
相続税の税務調査において、単なる路線価の計算間違いが厳しく追及されるケースは実はそれほど多くありません。調査官が目を光らせているのは、土地の評価額を大きく下げるための特例や独自の減額措置が正しく使われているかどうかです。たとえば、利用価値が低いことを理由にした大幅な減額や、不動産鑑定士による独自の評価額を用いている場合は、税務署のチェックが一段と厳しくなります。また、アパートやマンションの空室状況、小規模宅地等の特例の適用ルールを満たしているかも重要なポイントです。さらに、令和6年からは一般的な分譲マンションの評価ルールが厳格化されたため、これまで以上に慎重な判断が求められています。
相続税の申告において、路線価を使った基本的な計算そのものが税務調査で否認されることは稀です。
土地の形に合わせた補正計算で少し誤差があったとしても、最終的な税額への影響はごくわずかだからです。

税務調査官が本当にチェックしたいのは、特別な評価方法を使って意図的に評価額を大きく下げているケースです。
また、令和6年(2024年)1月以降に相続が発生した分譲マンションについては、最低でも市場価格(時価)の6割になるように計算する新しいルールが義務付けられたため、例外的に厳しいチェックが入ります。
いわゆるタワーマンションに限らず、3階建て以上の一般的な分譲マンションにも新しい評価ルールが適用されることになりました。
これは、マンションの市場価格(実勢価格)と相続税評価額との間にある大きなズレをなくすために作られたルールです。
築年数や総階数に加えて、その部屋が何階にあるか(所在階)などを考慮した複雑な計算が必要になります。
そのため、少しの計算ミスが税務調査での指摘に直結するリスクが高まっています。
なお、ご自身で一棟丸ごと所有している賃貸アパートやマンションは新ルールの対象外となり、従来どおりの評価方法で計算します。
近年の税務調査において、とくに厳しい監視の対象となっているのが亡くなる直前の駆け込みでの不動産購入です。
相続税の負担を減らすことだけを目的に多額のローンを組み、亡くなる直前にアパートやタワーマンションを購入する行為は、過度な節税対策とみなされる危険性があります。
このような極端な節税に対しては、税務署長が路線価評価を否認し、市場価格(時価)で相続税を再計算させる「総則6項」という伝家の宝刀が抜かれることがあります。
かつては明確な線引きがありませんでしたが、現在はルールが厳格化されています。
令和8年度(2026年度)の税制改正により、2027年(令和9年)1月1日以降の相続・贈与から、原則として亡くなる前5年以内に購入(または新築)した賃貸用不動産は、路線価ではなく取得価額の80%程度を基準に評価されることになります。
さらに、購入から5年以上が経過していても、極端な節税目的とみなされれば「総則6項」で否認されるリスクは残っています。
また、土地の評価額を最大8割減額できる小規模宅地等の特例についても、適用ルールが年々厳格化されています。
原則として、亡くなる前3年以内に駆け込みで取得したアパートの敷地などには、この強力な特例を使うことができません。
ただし、亡くなる3年以上前からすでにアパート経営を事業規模(いわゆる5棟10室基準など)で行っていた人は、例外として特例を使えるケースがあります。
亡くなる数年前というタイミングでの急な不動産対策は、税務署から否認されるリスクが極めて高いため、専門家と相談の上で慎重に進める必要があります。
土地や建物の評価において、税務調査で頻繁に指摘を受けるポイントがあります。
これは申告書の単純な計算ミスではなく、評価の解釈や判断基準を巡って税務署と納税者で意見が対立しやすい論点があるということです。
その代表例が、利用価値が著しく低いことを理由にして、土地の評価額を独自に減額しているケースです。
利用価値が著しく低いと認められた場合、原則として評価額を10%減額することができます。
利用価値が低い土地の減額に関する詳細な基準については、財産評価は税理士で激変!利用価値が低い土地は減額可能かも?の記事で解説しています。
なぜ意見がぶつかりやすいのかというと、減額を認めるための明確な数値基準が存在しないことが多いためです。
たとえば、以下のような悪条件を抱える土地は評価を下げられる可能性がありますが、客観的な基準値はありません。
近年では、土砂災害特別警戒区域のように、行政の指定があれば明確に減額できる新しいルールも整備されつつあります。
また、土地の形がいびつな場合は、国税庁が定めた共通ルールを用いて減額計算を行うことができます。
一方で、騒音や悪臭といった目に見えないマイナス要因は、過去の事例や現地の状況を踏まえて個別に判断せざるを得ません。
そのため、この程度の騒音では減額は認められないとする税務署と、少しでも評価を下げたい納税者側で真っ向から見解が対立しやすいのです。
明確な線引きがないからこそ、税務調査の際には調査官に現地の状況を徹底的に調べられることになります。

