
離婚に向けた話し合いの最中や、すでに別の方と再婚している場合、ご自身の相続権がどうなるのか不安に思う方は少なくありません。結論から申し上げますと、亡くなった方(被相続人)が死亡した時点で戸籍上の正式な配偶者であれば、確実に相続人になります。これは、新しく結婚した相手である後妻や後夫であっても全く同じ扱いです。
法律における配偶者とは、戸籍に記載されている正式な夫や妻を指します。
そのため、長年連れ添った事実婚(内縁関係)のパートナーであっても、法律上の配偶者にはなれません。
戸籍上の配偶者であれば、ほかに誰が相続人になろうとも、常に最優先で相続人となる権利を持っています。

ここで言う「配偶者」とは、あくまで亡くなった方(被相続人)自身の配偶者のことです。
相続する権利があるかどうかの判断基準は、被相続人が亡くなった「相続開始の瞬間」の状況で厳密に決まります。
もし亡くなる前日に離婚届が受理されていれば、すでに元配偶者となっているため相続人にはなれません。
反対に、亡くなる直前まで激しく離婚を争っていたとしても、離婚届を提出していなければ配偶者として相続人になります。
ちなみに、離婚裁判の途中で夫婦のどちらかが亡くなった場合、その時点で裁判自体が終了します。
遺族が本人の代わりに離婚裁判を引き継いで続けることはできません。
極端な例を挙げると、亡くなる1日前に婚姻届を提出して配偶者になった場合でも、確固たる相続権が発生します。
あくまで「死亡した時点での配偶者」だけが相続人であり、すでに離婚が成立した元配偶者には一切の相続権がないのです。
前の夫や妻が亡くなったあと、別の方と新しく再婚した場合でも、前の配偶者の遺産を相続することは十分に可能です。
新しく結婚したからといって、すでに発生している遺産を受け取る権利が消滅することはありません。
被相続人が亡くなった瞬間に配偶者であったという事実は、あとから誰と再婚しても覆らないからです。
遺産分割協議(遺産の分け方の話し合い)が終わる前に再婚したとしても、配偶者としての相続権はそのまま引き継がれます。

遺産分割が正式に終わるまで、被相続人の遺産は相続人全員の共有財産という扱いが続きます。
ただし、2023年4月の法改正により、相続開始から10年が経過すると、原則として「特別受益(生前贈与など)」や「寄与分(介護への貢献など)」の主張ができなくなりました。
長期間そのまま放置してしまうと、法律で決められた画一的な割合で分けることになり、結果としてご自身が損をする可能性があります。
相続する権利そのものが消えるわけではありませんが、早めに遺産分割の手続きを進めておくのが最も安心です。
なお、遺族年金については、再婚すると(籍を入れない事実婚・内縁関係になった場合も含みます)受け取る権利が失われるため十分にご注意ください。
ちなみに、再婚相手(後妻など)の連れ子は、被相続人と正式に養子縁組をしない限り相続人にはなれません。
配偶者が浮気(不貞行為)をしていたかどうかという事実は、原則として相続権の有無には関係しません。
被相続人が生きている間に配偶者が不倫をしていたとしても、それだけで自動的に相続権が奪われるような決まりはないのです。

もちろん、その不貞行為が原因となり、亡くなる前に離婚が成立していれば、元配偶者となるため相続人からは外れます。
しかし、亡くなった時点で離婚届が提出されていなければ、どれほど関係が冷え切っていても法律上は配偶者として扱われます。
例外として、亡くなった方が生前に家庭裁判所へ申し立てて「相続人の廃除」という特別な手続きを完了させていた場合は、その配偶者から相続権を奪うことができます。
生前の申立てだけでなく、法的に有効な遺言書を残すことによって廃除を行うことも可能です。
ただし、単なる浮気や不仲といった理由だけで廃除が認められるケースは極めて珍しく、手続きのハードルは非常に高いのが現実です。
このような深刻なトラブルが起きたときは、「そもそも離婚そのものが法的に無効になるのか、あるいは取り消せるのか」が最も重要なポイントになります。

たとえば、借金の厳しい取り立てから逃れるため、妻へ財産を移す目的で偽装離婚し、その後に夫が自己破産するようなケースが考えられます。
このような場合、夫の死後になってから「本当は偽装離婚であり婚姻関係は続いていた」と主張しても、それを客観的に証明して認めてもらうことは極めて困難です。
そのため、実務上は元配偶者に相続権はないと考えておいたほうが無難でしょう。
一方で、脅されたり騙されたりして無理やり離婚届を書かされたような場合は、あとから離婚の取り消しを主張することができます。
法的に取り消しが認められれば、最初から離婚はなかったものとして扱われ、配偶者としての相続権も失われません。
ただし、この取り消し請求には「騙されたと気づいた時(または脅迫から逃れた時)から3か月以内」という非常に厳しい期限が設けられているため、早急な法的対応が求められます。
近年、遺産を目当てに資産家の高齢者と結婚を繰り返す「後妻業(ごさいぎょう)」という言葉が世間でも広く知られるようになりました。
現実問題として、ほかの相続人である子供たちが全く知らない間に、親が密かに再婚していたというトラブルは決して珍しくありません。
親が亡くなり、いざ遺産相続の手続きを進めようと戸籍を集めたときに、初めて見知らぬ後妻の存在を知って愕然とすることもあるのです。

