預貯金や上場株式などは家族信託できない財産
原則は、価値のある財産は「全て信託できる」ということになっています。
なので、
- 金銭
- 動産
- 株式
- 債権
- 特許権
- 自動車
- 不動産
などは信託可能です。
ただ、以下のようなものは、現実的には家族信託できません。
- 預貯金
- 上場株式
金銭そのものは信託可能(受託者に現金を渡し信託財産とするのは可能)ですが、預貯金は不可能です。
それは銀行口座の譲渡が出来ないためです。
Aさん名義の口座をBさんに信託し、Bさん名義として口座を利用することは出来ません。
銀行口座のお金を信託するためには、お金を引き出す、信託のための口座(Bさんなどの受託者名義の口座)に移す、といったことが必要です。
そして上場株式も現在は家族信託出来ません。
ただ、将来的には出来るように証券会社が対応するだろう、と言われています。
非上場株式(自社株式など)は現時点でも出来ます。
なので、オーナー社長の認知症対策・相続税対策・事業承継に家族信託は使えます。
微妙なのが借金が残っている不動産の信託です。
金銭消費貸借契約で「不動産の名義変更には金融機関の承諾が必要」とされていることが多く、抵当権付きの不動産の信託の場合、金融機関の承諾が必要となってきます。
借金などは家族信託の対象になりません
価値のある財産でも、預貯金や上場株式などは現実的に家族信託出来ません。
そして、借金などの負の財産はそもそも家族信託出来ません。
また、その人個人の属する権利、年金受給権や生活保護受給権も家族信託出来ません。
誰かに譲渡可能なプラスの財産だけが「家族信託の対象」となります。
家族信託に向いている財産
信託には商事信託と民事信託があります。
詳しくは遺言書の代わりや財産管理に役立つ家族信託とはそもそも何?に記載していますが、簡単に言ってしまえば、
- 商事信託は営利目的
- 民事信託は営利目的でない
となります。
ちなみに家族信託は、民事信託となります。
そして、商事信託は信託銀行などに、信託をお願いすることになります。
例えば大きな土地を所有している場合で、運用益を取得したい場合には、信託銀行への信託を検討する。
また、少額な現金預金や自宅の信託は、そもそも信託銀行が取り扱ってくれないことが多いので家族信託を検討する。
このように財産の種類や目的で、商事信託なのか、家族信託(民事信託)なのかを検討する必要があります。
そして家族信託に向いている財産は、
- 商事信託で取り扱えない財産
- 営利目的ではなく財産管理が主目的
- 家族以外の方に関与させたくない財産
となります。
また、商事信託に魅力的なサービスが感じられない場合に、家族信託を利用して独自に財産管理をするのもいいかもしれません。
こんな財産も家族信託できる
以下のようなものも、家族信託できる財産となります。
- 自宅
- 家賃収入
- 投資用不動産
- ローンが残っている不動産
なお、不動産の信託は、名義を委託者から受託者に変更する必要があります。
また、借金などの負の財産は信託出来ませんが、抵当権がついている不動産の名義変更は可能です。
動画で解説
家族信託できない財産について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
家族信託とは、財産の管理を、信頼できる家族に託すことです。
信託できる財産には、現金や家屋や投資物件などの不動産、自動車などの動産といった、さまざまなものが対象になりますが、中には、家族信託の対象にできない財産もあります。
まずは、預貯金や上場株式です。
これは、ちょっと意外ではないでしょうか。
特に預貯金は、ほとんどの人が使用していると思います。
なぜ、預貯金や上場株式が、家族信託の対象にならないのかというと、口座で管理されているからです。
ちなみに、正確に言いますと、上場株式については、証券会社によって、家族信託出来るところもあるのですが、撮影している現時点においては、かなり少ない、というのが現実です。
ですので、上場株式は家族信託できない、という形で説明を致します。
信託された財産の持ち主は、信託を受けた家族に変わります。
ただ、預貯金の口座や、証券口座の場合、そもそも他人に譲渡する、という手続きが禁止されています。
そのため、現実的に信託をする、ということができないのです。
もし、預貯金などを家族信託したい場合は、一旦、口座から引き出して、現金として管理するか、信託のための専用口座がありますので、それを開設して、管理することが必要になります。
続いて、借金などマイナスの財産も、家族信託出来ません。
家族信託ができるのは、プラスの財産のみ、となります。
例外として、家族信託が認められるのは、抵当権付きの不動産や、ローンが残っている不動産です。
ただし、抵当権付きの不動産や、ローンがある不動産を家族信託する場合は、金融機関の承諾が必要となります。
最後は、個人に属する権利と呼ばれるものも、家族信託出来ません。具体的には、年金受給権や生活保護受給権といった権利になります。
これも預貯金などと同じで、他人に譲渡することが、認められていないからです。
以上が、家族信託できない財産となります。
最後に、家族信託はできるけれど、他の信託を使った方が、適している財産について、お話を致します。
他の信託とは、銀行や不動産会社などが行う、預金や不動産などを信託契約で、管理するサービスのことです。
銀行などが行う信託は、営利目的ですので、たとえば、大きな土地を所有していて、バリバリ運用したい、というような場合は、これらのプロに管理してもらう方がよいでしょう。
逆に少額な財産や、管理だけを目的とする財産は、これらのサービスには、向いていません。
このような財産は、家族信託で管理するとよいでしょう。
また、家族以外に関与してもらいたくない事情がある財産があれば、それも家族信託の方がよい、といえます。