
原則として、価値のある財産は家族信託の対象にすることができます。しかし、現実にはそのままの状態では信託できない財産や、そもそも信託の対象にならない財産も存在します。ここでは、家族信託できる財産とできない財産の見分け方や、預貯金・上場株式の最新事情についてわかりやすく解説します。
法律上の建前では、金銭、不動産、株式、自動車など、価値のある財産はすべて家族信託が可能です。
しかし、実務上は注意が必要な財産があります。
代表的なものが預貯金です。
金銭そのものは信託可能ですが、現在お持ちの銀行口座(預貯金)をそのまま名義変更して信託することはできません。
銀行口座を他人に譲渡することは、銀行の規約や法律(マネーロンダリング防止など)で厳しく禁止されているためです。
そのため、現金を信託する場合は、受託者(財産を管理する家族)の名義で「信託口口座」などの専用口座を新しく開設し、そこにお金を移動させる必要があります。
この専用口座の開設には、通常の口座開設よりも時間がかかり、1か月前後かかることも珍しくありません。
また、すべての金融機関でこの専用口座が開設できるわけではありません。
対応していない銀行や審査が厳しいケースもあるため、事前に取引先の銀行へ確認することが大切です。
口座開設の審査では信託契約書の内容が厳しくチェックされるため、自分たちで作った契約書では口座が作れないことも多い点に注意が必要です。
実務上は、弁護士や司法書士などの専門家が作成した信託契約書(または公正証書)を求められるケースが非常に多くなっています。
ここで実務上の大きな落とし穴となるのが、銀行の審査を受けるタイミングです。
必ず「公証役場で正式な公正証書を作成する前(下書きの段階)」に、銀行の審査を通すようにしてください。
銀行独自の厳しい規定に1文字でも合致しないと口座開設を断られ、高い手数料を払って公正証書を作り直す羽目になるトラブルが実務上非常に多発しているからです。
事前のすり合わせをしっかり行い、単なる口座名の変更ではなく、法的に財産が守られる正式な「信託口口座」が作れるかどうかがポイントになります。

また、以前は対応が難しかった上場株式ですが、現在では状況が変わっています。
大和証券や野村證券といった大手証券会社や、楽天証券などの一部のネット証券で、家族信託用の専用口座(信託口口座)を開設できる証券会社が増えてきました。
そのため、対応している証券会社で専用口座を開設して移管手続きを行えば、上場株式も家族信託することが可能です。
ただし、通常のネット取引とは異なり、専用窓口への問い合わせや書面での手続きが必要になるのが一般的です。
また、証券会社によっては、提携している専門家や専門サービスを経由しないと口座開設を受け付けていない場合があるため、事前の確認が必要です。
ここで注意したいのは、現在利用している証券会社が家族信託に対応していない場合の対処法です。
その場合は、まず家族信託に対応している別の証券会社へ、親名義のまま株式を移管(移し替え)させる必要があります。
移管が完了した後に、その新しい証券会社で専用口座を開設し、信託の手続きを行うという流れになります。
さらに、多くの方が利用している「NISA口座(新NISA含む)」で保有する株式や投資信託は、そのままの状態で家族信託に移すことができません。
一度課税口座(特定口座など)に払い出すか、売却して現金化してから信託する必要があります。
NISA口座から払い出すことで、せっかくの非課税のメリットは失われてしまう点には注意が必要です。
また、新しく作る家族信託用の専用口座(信託口口座)では、そもそもNISAを利用(新規買付)することもできません。
信託財産にした資金は、今後の運用でも非課税の恩恵を受けられなくなるというデメリットをあらかじめ理解しておきましょう。
もう一つ、実務上で非常に重要な注意点があります。
それは、信託口口座で株式を管理する場合、税金計算を証券会社が代行してくれる「特定口座」が使えず、「一般口座」扱いになるのが一般的だということです。
一般口座になると、受託者(財産を管理する子供など)が毎年の譲渡益や配当金などを自分で計算する手間が増えます。
また、その利益は受益者(親)の所得とみなされるため、親の所得として確定申告を行わなければならない点には注意が必要です。
確定申告の手間が増えるという点は、事前に家族間でしっかり共有しておきましょう。

