
相続税の節税ばかりに目が行き、「相続の手続き自体にどのような費用がかかるのか」を見落としている方は少なくありません。実は、相続には想像以上に多様な費用が発生します。たとえば、納税資金がなく「物納」を選んだのに、その物納手続きのために多額の費用がかかるケースもあります。こうした相続にかかる費用のうち、被相続人(亡くなった方)の生前に前払いすることで節税につながるものは、早めに支払いを済ませておくのが賢明です。ただし、生前に払っても節税効果がない費用もあるため、正しい知識で対策を進めましょう。
相続が発生すると、主に以下のような費用がかかります。
※注意点として、これら死後に発生する費用のうち、相続税の計算で遺産総額から差し引ける(債務控除できる)のは「葬式費用」のみです。生前の借金などとは異なり、「香典返し」や四十九日などの「祭祀の費用」は遺産から差し引くことができないため、負担に感じるご遺族も少なくありません。
さらに、相続税の申告が必要な場合や不動産を所有している場合、あるいは遺産分割協議で揉めてしまった場合などには、次のような費用もかかってきます。
※2024年4月1日より相続登記が義務化されたため、不動産をお持ちの場合は登記費用は原則として発生する費用となりました。正当な理由なく3年以内に登記を行わないと10万円以下の過料(罰則)の対象となるため、早めの対応と費用の準備が必要です。
相続税を現金で納められない場合の救済措置として、「物納制度」というものがあります。
物納制度についての詳しい内容は相続税の物納制度の利用は簡単ではない!その仕組みや手続き方法に記載しています。
一見便利な制度ですが、実は物納するためには事前の準備費用がかかるケースがほとんどです。代表的なものが土地の測量費用です。
土地を物納するには、境界が確定された正確な測量図が必須となります(測量済みでない土地は物納不可です)。
土地の広さや隣接地の状況によって費用は変動しますが、安く見積もっても数十万円〜場合によっては200万円以上の出費になることが一般的です。
さらに、隣人との境界立ち会いなどが必要になるため、数か月から半年以上の期間がかかることも珍しくありません。
相続発生後(申告期限の10か月以内)に慌てて測量を始めると物納の手続きに間に合わないリスクがあるため、費用だけでなく時間的な意味でも生前に進めておくのが確実です。
お伝えしたように、納税資金に困って物納を選ぶ場合でも高額な出費が生じます。また、
などは、費用として相続財産から差し引くこと(債務控除)ができません。つまり、全額が相続人の自己負担となってしまうのです。
しかし、もし被相続人(故人)が生前にお墓や仏壇を購入して支払いを済ませていれば、その分だけ被相続人の現預金が減少します。現預金が減るということは、そのまま相続財産の減少、ひいては相続税の節税に直結します。
ただし注意点として、お墓や仏壇をローン(分割払い)で購入し、支払いが残ったまま亡くなってしまうと、その残りの借金は相続財産から債務控除することができません。節税のためには、生前に現金などで支払いを済ませておくことが大切です。
また、純金製の高価な仏具や骨董品的な価値があるものなどは、税務署から「信仰の対象ではなく投資・資産保有目的」とみなされ、非課税財産として認められず相続税がかかってしまうケースがあります。購入費用は常識的な範囲にとどめましょう。
■ お葬式代の「生前払い」は節税にならないので注意
「お墓が節税になるなら、お葬式費用も生前に前払い(生前契約)しておけば現預金が減って節税になるのでは?」と考える方がいらっしゃいますが、これは要注意です。
葬儀費用を生前に前払いしても、税務上は葬儀社への「前払金(預け金)」という財産として扱われ、結局は相続税の対象に含まれてしまいます。お葬式代については、生前に払っても死後に払っても節税効果は変わらないと覚えておきましょう。
とはいえ、亡くなった直後は故人の銀行口座が凍結されて現金が引き出せなくなることが多々あります。税金面での節税効果はありませんが、生前に葬儀費用を準備・支払いしておくことは、ご遺族の急な資金繰りの負担を減らすという大きな実務的メリットがあります。
また、生前の相続対策の相談料や、専門家への依頼費用を被相続人自身が支払うことも有効です。被相続人の財布から支払われれば現預金が減りますが、亡くなった後に相続人が相談に駆け込めば、すべて相続人の自己負担になってしまいます。

生前に対策を行うメリットは他にもあります。たとえば、事前のシミュレーションで「相続税を払うために土地の物納が必要になりそうだ」と判明したとします。
このとき、生前のうちに被相続人の現預金を使って土地の測量を済ませておけば、次のような一石二鳥の効果が得られます。
相続税対策を被相続人の生前に行うことで、このような大きなメリットを生み出すことができます。
加えて、将来の遺産分割で揉めることを防ぐために、生前から弁護士や公証人に依頼して遺言書を作成してもらい、その費用を被相続人が負担することも立派な財産減少(相続税対策)になります。
さらに、相続予定の財産に古い家屋があり、近い将来に修繕が必要だと分かっている場合は、被相続人が元気なうちに費用を負担して修繕しておくことをおすすめします。これも現預金を減らす有効な手段です。
※ただし、建物の固定資産税評価額が上がってしまうような大規模な増改築(リノベーションなど)を行うと、かえって相続税が高くなる恐れがあります。あくまで屋根の修理や外壁塗装など、必要な「修繕」にとどめるのが節税のポイントです。
このように、将来発生するであろう費用を「生前のうちに被相続人が負担しておく」という発想を持つだけで、大きな節税効果を生み出します。

「そろそろ相続について考えないといけないな…」と感じたら、一日も早く対策に動き出しましょう。
相続税対策を始めること自体が、残されるご家族への思いやりであり、確実な相続税の節税につながります。