受託者の【信託事務作業の委託】は簡単ではない

受託者の信託事務作業を委託することは可能か?について、解説しています。

受託者には帳簿等の作成義務がある

基本的に、受託者は信託財産に関する帳簿を作成する義務があります。

例えば、AさんがBさんに賃貸不動産を信託したとします。

そうなると契約(賃貸契約など)はもちろん、それに関する帳簿書類や計算書類の作成は、AさんではなくBさんが行います。

帳簿
帳簿
受託者には信託財産に関する帳簿書類や計算書類の作成義務がある

ただ、必ずしも帳簿は「仕訳帳・総勘定元帳・貸借対照表・損益計算書等」でなければいけない、という訳ではありません。

例えば、財産管理のためだけの信託であれば、信託財産・債務がわかるようような資料であれば、問題ないとされています。

ただ逆に

  1. 受益権の譲渡が無制限で出来る信託
  2. 信託財産を売却できる権利が受託者にある信託

の2つを満たす信託の場合には、より詳細な帳簿等の資料作成が必要となります。

また、限定責任信託の場合も同様です。
(限定責任信託の詳しい内容は受託者の責任を限定する方法に記載しています。)

この場合、貸借対照表や損益計算書以外に、信託概況報告書や付属明細書の作成が必要になってきたりします。

このように受託者の権限等に応じて、作成する帳簿書類等は変わってきます。

帳簿等の報告義務

受託者には帳簿等の作成義務の他に、受益者への報告義務もあります。

ただし、信託契約において、報告を必要としない旨の定めをすれば、受託者は受益者に対して報告する必要はありません。

しかし、受益者から帳簿等の閲覧を求められた場合は、それに応える(帳簿等を閲覧させる)義務があります。

帳簿等の保存義務

受託者には帳簿等を保存する義務もあります。

帳簿等の保存義務は原則10年間、計算書類等(貸借対照表や損益計算書等)であれば信託終了までとなります。

ただし、受益者に帳簿等を提供した場合には、この限りではありません。

やむを得ない事由や別段の定めがあれば委託可能

受託者の信託事務作業には帳簿等の作成義務・報告義務・保存義務があるなど、何かと大変な作業です。

そして、これらの信託事務は原則、受託者が行わなければなりません。

何しろ、このような管理をしてもらうために、受託者を選任しているので、当たり前と言えば当たり前でもあります。

ただし、以下のような場合には、信託事務を委託することが可能です。

  • 信託契約に委託できる旨の定めがある場合
  • やむを得ない事由があると認められる場合
  • 委託することが信託の目的に相当であると認められる場合
受託者の事務委託
受託者の事務委託
場合によっては、信託事務の委託は可能

やむを得ない場合というのは、受託者が入院した、あるいは海外に出張しているなど、信託事務を行うことが困難であると認められる場合です。

また、委託することが信託の目的に相当であると認められる場合というのは、簡単に言えば、受託者が自ら信託事務を行うよりも、委託した方が効果的(時間的効率が増すなど)と認められる場合ということです。

逆に言えば、信託事務作業を「やりたくない・面倒くさい」からといって、簡単に委託することは出来ないということです。

関連記事へのアイコン関連記事

家族信託で受託者が死亡したり認知症になったら?

動画で解説

家族信託の受託者の事務を委託することができるかどうかについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

家族信託の受託者の信託事務作業の委託は可能?

動画内容

そもそも信託の受託者になった人がしなければならない事務作業には、どういったものがあるのでしょうか。

受託者には帳簿書類の作成義務・報告義務・保存義務がございます。

まず帳簿書類の作成から説明します。

帳簿といえば税務会計で求められる仕訳帳、総勘定元帳、それから貸借対照表、損益計算書といったものを思い浮かべる方が多いかも知れません。

ただ、信託のルールでは必ずしもこういった帳簿でなければ、いけないわけではありません。

信託財産や債務がわかるような資料であれば、通常は問題ないとされています。

しかし受託者と一言でいっても、信託の内容によって、与えられている権限もさまざまです。

特に受託者に信託財産を売却できる権限があって、かつ、受益権の譲渡を無制限でできる信託である場合には、受託者により詳しい帳簿などの作成が求められます。

具体的には貸借対照表や損益計算書のほか、信託概況報告書や付属明細書の作成が必要になってきます。

続いて報告義務について説明します。

受託者には受益者への報告義務があります。

一応、報告を必要としない、というルールを定めれば報告をしなくても良いことになります。

しかし、それでも法律上、受益者から帳簿などの閲覧を求められた場合は、それに応える必要がありますので、いい加減な対応はできません。

最後は保存義務です。

帳簿などの保存期間は原則10年になります。

貸借対照表や損益計算書など計算書類と呼ばれる書類は、信託終了までが保存期間となります。

このように受託者の事務作業は何かと大変です。

ですが、このような管理をするのが受託者の仕事です。

そして受託者の事務作業は、原則は受託者自身が行わなければなりません。

しかし例外的に、この事務を第三者に委託できる場合があります。

それは信託契約に委託できる旨の定めがある場合、委託することが信託の目的に照らして相当であると認められる場合、そして、やむを得ない事由があると認められる場合です。

ちょっと分かりにくいかもしれません。

まず「委託することが信託の目的に照らして相当であると認められる場合」とは、簡単に言うと自分で事務を行うよりも委託した方が効率が良い、ということです。

「やむを得ない場合」というのは受託者が入院している、あるいは海外に出張しているなど、信託事務を行うことが困難である、と認められる場合になります。

逆に言えば、信託事務作業を「やりたくない・面倒くさい」からといって、簡単に委託することはできません。

そして仮に要件にあてはまったとしても、個人の財産とは極めて重要な情報の塊です。

信頼されて財産の管理を託されている以上、与えられた義務は信頼関係を守りながら、きちんと果たすことが求められます。