「まさか自分の親が高齢になってから再婚しているなんて」と驚いて抗議しても、死後からでは手遅れになってしまうケースがほとんどです。
法律上、正式な配偶者となった後妻の法定相続分(法律で定められた取り分の目安)は、最低でも遺産全体の2分の1という大きな割合を占めます。
もし亡くなった親に子供がいなかった場合、後妻の取り分は3分の2、あるいは4分の3にまで跳ね上がります。
さらに最悪のケースを想定すると、親が遺した遺言書に「自分のすべての財産を後妻に譲る」と記載されている可能性すら否定できません。
しかし、そのような偏った遺言書があった場合でも、亡くなった方の子供(前妻との子供を含みます)や親には、「遺留分(いりゅうぶん)」と呼ばれる最低限の取り分を、お金で精算して支払うよう請求できる権利が法律で手厚く保障されています。
ここで強く注意が必要なのは、被相続人の「兄弟姉妹」にはこの遺留分を請求する権利が一切認められていないという点です。
もし子供も親もすでに他界している状況で、後妻が全財産を相続するという内容の遺言書を持っていた場合、被相続人の兄弟姉妹は遺産を1円も受け取ることができません。
また、この遺留分を請求できる権利には明確な時効があり、原則として「相続開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内(知らなくても相続開始から10年以内)」に具体的な行動を起こす必要があります。
このような後妻トラブルに巻き込まれれば、せっかく生前にコツコツと進めてきた相続税対策も、すべてが水の泡になりかねません。
思わぬ相続トラブルを未然に防ぐためには、日頃から高齢の親とこまめに連絡を取り合い、生活状況を把握しておくことが何よりも大切です。
もし少しでも心配な兆候がある場合は、定期的に親の戸籍謄本を取得し、見知らぬ誰かと勝手に婚姻届を出していないか確認しておくのも、非常に有効な防衛策となります。
ある意味において、不審な再婚相手への警戒と対策こそが、親の認知症対策と同じくらい最優先すべき重要な相続対策と言えるでしょう。
離婚協議中や再婚した場合でも、配偶者として相続人になれるかどうかについて、税理士法人 都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
まず、亡くなられた方に妻や夫がいる場合、その妻や夫は必ず相続人になります。
ただし、亡くなられた時にその方が「法律上の配偶者である」ことが必要です。
たとえば離婚協議中で明日離婚届を提出しに行くという日に夫が亡くなった場合でも、妻はそのときはまだ配偶者ですから配偶者として相続人になります。
別居中でも夫が浮気をしている場合でも、とにかく離婚をしていなければ法律上は配偶者です。
また、夫を亡くして相続人となった妻が夫が亡くなってすぐに別の男性と再婚したとしても、相続が発生した時点で離婚をしていないわけですから相続人であることに変わりはありません。
逆に相続が発生する1日前に離婚していた場合は、相続の時には配偶者ではないため相続権はありません。
あくまで亡くなったときに法律上の配偶者かどうかがポイントになります。
それでは、もし配偶者に脅されたり騙されたりして、離婚届を書いて(出して)しまった場合はどうなるのでしょうか。
脅迫や詐欺によって離婚をした場合、その離婚は後から取り消すことができます。
ただし偽装離婚などを行ったあとに相続が発生して、あれは偽装離婚でしたと主張してもそれは通らず、相続人にはなれません。
さて最近、後妻業という言葉が世間に定着しているように感じます。
簡単に言うと配偶者に先立たれた人などと、遺産目当てで結婚することを繰り返している人のことです。
ドラマの中だけの話として片付けてしまうのではなく、高齢のご家族と離れて暮らしている方は少し注意をしてあげてください。
騙されているかどうかはさておき、2人の意思で婚姻届を出している以上、後妻には配偶者としての相続権があります。
もしそうなれば遺産の大部分は後妻が自分の意思で放棄をしない限り、後妻が受け取ることになります。
知らないうちに高齢のご家族が怪しい相手と結婚してしまったということにならないよう、心配な方はこまめに連絡を取ったり、時には戸籍を取り寄せて確認したりしておくことが大切です。