
相続や遺贈で受け取った財産を寄付すると、その財産には相続税がかかりません。しかし、ただ寄付をするだけでは非課税の特例は受けられません。申告期限までに証明書を提出するなど、厳格なルールを守る必要があります。ここでは、うっかり課税されてしまう失敗例や、正しい手続きのポイントについてわかりやすく解説します。
相続財産を特定の団体に寄付した場合に相続税が非課税になる制度があります。
正式には「国、地方公共団体又は特定の公益を目的とする事業を行う特定の法人などに寄附した場合の特例」と呼ばれています。
この特例を利用するためには、主に以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。

なお、相続人自身の判断で行う寄付だけでなく、亡くなった方が遺言によって寄付(遺贈)した財産についても非課税の対象となります。
また、生命保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」を寄付した場合でも特例を利用できます。
ただし、生前贈与や相続時精算課税制度によって受け取った財産を寄付しても、この特例の対象にはなりませんのでご注意ください。
せっかく寄付をしたのに、ルールを知らなかったために特例が認められないケースがあります。
よくある失敗例をしっかりと確認しておきましょう。
まず注意したいのが、相続財産を換金してから寄付をしてしまうケースです。
現金以外の財産(不動産や株式など)を一度売却し、そのお金を寄付しても特例の対象にはなりません。
あくまで「相続した財産そのもの」を寄付する必要があるためです。
また、お葬式の香典や、相続人自身が元々持っていた財産からの寄付も対象外となります。

次に、寄付先の選び方にも注意が必要です。
特例の対象となるのは、国や地方公共団体のほか、独立行政法人、社会福祉法人、学校法人などに限定されています。
よくある勘違いとして、一般のNPO法人への寄付があります。
NPO法人に寄付をして非課税にするためには、都道府県などの認定を受けた「認定NPO法人」でなければなりません。
一般のNPO法人は特例の対象外となるため、寄付先が要件を満たしているか事前にしっかり確認しましょう。
さらに、手続きのスケジュールにも注意が必要です。
法律上の要件は「相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)までに寄付すること」とされています。
しかし、実務上はそれだけでは不十分です。
特例を受けるためには、申告書を提出する際に、寄付先が発行する「寄付の領収書」や「法人が特例対象であることを証明する書類の写し」など、所定の書類を添付しなければなりません。
これらの書類の発行には1〜2か月ほどかかることもあります。
つまり、実質的には「申告書を提出する日」までに寄付を完了させ、証明書を手元に用意しておく必要があります。
そもそも、特定の財産を寄付するためには「誰がその財産を相続するか」という遺産分割協議が完了している必要があります。
遺産分割の話し合いが長引くと寄付の手続き自体がスタートできず、証明書が間に合わなくなるリスクが高まります。
寄付を検討している場合は、申告期限よりもかなり早い段階で手続きを進めるという意識を持ちましょう。

また、不動産や株式を寄付する場合の「所得税の罠」にも要注意です。
国や地方公共団体以外(認定NPO法人など)へ不動産や株式などをそのまま寄付すると、税務上は「時価で売却した」とみなされてしまいます。
これにより、寄付をした相続人に「みなし譲渡所得税」という多額の所得税がかかる恐れがあります。
※遺言によって寄付(遺贈)された場合は、亡くなった方の所得として課税されるため、残された相続人が代わりに「準確定申告」を行って納税の負担を負うことになります。
ここで注意が必要なのは、準確定申告の期限です。
相続税の申告期限が10か月以内であるのに対し、準確定申告は「相続開始を知った日の翌日から4か月以内」と非常に短く設定されています。
相続税は非課税になっても、所得税の負担が発生してしまう失敗例は少なくありません。
ただし、所定の期限内に国税庁へ非課税の承認申請を行うことで、この所得税を非課税にできる特例もあります。
手続きが非常に複雑なため、現金の寄付以外を検討する場合は、必ず事前に専門家へ相談しましょう。
なお、寄付の経緯によって、所得税の「寄付金控除」と併用できるかどうかが変わる点に注意してください。
亡くなった方の遺言による寄付(遺贈)の場合は、相続人自身の確定申告で寄付金控除を併用することはできません。
一方で、相続人自身の意思で相続財産を寄付した場合は併用が可能です。
相続税が非課税になるだけでなく、ご自身の確定申告で所得税・住民税の寄付金控除(ふるさと納税などによる減税)も受けることができます。
最後に、実質的に自分たちが得をするような寄付も認められません。
寄付した財産が公共の目的以外に使われたり、寄付先から特定の相続人が特別な恩恵を受けたりする場合は対象外です。
回り回って自分に利益が返ってくるような行為は税務署に否認されます。
また、これから設立する団体への寄付も原則として認められず、寄付の時点で団体が存在している必要があります。
相続財産を非課税にするためには、純粋な公益目的の本物の寄付でなければなりません。
また、寄付をして終わりではありません。
寄付から2年以内にその財産が公益目的のために使われなかったり、寄付先の団体が認定を取り消されたりした場合は、さかのぼって相続税が課税されてしまうリスクがあります。
そのため、信頼できる寄付先を慎重に選ぶことが大切です。
