相続税の申告を各自で行う場合は、必ず内容を一致させる

相続税の申告のやり方には、相続人1人1人が別々に申告書を作成して提出する方法と、1通の申告書に全員で署名して提出する方法があります。

今回は、相続人1人1人が別々に申告書を作成し、かつ、一致するはずの申告する財産の総額が違う場合、どうなるか?について解説しています。

同じはずの金額が違うなら税務調査が来る確率が上がるのは当然

相続税の申告は、原則相続人単位で申告します。

例えば、故人Aさんの相続人が5名いて、その5名が各々(おのおの)財産を相続し、相続税が発生している場合には、原則それぞれが相続税の申告をします。

ただし、相続人ごとに申告するとしても、以下のような部分は共通のはずです。

  • 被相続人(誰の相続か?この場合はAさん)
  • 財産総額(Aさんの遺産総額)
  • 相続税総額(相続人全員の合計相続税額)

詳しくは相続税計算方法に記載していますが、以下の流れで各相続人の相続税が計算されます。

  1. 各相続人が相続する財産の課税価格を計算
  2. 1で計算した金額を合算
  3. 2で合算した金額を、各相続人が実際に相続した割合で案分

このように相続税の申告は、自分がもらった財産のみで税金計算をして、申告するわけではありません。

故人の全財産の把握(財産総額)をしてから、一旦相続税の総額を算出し、それから各自の財産の取得割合に応じて、税金計算をすることになります。

しかし、まれに相続人間で揉めている場合や仲が悪い場合、本来同じ金額になるはずの財産総額や相続税総額が異なってくる場合があります。

異なる財産総額で申告
異なる財産総額で申告
相続税の申告で、相続人ごとに財産総額や相続税総額が異なるということは、本来ならありません。

相続人〇〇さんとは会いたくないので、私は私で相続税の申告をします、といった場合、相続人ごとに別々の税理士を付けて申告することになります。

そして、土地が歪であったりすると、1円単位で完全に評価額が同じになるということはまずありません。

そうなると財産総額が異なってきて、結果、遺産分割そのものは同じ内容で申告したとしても、相続税が異なってきます。

また、

  • 相続人Aさんは、後の経営権等も考慮して名義株として申告したい
  • 相続人Bさんは、相続税を節税したいので名義株として申告したくない

といった場合、AさんBさんで名義株あり・なしでバラバラに申告する場合などもあります。

(なお、名義株についての詳しい内容は名義株も税務調査で問題になりやすいに記載しています。)

こうなると税務調査が来る確率は格段と高まります。

というより、むしろこちから税務調査に来てください、と言っているようなものです。

税務調査に来てください
税務調査に来てください
相続人ごとに異なる財産総額で申告することは、税務調査に来てくださいと言っているようなもの

そもそも同じであるべき(財産・相続税総額)ところの数字が違うので、税務署としてもどれが正しい申告なのか分かりません。

どんなに仲が悪くても、意見が割れていても、財産総額と相続税の総額までは一致させましょう。

なお、現時点の相続税の申告書用紙は、相続人全員が連名する形にはなっていますが、相続人1人ずつで申告することは可能です。

ただ、同じはずの金額が違うなら税務調査が来る確率が上がるのは当然とも言えます。

それぞれの相続人がバラバラに勝手に違う内容で申告をしたら税務調査が来る。そう思っておいたほうが賢明です。

相続人が各自で相続税の申告を行うのは危険?

相続人が各自で相続税の申告を行うのは危険?ということについて、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。

字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。

相続人が各自で相続税の申告を行うのは危険?

動画内容

相続税の申告のやり方には、相続人1人1人が別々に申告書を作成して提出する方法と、1通の申告書に全員で署名して提出する方法があります。

ただし、別々に申告する場合でも、申告書には相続人全員が、それぞれ何を相続したか、すべて記載する必要があります。

たとえば、相続人が長男と次男であれば、長男は長男で自分が相続した財産も、弟が相続した財産も書かなければなりません。

次男は次男で、自分と兄が相続した財産をすべて書いて申告します。

申告先は、いずれも亡くなった方の住所地を管轄する税務署となります。

税務署では、それぞれの相続人から、送られてきた申告書を1つずつ照らし合わせて、内容をチェックします。

さて、別々に申告書を作成する場合、通常は、内容をよく打ち合わせてから作成します。

そうしないと、財産の総額が兄と弟で違う、ということが起こってしまうからです。

相続の内容は同じなのですから、当然、申告する財産の総額も1円単位でぴったり一致するはずです。

ところが、相続人同士が不仲だと、そうはいきません。

それぞれが好き勝手に申告したり、別々の税理士に依頼して申告書を作成したりすることがあります。

いくら税理士に依頼しても、相続に関しては、財産の額がぴったり一致する、ということは、たいへん稀です。

特に、形がいびつな土地があると、評価額が1円単位で一致することは、まずありません。

もし、財産の総額が合わない申告書が作成された場合、それを税務署が見過ごすはずはありません。

税務調査がやってくる可能性は、当然高くなります。

打ち合わせをしないで申告するという行為は、むしろこっちから税務調査に来て下さい、と言っているようなものです。

相続税の申告書を、それぞれで提出するときは、必ず内容を一致させてください。

もし遺産分割の段階で揉めているときは、まずは遺産分割をしっかり調えましょう。

もし、遺産分割ができていなくても、その状態のまま、相続人全員で正しく申告することは可能です。

とりあえず申告期限が来る前に、自分だけでも申告しておこう、と考える方もいらっしゃるかも知れませんが、そのような時は、一度、税理士にご相談ください。