一人につき一つ」です。
なお、専用口座を開設した受贈者は、他の金融機関で別に専用口座を開設することは出来ません。
専用口座の開設には、受贈者から金融機関経由で結婚・子育て資金非課税申告書を税務署に提出する必要があります。
また、口座開設に先立ち、贈与者と受贈者の間で「書面による贈与契約書」を作成する必要があります。
ちなみに、取扱金融機関以外の金融機関に預入等をしても、本非課税措置の適用を受けることはできません。
金融機関に専用口座を開いて贈与金額を預け、結婚・子育て資金として利用したことを「証明できる領収書等」を提出して、必要な分を引き出す形になります。
領収証等の提出がない払出しや、結婚・子育て資金以外の目的での払出しには「贈与税の対象」となります。
受贈者が50歳に達した日などに、専用口座は終了となります。
この時点で残額(使い残し)がある場合は、その残額が贈与税の対象となります。
結婚・子育て資金の一括贈与のメリット
受贈者が50歳になる前に贈与者が死亡し、その時点で残額がある場合には、贈与税の対象ではなく、相続税の対象となります。
ただし、その残額については「2割加算の対象」にはなりません。
これは結婚・子育て資金の一括贈与の一つのメリットです。
(贈与者の一親等の親族及び配偶者以外の者である孫の相続税には、2割増しされて課税されるという原則があります。)
相続財産に持戻しされるなど、直前の相続の相続税対策には使えませんが、
- 2割加算がない
- 一括で相続財産を減らせる
- 使用目的を結婚や子育てに関することに限定できる
ことなどを考えると、結婚・子育て資金の一括贈与は相続税対策としても有効で、メリットがある制度だと言えます。
結婚・子育て資金の一括贈与の注意点
結婚・子育て資金の一括贈与の注意点をまめると、以下のようになります。
- 受贈者が50歳になる前に資金を使いきれない
- 受贈者が50歳になる前に贈与者が死亡した場合で残高が残っている
- 結婚・子育て以外の目的で資金を使った
- 一定の提出期限までに領収書等を金融機関等に提出しなかった
1~2は相続税、3~4は贈与税の対象になります。
また、子供や孫が複数人いる場合には注意が必要です。
全員に平等に贈与したら納税資金が不足し、平等に贈与しなかったら揉める原因になります。
なお、内緒で特定の子や孫にだけ贈与をしても、相続が発生した時にはバレます。
結婚・子育て資金の一括贈与をする場合には、上記の点に注意して行いましょう。
結婚・子育て資金の一括贈与の対象(非課税)になるもの
非課税となる結婚・子育て資金の金額と範囲は以下に掲げるもので、合計して1000万円以下のものが非課税となります。
①結婚に伴うもの(最大で300万円)
結婚に伴うものについては、1000万円の範囲内で最大300万円までです。
- 入籍日の1年前以後に支払われた挙式代や会場費
- 結婚を機に転居するための引越費用(入籍日の前後1年以内に限る)
- 結婚を機に借りた物件に係る家賃・敷金・共益費・礼金・仲介手数料・契約更新料(*)
(*)入籍日の前後1年以内に締結した賃貸借契約に関するものに限られます。また、契約締結日から3年を経過する日までに支払われたものが対象となります。
②妊娠費用
- 妊婦検診費用
- 不妊治療(人口授精)に要する費用
③出産費用
- 薬代
- 分娩費
- 検査費用
- 出産に伴う入院費
- 新生児管理保育料
- 出産後1年以内に支払われた産後ケアに要する費用(6泊または7回分)
④育児費用
育児に伴い必要となるものが対象となります。
- 予防接種
- 処方箋に基づく医薬品
- ベビーシッター代
- 保育園・幼稚園・認定こども園に関する各種費用
非課税にならないもの
以下のようなものは、たとえ結婚・妊娠・出産・育児に関することでも、非課税とはなりません。
- 新婚旅行費用
- 結婚情報サービス料
- 婚約指輪・結婚指輪の費用
- 配偶者の転居にかかる費用
- 出産する病院への交通費
- 海外での出産や産後ケア、不妊治療のための交通費や宿泊費
- 処方箋に基づかない薬代
動画で解説
結婚・子育て資金の一括贈与について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
結婚・子育て資金の一括贈与とは、20歳から50歳未満のお子さんやお孫さんに対し、結婚・子育てのための資金を最大1,000万円まで非課税で贈与できる制度です。
もし、亡くなる過去3年以内に贈与を行っていたとしても、贈与された金額を使い切っていれば、相続税が課されることはありません。
結婚・子育て資金の一括贈与で、贈与を行う手順を簡単に説明致します。
この方法で贈与を行うには、まず、贈与契約書を作成する必要があります。
贈与契約書とは、贈与を受けるお子さんやお孫さんと、贈与をされる方の間で交わす書面です。
親族同士でも、きちんと作成しなければなりません。
続いて、贈与を受けるお子さんやお孫さんが、結婚・子育て資金の一括贈与の取扱いができる金融機関で、専用の口座を開設します。
この時、金融機関を経由して税務署に、結婚・子育て資金非課税申告書という書類を提出することとなります。
これで準備完了です。
あとは、お子さんやお孫さんが結婚式を挙げた費用や、子育てのための費用を支出した時に、その領収書を金融機関に提出することで、必要な金額を引き出すことができます。
ただ、この贈与の方法には3つ注意点があります。
1つ目は、もしお子さんやお孫さんが50歳を迎える時点で口座に残高が残っていた場合です。
この場合は、その残高に対する贈与税を、お子さんやお孫さんが負担しなければなりません。
2つ目は、お子さんやお孫さんがお金を使い切る前に、結婚・子育て資金の贈与をした方が亡くなられた場合です。
この場合、その残高は相続財産に加算されて相続税の対象となります。
相続財産に加算されれば、相続税対策としては無意味ですので、贈与を行う方の年齢などにも注意が必要となってきます。
そして3つ目の注意点は、もし相続財産に加算されてしまった場合は、必ず他の相続人に発覚してしまう、ということです。
こっそり、お子さんやお孫さん1人だけに贈与をしたつもりが、相続財産に加算されたことで、他の兄弟などに必ず分かってしまいます。
後になって、贈与を受けたお子さんやお孫さんが、周囲ともめる原因になる可能性があるので、贈与を行う際には、贈与を受けるお子さんやお孫さんに制度をよく理解していただく必要があります。
それでは最後に、結婚・子育て資金の対象になるものをご紹介します。
まず結婚の費用ですが、挙式や会場の費用、結婚を機に転居するための引っ越し費用、結婚を機に賃貸したアパートの家賃など、広く該当します。
ただし、結婚に伴う費用は、1,000万円のうち、最大300万円までしか引き出せません。
たとえば、1,000万円の贈与を受けた方が、800万円の豪華な結婚式を挙げたとしても、贈与された資金からは300万円までしか引き出せないということです。
また、指輪の代金や、新婚旅行の代金、婚活費用、配偶者が引っ越すための費用などは、300万円には含めることができません。
続いて、子育て資金については、妊婦健診や不妊治療のための費用から、出産費用、小学校入学までの育児に関する費用など、広く対象になります。
子育て資金には上限がないため、贈与を受けた全額を充ててもかまいません。
ただし、対象にならないものとして、出産する病院への交通費、海外の病院などに支払う費用、処方箋に基づかない薬代などがあります。
この制度を活用するポイントは、贈与する人と贈与を受ける人の年齢や個別の状況をよく吟味する必要があることと、贈与を受ける人が、制度の内容や対象となる支払いを理解して契約することです。