もちろん、自社株などの非上場株式も現時点で信託できます。
「会社の経営権(議決権)」は社長に残したまま、「財産としての価値」だけを後継者に信託するといった柔軟な設計ができるため、オーナー社長の認知症対策や事業承継に非常に有効です。
少し複雑なのが、借金(住宅ローンなど)が残っている不動産の信託です。
金銭消費貸借契約で「不動産の名義変更には金融機関の承諾が必要」とされていることが多く、抵当権付きの不動産を信託する場合は、必ず事前に金融機関の承諾が必要となってきます。
預貯金や上場株式は、適切な手続きを踏めば信託可能ですが、そもそも家族信託の対象にできない財産もあります。
まず、借金や連帯保証債務などの負の財産(マイナスの財産)は信託できません。
また、その人個人にだけ属する一身専属権、例えば年金受給権や生活保護受給権なども家族信託できません。
誰かに譲渡可能なプラスの財産だけが、家族信託の対象となります。
また、最近増えている暗号資産(仮想通貨)についても注意が必要です。
法律上は財産としての価値がありますが、現状、国内の仮想通貨取引所では家族信託用の専用口座(信託口口座)に対応していないため、実務上はそのまま信託することができません。
さらに、実務上でよく落とし穴になるのが「農地(田や畑)」です。
農地法による厳しい制限があるため、原則として農地は家族信託の対象にすることができません。
これは、受託者(財産を管理する子供など)自身が、一定の要件を満たす農家でないと農業委員会の許可が下りないためです。
ただし、都市部(市街化区域内)の農地であれば、農業委員会への届出によって宅地等へ用途変更(転用)することで、信託できるケースがあります。
信託には、営利目的で行われる「商事信託」と、営利目的ではない「民事信託」があります。
家族信託は、この民事信託に該当します。
商事信託は、信託銀行などのプロに信託をお願いすることになります。
例えば、大きな土地を所有していて、信託銀行に運用を任せて運用益を取得したいような場合には、商事信託を検討します。
一方で、少額な現金預金や自宅の信託は、採算が合わないため信託銀行が取り扱ってくれないことが多く、そういったケースで家族信託を検討します。
このように、財産の種類や目的に応じて、商事信託と家族信託(民事信託)のどちらが適しているかを検討する必要があります。

家族信託に向いている財産は、以下の通りです。
また、商事信託のサービスに魅力を感じない場合に、家族信託を利用して独自に財産管理をするのもひとつの方法です。
なお、財産を家族信託したからといって、自動的に贈与税や相続税が非課税になるわけではありません。
委託者(親)と受益者(親)が同一人物であれば贈与税はかかりませんが、相続が発生した際には、通常通り相続税の対象となります。
以下のようなものも、家族信託できる財産となります。
不動産を信託する場合は、登記簿上の名義を委託者から受託者に変更する信託登記を行う必要があります。
この際、通常の所有権移転登記よりは安いものの、登録免許税などの実費がかかる点には注意が必要です。
賃貸アパートなどの投資用不動産そのものを信託することで、そこから発生する家賃収入も自動的に信託財産として管理されます。
不動産を信託して名義が受託者(子供)に変更されると、毎年の固定資産税の納付書も受託者(子供)宛に届くようになります。
納付は、個人の財布からではなく信託専用口座から支払うことになります。
また、実務上忘れられがちなのが、火災保険や地震保険の名義変更です。
不動産を信託した場合は、保険の契約者や受取人も受託者に変更する手続きを忘れないようにしましょう。
借金などの負の財産自体は信託できませんが、抵当権がついている不動産であっても、条件を満たして名義変更を行えば信託財産とすることが可能です。
実務上は、マイナスの財産そのものを信託するのではなく、受託者(管理する人)がローンの返済義務を引き受ける形(債務引受)で管理していくことになります。
ただし多くの場合、もともとの借主(親など)も引き続き連帯して返済義務を負うことが条件となります。