家賃の未収かどうかは支払日で判断
未収家賃が相続財産であるかどうかは、相続開始の日(被相続人の死亡時)における、家賃等の収受権の帰属が誰であるかを基準にして判断します。
たとえ未収家賃でも、相続税対策などの理由により、既にその収受権の帰属が第三者であれば、相続財産にはなりません。
そして、未収かどうかを判定する日は、契約等によって支払日が定められている場合は、その支払日になります。(仮に契約等によって支払日が定められていない場合は、今までの毎月の家賃の入金時期などで判断します。)
なお、相続開始時点において、その支払日が到来していないものは相続財産にはなりません。
たとえ既経過分の家賃相当額があったとしても、未収家賃として計上する必要はありません。
例えば被相続人の死亡日が3月15日で、月末の3月31日に3月分の家賃を支払う場合、3/1~3/15日分の家賃を按分して、相続財産に計上する必要がないということです。
逆に3月1日に3月分の家賃を支払う場合、3月16日~3月31日の家賃を按分して、相続財産から控除することも出来ません。
あくまでも、支払日ベースで判断します。
そして、通常は賃貸契約等がありますので、その契約書で支払日を確認します。
また、契約書を確認する際には、敷金など債務控除できるものも一緒に確認しましょう。
遺言書でモレやすい未収家賃等
この未収家賃の取り扱いは、遺言書に記載モレやすい事項です。
また、未収家賃以外に、付帯設備(減価償却資産)や備品等も遺言書でモレやすい財産です。
被相続人の観点から見れば、以下のような不動産に関連するものは、不動産を相続する相続人が、当たり前に一緒に相続するものと思うかもしれません。
- 備品
- 敷金
- 未収家賃
- 付帯設備
- 火災保険など保険の権利
ただ、遺産分割で揉める原因にもなり得ますので、不動産に関する全てを〇〇へ相続させたい場合は、
△△不動産に関するすべての債権債務(損害保険契約上の権利を含む)、及び付帯設備等一切を〇〇に相続させる
などと記載しましょう。
遺言書を書くときには、建物だけでなく、未収家賃なども相続財産になるということは認識しておきましょう。
動画で解説
未収家賃と相続の関係について、税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴出来ます。
動画内容
未収家賃とは、まだ回収できていない家賃のことで、大家さんの死亡後、帳簿や賃貸契約書から判明することがあります。
亡くなられた人、いわゆる被相続人の方がアパートやマンションなどの貸物件の大家さんであった場合、この未収家賃は相続財産となります。
たとえば10万円の未収家賃があれば、相続人は「10万円を入居者からもらう権利」を相続することとなります。
ただし、いつの分の家賃までが相続税の対象になるかは注意しないといけません。
相続税の対象になるのは、大家さんが亡くなった日までに家賃の支払い期限が来ているものだけです。
言い換えると、大家さんが亡くなった日が支払い日の前か後かで、相続財産になったり・ならなかったりするということになります。
相続財産にならなかったものはアパートを相続した人の財産となります。
それではここで具体例を考えてみましょう。
家賃の支払い日が「その月の月末まで」という契約で2月分と3月分の家賃が滞納されており、大家さんが3月15日に亡くなったとします。
この場合、相続財産になるのは2月分の未収家賃です。
大家さんが亡くなったとき、支払い日が到来しているのは2月分だけだからです。
ところで簿記や会計をよく知っている方であれば、「その場合は3月1日から亡くなった15日までの分だけ相続財産になるのでは?」と思われるかも知れません。
経過日数を日割りで計算しないといけないのではないか、ということです。
しかし、相続税の計算では亡くなった日の日割り計算までは行いません。
亡くなったときに支払い日が来ているかどうか、これだけで判断をしてください。
以上のことからわかるとおり、大家さんの相続では家賃の支払い日の確認が重要です。
支払い日は、まずは賃貸契約書で確認をしてください。
賃貸契約書は通常、貸す側と借りる側の双方で保管しますので、大家さんも1通保管していると思います。
もし賃貸契約書を見ても家賃の支払い日が決められていなければ、それまでの毎月の家賃の入金時期などから判定することになります。
このあたりは帳簿を見るとよいですが、よくわからないときは税理士に相談するとスムーズです。
最後に大家さん自身が相続対策をこれからしたいという場合に、ぜひ知っていただきたいことがあります。
もし賃貸物件を相続させる相手を遺言書で指定したいという場合は、その書き方に注意をしてください。
たとえば「◯◯不動産を長男に相続させる」という内容だけですと、未収家賃や敷金、備品、アパートに付いている設備、火災保険の権利などといった不動産以外のものを誰がもらうかでもめることがあります。
このようなことにならないよう「◯◯不動産に関するすべての債権債務及び付帯設備等一切を長男に相続させる」のように書いて、相続人がもめないようにしましょう。
債権債務のところには、かっこ書きで「損害保険契約上の権利を含む」と書いておくとよいでしょう。