路線価による評価額自体はあまり問題にならない
意外なことに、税務調査で【路線価による評価が問題視される】ことは多くありません。
理由は、補正率の違い等を突き詰めても、生じる誤差が非常に少ないからです。

補正率の違いなどで生じる誤差は非常に少ない
それよりも税務調査のポイントになりやすいのは、路線価の評価額を【特別なルールで減額している場合】や【路線価以外の評価方法を利用している場合】です。
利用価値が低い土地の減額は税務調査で指摘されやすい
不動産の代表である土地や建物の税務調査で指摘されやいポイント(傾向)というものはあります。
ちなみに指摘=間違い、という意味ではありません。
税務調査時に論点(議題)になりやすいという意味です。
税務調査で指摘されたからといって「即間違いである」ということではありません。
土地に関して言えば、利用価値が低い土地として減額評価している場合には、やはり論点になりやすいです。
利用価値が低い土地の減額に関しての詳しい内容は、財産評価は税理士で激変!利用価値が低い土地は減額可能かも?に記載しています。
理由としては、明確な基準がないものがあるからです。
例えば、以下のような土地は減額できるのですが、明確な基準がありません。
- 近くに墓地がある(距離〇〇メートル以内という基準はなし)
- 騒音のある土地(〇〇デシベルを超えているという基準はなし)
- 高低差のある土地(〇〇メートル以上の高低差という基準はなし)
- 土砂災害警戒区域等に指定されている土地(そもそも評価減の規定がない)
これらのような土地は相続税の申告の実務上、利用価値が低い土地として評価減できますが明確な規定がありません。
なので過去の判例や土地の現況から、評価減するかどうかを判断します。
この判断が税務署と「見解が割れやすい」ということです。

利用価値が低い土地の減額は、明確な基準がないので見解が割れやすい
税務署側としては納税額を多くしたいので、その騒音ぐらいじゃ評価減は認めたくない。
一方、納税者側は納税額を少なくしたいので、騒音があることによる評価減をしたい。
そして、その評価減できる騒音の基準がないので、税務調査において論点になりやい事項となってきます。
不動産鑑定士の評価額を使うと指摘されやすい
意外に知られていないことですが、土地の評価額(評価方法)は一つではありません。
詳しくは土地の相続税評価方法は主に路線価方式か倍率方式だが時価は?に記載しています。
普通は路線価方式で土地を評価するのが一般的ですが、不動産鑑定士による土地の評価で申告する場合があります。
これは災害や開発計画のとん挫によって、土地の利用状況が大きく変わった場合などに、不動産鑑定士による土地の時価評価の方が路線価方式の評価額より少なくなりやすいからです。
この場合でも不動産鑑定士による土地の評価額が適正なのかなど、税務調査において論点になりやい事項と言えます。
土地評価に詳しい調査官はあまりいない?
土地評価に詳しい調査官はあまりいないと言われています。
理由としては、税務調査において土地の評価額を指摘し修正したところで、あまり大きく税額が変わらないからです。
相続税の申告者が自分で申告でもしない限り、普通は税理士が土地を評価して申告します。
例えば、その税理士の不整形地(土地が歪な形をしているもの)の評価額と、税務署がする不整形地の評価額に大きな差は通常でません。
(逆に1円単位で一致するということもほぼありません。)
かといって、土地の評価はかなりの専門知識と計測するための時間などをとられます。
税務署としては、税務調査において土地の評価を指摘し、修正させることは費用対効果が少ないのです。
なので、利用価値が低い土地の減額や不動産鑑定士の評価額を使うなどしない限り、土地の評価額そのものが論点になるのは少ないと言えます。(あくまでも一般的な話であり、もちろん土地の評価額を指摘されることはあります。)
ただし、小規模宅地等の特例の適用の有無については、税務調査の際に徹底的に調べられます。
小規模宅地等の特例の詳しい内容は小規模宅地等の特例は8割も評価減が可能な相続税対策の王様に記載しています。
建物は空室かどうかが論点になる
短期間の一時的な空室であれば貸家建付地として認められるにも記載していますが、賃貸マンションやアパートの空室状況は、税務調査で論点になりやすい事項です。
それは仮にその賃貸マンションやアパートに空室が一つも無い場合、土地は約2割・建物は約3割の評価減ができるからです。
そして空室があると、その空室の分だけその評価減の割合が減ります。
仮に空室の割合が100%なら、評価減は土地も建物も0です。