土地の相続税評価方法は、路線価方式や倍率方式だけに限られません。
詳しい評価の仕組みについては土地の相続税評価の基本!路線価・倍率方式と「時価」が有利になるケースを解説で解説しています。
原則は路線価などを用いて評価額を出しますが、大規模な災害や周辺開発計画の突然の中止など、土地を取り巻く環境が激変した場合は例外的な処理が認められます。
このような特殊なケースでは、不動産鑑定士に依頼して個別の時価評価を出してもらった方が、結果的に評価額が低くなることがあります。
しかし、不動産鑑定士が作成した評価額を用いて申告を行った場合、税務調査では非常に厳格なチェックを受けます。
国家資格を持つ専門家が作成した鑑定書であっても、その算定根拠が本当に客観的で妥当なものかを、調査官がゼロベースで慎重に審査するためです。
実は、土地評価に関する専門的な知識を完璧に網羅している税務調査官は、それほど多く存在しないと言われています。
その最大の理由は、調査官が多大な労力をかけて土地の評価額を見直し、修正申告を求めたとしても、最終的な税額に与える影響が小さいためです。
通常、相続税の申告書は税理士が土地の現地調査や役所調査を行った上で作成します。
複雑な土地の評価において、税理士と税務署の計算結果が1円単位まで完全に一致することは稀ですが、そこに生じる差額はごくわずかです。
土地の評価を根底から調べ直すには、税務署側にも膨大な時間と労力が必要になります。
調査官の視点からすれば、土地評価の些細なズレを追及することは、労力の割に徴収できる税金が少ない作業なのです。
そのため、特殊な減額要因や不動産鑑定を用いていない限り、土地の評価額そのものが税務調査で大きな論点になるケースは多くありません。
ただし、土地の評価額を大幅に減額できる小規模宅地等の特例の適用については全くの別問題です。
この特例を使うと相続税額が劇的に下がるため、適用要件を正確に満たしているかどうかが徹底的に調査されます。
なお、亡くなった方の自宅敷地などは最大8割の減額となりますが、アパートなどの貸付事業用として使っている土地は最大50%の減額にとどまります。
小規模宅地等の特例に関する詳しい適用要件については、小規模宅地等の特例は8割も評価減が可能な相続税対策の王様に記載しています。
短期間の一時的な空室であれば貸家建付地として認められるの記事でも解説していますが、賃貸アパートやマンションを相続した場合、空室の有無が税務調査における最大の論点となります。
対象の物件が満室であれば、アパートが建っている土地と建物の両方で評価額を大きく下げることが可能です。
しかし、物件内に空室があると、その空室の割合に応じて評価を下げられる割引幅が小さくなってしまいます。
もし全室が空室だった場合は、他人に貸しているという事実が認められず、評価減の恩恵はゼロになります。

ただし、相続が発生したタイミングでたまたま空室だったとしても、納税者を守るための救済措置が用意されています。
それが一時的な空室であり、退去後すぐに入居者を募集していたという客観的な事実があれば、満室時と同様に評価減が認められます。
実務上は、退去から次の入居まで1か月から数か月程度が「一時的な空室期間の妥当な目安」とされています。
物件の立地や条件によっては半年ほどの空室期間があっても、継続して募集を行い、家賃の値下げ交渉にも柔軟に応じる姿勢を見せていれば認められた事例もあります。
そのため、税務調査ではその空室が本当に一時的なものだったのかが厳しく問いただされます。
調査官に対して口頭で募集していましたと説明するだけでは、決して納得してもらうことはできません。
不動産仲介業者との媒介契約書、募集図面(マイソク)、インターネットの物件募集画面のコピーなど、継続して募集していた証拠を紙の資料として残しておくことが最強の対策です。
相続初心者の方が陥りやすい失敗例として、室内をリフォーム中だったから募集に出していなかったと言ってしまうケースがあります。
いつでも新しい入居者を迎え入れられる募集状態にしていなければ、一時的な空室として認められない可能性が高まるため十分な注意が必要です。
また、入居者を入れる気がないと見なされないよう、周辺の相場とかけ離れた高額な家賃で形だけ募集し続けるような行為もNGです。
値下げ交渉に応じるなど、本気で貸そうとしていた姿勢を示すことが重要になります。
そしてもう一つ、税務調査でターゲットにされやすいのが、アパートの敷地内に併設されている入居者専用の駐車場です。
入居者用の駐車場に空きが出たからといって、アパートの入居者ではない外部の第三者に安易に貸し出してしまうと、思わぬ税務リスクを抱えます。
外部の人間に貸し出してしまった駐車区画については、原則として貸家建付地としての評価減が適用できなくなってしまいます。
さらに、その外部貸しの区画部分は、評価額を半額にできる小規模宅地等の特例の対象からも外れてしまうリスクが生じます。
もちろん、1台でも外部に貸し出したら駐車場全体が特例の対象外になるわけではありません。
しかし、外部に貸し出した区画の面積割合だけ相続税の負担が重くなるリスクがあるため、単に空いているからといって外部に貸すのは要注意です。
また、単なる砂利敷きや土のままのいわゆる青空駐車場として外部に貸し出してしまうと、アスファルト舗装などの構築物がないため特例の対象にならないという厳格なルールに抵触します。
ロープで区画を割っただけ、あるいは簡易的な車止めを置いただけのような設備では構築物として認められないことが多いため、駐車場として特例を使うにはアスファルト舗装などが不可欠です。
この場合、評価額を半額にできる特例そのものが全く使えなくなってしまうため、駐車場の管理形態には併せて注意が必要です。