海外に住んでいても【相続税から逃れる】のは困難
相続発生時に海外に住んでいたから、相続税はかからない。
財産をほとんど国外に持ち出したから、相続税はかからない。
こう思われている方。
要注意です。
海外に住んでいるから相続税はかからない?
そう遠くない昔。
以下のような決まりがありました。
(今は変更されています。)
- 相続により財産を取得した個人で、その財産の取得時に日本国内に住所を有していた場合、国内・国外の財産を問わず、全て相続税の対象
- 相続により財産を取得した個人で、その財産の取得時に日本国内に住所を有していない場合、国内の財産のみ相続税の対象
この決まり。
どう思われるでしょうか?
実はかなりの欠陥がありました。
例えば、被相続人が亡くなりそうになったら(相続が開始になりそうになったら)、財産を国外財産にし、財産を受け取る人(相続人)の住所を、相続開始の直前に海外に移す。
そうすると、相続税の対象は、国内財産を相続したもののみとなります。
(上記2の決まりから)
国内財産のほんとどを国外財産に移したら、ほとんど相続税がかかりません。
ちなみに国外財産に移す方法は、
- 外国の会社が発行する株式を購入する
- 外国の不動産を購入する
などすれば、国内の現預金を国外財産に移したことになります。
そして、この手法。
いわゆる租税回避とも言いますが、横行しました。
この租税回避はもう使えません
この租税回避を防ぐために、「非居住無制限納税義務者という新たな決まり」が生まれました。
簡単に言えば、上記の租税回避を簡単にはさせないぞ!という制度です。
この非居住無制限納税義務者がない時には、単に相続人が財産の取得時に、「日本に住所があるかないかだけ」の判定しかありませんでした。
- 日本に住所があれば、全ての財産に課税
- 日本に住所がなければ、国内財産のみに課税
この2つの括りしかなかったものを、3つの括りにしました。
現在は、以下のようになっています。
- 居住無制限納税義務者
- 非居住無制限納税義務者
- 制限納税義務者
相続税の納税義務者は3つに分けられる
相続人は
- 居住無制限納税義務者
- 非居住無制限納税義務者
- 制限納税義務者
のどれかに該当致します。
居住無制限納税義務者とは
相続又は遺贈により財産を取得した個人で、その財産取得時に日本国内に住所を有するものが該当し、国内・国外を問わず、全ての財産が相続税の対象。
非居住無制限納税義務者とは
相続又は遺贈により財産を取得した次に掲げる者で、その財産の取得時に日本国内に住所を有しないもの。
国内・国外を問わず、全ての財産が相続税の対象。
- 日本国籍を有する個人(*1)
- 日本国籍を有しない個人(*1)
(*1、その個人又は被被相続人が、相続開始前10年以内のいずれかの時に、日本国内に住所を有したことがある場合に限る)
(*2、被相続人が「相続開始時に日本国内に住所を有していた」場合に限る)
制限納税義務者とは
相続又は遺贈により日本にある財産を取得した個人で、その財産の取得時に日本国内に住所を有しないもので、かつ、非居住無制限納税義務者に該当しない者。
国内財産のみ相続税の対象。
(国外財産には相続税がかからないということです。)
結局、非居住無制限納税義務者とは何なのか?
非居住無制限納税義務者の条件は、租税回避を防ぐために設けられたものであり、複雑になっています。
要は相続人が、たとえ財産の取得時に日本国内に住所を有していなくても、以下のような条件の場合には、国内・国外を問わず、全ての財産を相続税の対象にします、ということです。
非居住無制限納税義務者の事例1
相続人に日本国籍がある場合、被相続人、もしくはその相続人が、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していれば、全て課税されます。
→その心は:相続の直前になって、相続人が海外に住所を移して、租税回避するのを防ぎます。
非居住無制限納税義務者の事例2
相続人に日本国籍がない場合、被相続人が相続開始時に日本国内に住所を有していれば、全て課税されます。
→その心は:たとえ相続人が日本国籍を外しても、被相続人が日本国内で亡くなったのであれば、全て課税します。
まとめると
このように、昔は相続人が財産の取得時に、日本に住所があるかないかだけの判定だけで、国内財産のみに相続税がかかるかどうか判定していましたが、今では国内財産のみに相続税がかかる条件は厳しくなっています。
まとめると、以下の図のようになります。
そして、住所の判断は、基本的には住民票があるところで判断します。
ただし、住民票があるところが、必ずしも住所と言えない場合もあります。
また、住民票があるところを住所とするなどの規定はありません。
実際に、住民票が日本にはないが、実際は日本に住んでいるということで、裁判になったこともあります。
あくまでも住民票は、電気・水道・ガスの使用などと同じく、実際に生活しているかどうかの客観的な資料となります。