全てが空室なら土地も建物も評価減は0
ただし、たまたま相続発生時に空室なだけで、その空室が一時的なものであれば評価減は認められます。
税務調査の際には、その空室が本当に一時的なものなのかどうかが論点になります。
そして最大の注意点として、賃貸マンションやアパート駐車場がついている場合です。
その駐車場に空きが発生したからといって、その賃貸マンションやアパートの賃貸人でない外部の人間に駐車場を貸してしまうと、その駐車場は評価減できません。
ちなみに駐車場の場合は、賃貸マンションのような空室割合という考えはなく、1台でも外部の人に貸しだしたら、その駐車場全てが評価減できませんので要注意です。
動画で解説
土地や建物の相続について、税務調査で問題となりやすいポイントについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴できます。
動画内容
毎年7月になると、国税庁から最新の路線価が発表されていることは、テレビや新聞などで、ご存知の方も多いかと思います。
この路線価とは、実は多くの相続で土地の評価を行うために利用されています。
路線価を利用した土地の評価では、その土地が接している道路の路線価にその土地の面積をかけて、それぞれの土地の利便性や形状、所在する区域などを考慮し、若干の補正をかけて評価を行います。
この路線価の補正のかけ方には非常に沢山のルールがありますが、意外にも税務調査で路線価による評価が問題視される、ということは多くありません。
理由は、補正率の違いは0.1とか0.01とか、こういう話なので、突き詰めたところで生じる誤差が非常に少ないからです。
せっかく調査にやってきた税務職員が貴重な時間を割いて、複雑な路線価の評価額から粗探しを始めるというのは非効率な作業と言わざるを得ません。
それよりも税務調査のポイントになりやすいのは、路線価の評価額を特別なルールで減額している場合や、路線価以外の評価方法を利用している場合になります。
たとえば利用価値が低いものとして、減額評価をしている土地があげられます。
近くに墓地がある土地、騒音のある土地、高低差のある土地、土砂災害警戒区域等に指定されている土地などを相続した場合、その土地の評価額は通常よりも減額することが認められています。
しかし、どこまで減額の対象にしてよいか明確な基準はございません。
相続人としては、なるべく相続税を払いたくありませんので、めいっぱい減額をしたいですし、税務署としては納税額を多くしたいので減額しすぎていないかを入念にチェックします。
明確な基準がないものに対して、お互いの思いが対立するわけですから、相続人と税務職員との間で見解が割れやすく、税務調査の論点となりやすいのです。
それから路線価での評価額を使わず、不動産鑑定士の評価額を使って、相続税を申告した場合も税務調査の論点になることがあります。
不動産鑑定士の評価額で申告すること自体は問題ないのですが、たとえば対象の土地に災害の発生や開発計画のとん挫などがあって、土地の利用状況が大きく変わったときは、不動産鑑定士による時価評価の方が、路線価による評価額よりも少なく評価できることがあります。
この場合、専門家の評価だからといって100%は安心できず、税務調査において、その評価額が適正かどうか論点になりやすいのです。
さらに小規模宅地等の特例を使って評価額を減額している場合や、賃貸マンションを経営している場合などに使える、貸家や貸家建付地の減額評価を行っている場合も税務調査の論点となりやすいところです。
小規模宅地等の特例は要件に該当すれば、最大で8割も評価額を下げることができる特例ですので、税務調査では適用要件を満たしているかどうか厳しくチェックをされます。
賃貸マンションなどでは満室状態で空室がなければ、土地は約2割、建物は約3割もの評価額を下げることができます。
ただし空室があれば評価減できる金額が少なくなるので、空室状態を中心に税務調査でチェックを受けやすくなります。
特に賃貸マンションなどの経営で注意が必要なのは、駐車場がある場合です。
もし、その駐車場に空きが発生したからといって、賃貸マンションの住人ではない外部の人に1枠でも貸してしまうと、その駐車場の評価額を減額することができなくなってしまいます。
外部への貸出しがないかどうかも、税務調査ではチェックされやすい項目です。
人から聞いた話やインターネットの情報などを頼りに、安易に評価額を減らして申告すると、税務調査の際、大変なことになるかもしれません。
税務調査が来ても問題ないように、相続税の申告は必ず専門家に依頼しましょう。