
相続手続きの第一歩は、誰が本当の相続人なのかを法的に確定させることです。「家族構成は分かっているから大丈夫」と思っていても、公的な証明として必ず戸籍謄本を集めなければなりません。また、有効な遺言書が残されている場合でも、状況によってはすべての戸籍が必要になります。亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍をたどることで、隠れた相続人がいないかを確実に証明できるのです。この記事では、相続手続きにおいてなぜ戸籍での確認が絶対に欠かせないのか、初心者の方にもわかりやすく解説します。
亡くなった方の遺産を誰がどのように引き継ぐかを決める話し合いを、遺産分割協議と呼びます。
この遺産分割協議は、必ず相続人全員が参加して行わなければなりません。
もし本当の相続人を一人でも除外して話し合いを進めてしまうと、その協議は法的に無効となってしまいます。
そのため、まずは誰が確実な相続人なのかを、客観的な公的資料である戸籍謄本を使って証明する必要があるのです。
「相続人は妻と子供だけだから間違いない」と思い込んでいるケースでも、戸籍を調べると前妻との間の子供や養子などの存在が判明することがあります。
また、遺言書がある場合でも、すべての戸籍が必要になるケースがあるため注意が必要です。
公正証書遺言があり遺言執行者が指定されている場合は、一部の戸籍だけで預金解約や不動産の名義変更ができることもあります。
しかし、自宅で見つかった手書きの遺言書(自筆証書遺言)の場合は、家庭裁判所での「検認」という手続きのためにすべての戸籍が求められます。
ただし、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して保管されていた場合は、この検認は不要となります。
さらに、遺言書に記載されていない財産が後から見つかった場合、その財産については遺産分割協議が必要となるため、結局はすべての戸籍を集めなければなりません。
相続税の申告が必要なケースにおいても、基礎控除額を正しく計算するために法定相続人の正確な人数を把握する必要があります。
そのため、相続が発生したら、まずは亡くなった方の出生から死亡時までの連続した戸籍集めからスタートするのが最も安全で確実です。
なお、2024年から「戸籍の広域交付制度」が始まり、本籍地が遠方にあっても最寄りの市区町村役場でまとめて戸籍謄本を取得できるようになりました。
ただし、データ化されていない一部の古い戸籍は対象外となり、本籍地への直接請求が必要になる場合があります。
また、この広域交付制度を利用できるのは、配偶者や直系親族(親や子など)に限られています。
兄弟姉妹や甥姪が相続人になる場合や、専門家などの代理人に依頼する場合は利用できませんのでご注意ください。
さらに、郵送での請求はできず、必ず窓口へ直接出向く必要があります。
窓口では、マイナンバーカードなどの顔写真付き身分証明書による厳格な本人確認が行われます。
出生から死亡までの連続した戸籍を広域交付で請求する場合、複数の役所にまたがる古い戸籍の確認作業が発生するため、発行までに数時間待たされるケースもあります。
即日発行されず後日受け取りになることもあるため、時間に余裕をもって役所へ行きましょう。
加えて、2024年からは不動産の名義変更(相続登記)も義務化されました。
「不動産を相続したことを知った日から3年以内」という期限を正当な理由なく過ぎると、10万円以下の過料という罰則を受ける可能性があります。
スムーズに手続きを進めるためにも、早めに戸籍収集に取り掛かることが大切です。
集めた戸籍一式を法務局に提出すると、戸籍の代わりとなる「法定相続情報一覧図」という証明書を無料で発行してもらえる制度もあります。
これを利用すれば、銀行の窓口などに分厚い戸籍の束を何度も持ち込む手間が省けるため、ぜひ活用を検討してみてください。
相続人の中に、長年にわたって連絡が取れず行方不明になっている方がいるケースもあります。
そのような場合でも、その人を除外して遺産分割協議を行うことは絶対に認められません。
まずは戸籍の附票を使って現在の住民票の住所を調べ、お手紙を送ってみましょう。
それでも連絡がつかない場合は、主に2つの法的な手続きのいずれかを行う必要があります。
1つ目は、家庭裁判所に申し立てて「不在者財産管理人」を選任してもらう方法です。
この不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得たうえで、行方不明者に代わって遺産分割の話し合いに参加することになります。
2つ目は、行方不明の状態が長期間続いている場合に「失踪宣告」の申し立てを行う方法です。
失踪宣告が認められると、法律上はその行方不明者は死亡したものとして扱われ、相続手続きを進めることができます。
どちらの手続きも専門的な知識が必要で、時間と手間がかかります。
行方不明の相続人がいることが判明した場合は、できるだけ早めに専門家へ相談することをおすすめします。
相続手続きでは、亡くなった方の戸籍だけでなく、相続人全員の現在の戸籍謄本も必要になります。
これは、相続人自身が現在も間違いなく生存していることを公的に証明するためです。
もし、本来相続人となるはずだった子供がすでに亡くなっている場合は、その子供(亡くなった方の孫)が代わりに相続する「代襲相続」が発生します。
代襲相続が起きている場合は、先に亡くなっている相続人の出生から死亡までの連続した戸籍も追加で集めなければなりません。
なお、亡くなった方の配偶者については例外的な扱いがあります。
亡くなった方の死亡の事実が記載された戸籍に、配偶者がそのまま残っているのが一般的です。
その場合、その戸籍が配偶者の現在の戸籍を兼ねることになります。
そのため、多くの場合において配偶者個人の戸籍謄本を別途取得する必要はありません。
ただし、手続きに使う戸籍は必ず「亡くなった日以降に取得した戸籍」である必要があります。
亡くなる前に取得していた古い戸籍では証明にならないため注意しましょう。
また、死亡届を出してもすぐには戸籍に反映されないため、役所に行く前に電話で「死亡の記載が終わっているか」確認すると二度手間を防げます。
手続き完了前に本籍地を移した場合や、元の氏に戻す手続き(復氏)をした場合なども、別途新しい戸籍が必要になります。
ご自身の現在の戸籍謄本(全部事項証明書)は、マイナンバーカードがあればコンビニのマルチコピー機で取得できる市区町村が増えています。
役所の窓口に行かなくても手軽に取得できるため、ぜひ活用してみましょう。
ただし、お住まいの住所(住民票の住所)と本籍地が違う市区町村にある場合は、事前に端末やスマートフォンから利用登録申請が必要です。
この登録完了には数日かかることがありますので、早めに申請しておくことをおすすめします。
なお、法務局での相続登記(不動産の名義変更)に使う戸籍謄本には原則として有効期限はありません。
しかし、銀行などの金融機関での手続きでは「発行から3ヶ月以内」や「6ヶ月以内」といった独自の有効期限が設けられていることが多くあります。
手続きが遅れて期限切れになってしまうと、取り直しを求められるため、取得するタイミングには気をつけましょう。