
亡くなった方がご自身で保険料を負担して、すでに受け取りを開始していた個人年金などの権利を「定期金」と呼びます。残されたご遺族が、この定期金を引き続き受け取る権利を相続した場合、その権利に対して相続税が課税されます。この定期金に関する相続税評価額の計算ルールは、相続税法第24条という法律で明確に定められています。基本的には、将来受け取る予定である年金の総額を「現在の価値」に換算して計算します。
定期金には、大きく分類すると「有期定期金」と「終身定期金」の2種類が存在します。
法律上は、受け取り期間の定めが一切ない「無期定期金」という区分もあります。
しかし、実際の契約で見かけるケースはごく稀です。
どの種類の定期金に該当する場合であっても、相続税を計算する際の基本的な考え方は変わりません。
有期定期金とは、10年や15年など、あらかじめ決まった期間だけ年金を受け取れる権利のことです。
保証期間が付帯している個人年金保険などが、この有期定期金に該当します。
相続税の評価額は、法律で定められた3つの金額のうち、最も高い金額を選択するルールになっています。
1つ目は、相続が発生した日に保険を解約したと仮定して算出される「解約返戻金の金額」です。
2つ目は、将来もらうはずだった年金の残額を、一括でまとめて受け取ったと仮定した場合の「一時金の金額」です。
3つ目は、1年間にもらう予定の年金額に、予定利率を用いた複利年金現価率を掛けて算出する「現在の価値」です。将来もらえるはずだった総額から利息分を差し引き、今すぐ現金でもらうとしたらいくらになるかを計算したものが現在の価値にあたります。
ただし、すでに年金の受け取りが始まっている契約の場合、約款の規定によって解約や一括受け取りができない商品も少なくありません。
そのようなケースでは、保険会社が算出した現在の価値などを基準にして評価を行います。
ここで特に気をつけたいのが、保険を契約した当時の「予定利率」です。
バブル期などに契約した予定利率の高い、いわゆる「お宝保険」では、長年の運用で積み上がった解約返戻金や一時金が、ご遺族の想定以上に高額になっていることがあります。
その結果、最も高い金額が選ばれるルールによって、相続税評価額が大きく跳ね上がるケースがあるため注意が必要です。
例えば、亡くなった方が保証期間10年の個人年金に加入しており、年金の受け取り開始から4年後に亡くなったケースで考えてみましょう。
この場合、残されたご遺族は残りの6年間にわたって、年金を受け取る権利を引き継ぐことになります。
相続発生時点での金額が、解約返戻金2,890万円、一時金2,810万円、現在の価値2,998万5,000円だったと仮定します。
このケースでは、3つの選択肢のうち一番金額が高い2,998万5,000円が相続税評価額として採用されます。
こうした複雑な計算を、ご遺族がご自身で一から行う必要はありません。
ご加入先の保険会社に「年金受給権の評価明細書」や「権利評価証明書」の発行を依頼すれば、正確な金額が記載された書類を用意してもらえます。
その際、相続税の申告で使うため、相続税法第24条に基づく評価額がわかる書類をお願いします、と伝えると手続きがスムーズに進みます。
終身定期金とは、受け取る方が亡くなるまで一生涯にわたってもらい続けられる年金のことです。
評価の基本的な計算方法は有期定期金と同じです。
解約返戻金、一時金、現在の価値の3つを比較して最も高い金額を評価額とします。
ただし、一生涯もらえるという性質上、いつまでもらえるかを計算する際に「余命年数」を用いるのが大きな特徴です。
実際の相続税申告では、国税庁が公表している余命年数表や、契約当時の予定利率をもとにした複利年金現価率などを使用して評価額を算出します。
なお、亡くなった方が終身年金を受け取っていた場合でも、ご遺族が引き継ぐのは保証期間の残り部分であるケースがほとんどです。
その場合、ご遺族が相続する権利は有期定期金として評価されることになります。
一方で、保証期間がない終身年金や、すでに保証期間を過ぎていた終身年金の場合は扱いが異なります。
これらの年金は、受け取っていた方が亡くなった時点で年金を受け取る権利が消滅します。
そのため、引き継ぐ権利自体が存在せず、そもそも相続税の対象にはなりません。
無期定期金とは、受け取り期間の制限がまったく存在せず、永久に受け取ることができる権利のことです。
実際の保険契約などで見かけることはほぼありませんが、法律上は評価方法がしっかりと規定されています。
こちらも解約返戻金や一時金の金額と比較することになります。
現在の価値を計算する際は、1年間にもらう金額を予定利率で割り戻して算出します。
個人年金を引き継ぐ際に、多くの方が一番間違えやすいのが「生命保険の非課税枠」の取り扱いです。
亡くなった方がすでにもらい始めていた個人年金を引き継ぐ場合、それは死亡保険金ではありません。
年金をもらう権利そのものを相続した扱いになります。
そのため、500万円に法定相続人の数を掛けた生命保険特有の非課税枠を適用することはできません。
評価された金額が全額そのまま、相続税の計算対象に含まれてしまう点に十分ご注意ください。
一方で、親が保険料を支払い、親自身が被保険者となっていた保険で、まだ年金の受け取りを開始する前に亡くなった場合は扱いが異なります。
このケースでご遺族が受け取るお金は、原則として死亡保険金として扱われます。
これは民法上の遺産ではありませんが、相続税の計算上は「みなし相続財産」となります。
したがって、ご遺族が一時金として一括で受け取る場合はもちろん、年金として分割で受け取ることを選んだ場合でも、その評価額に対して生命保険の非課税枠を利用することが可能です。
すでに年金の受け取りが始まっていたかどうかで非課税枠が使えるかどうかが変わるため、亡くなったタイミングが非常に重要な判断ポイントになります。
なお、本記事は、亡くなった方ご自身が保険料を支払っていたケースを前提としています。
もし、配偶者やお子様などが保険料を負担していた年金の場合は、相続税ではなく贈与税や所得税の対象になることがあるためご注意ください。
ご遺族が毎年受け取る年金に関して、相続税を払ったうえに、さらに所得税までかかるのではないかとご不安に思われる方も多くいらっしゃいます。
結論から申し上げますと、同じ金額に対して相続税と所得税が二重に課税されることは絶対にありません。
相続税の対象として評価された金額の部分については、後から年金として受け取っても所得税は非課税となります。
ただし、相続が発生したあとに運用されて増えた利益、いわゆる年金の運用益の分にだけは、所得税(雑所得)がかかる仕組みになっています。
年金を受け取る2年目以降は、少しずつ雑所得として課税される運用益の割合が増えていく仕組みです。
この運用益の計算については、毎年保険会社から必要な金額が記載された支払調書などの書類が送られてきます。
保険会社から送られてくる書類を見れば申告できるようになっているため、ご遺族がご自身で複雑な計算をする必要はありません。
ただし、その送られてきた書類をもとに、ご自身で所得税の確定申告が必要になる場合がありますので、その点だけは留意しておきましょう。
普段は会社の年末調整だけで済んでいる会社員の方であっても、注意が必要です。
この年金の運用益(雑所得)が発生することによって、ご自身で所得税の確定申告が必要になるケースがあります。
ただし、一般的な会社員の方で、年金の運用益を含めた給与以外の所得が年間20万円以下であれば、原則として確定申告は不要です。
少額の年金を引き継いだ場合は、この「20万円ルール」に当てはまるかどうかもあわせて確認していただくと安心です。