
相続財産に金地金(きんじがね)が含まれている場合、その評価額は被相続人(亡くなった方)が死亡した日の「業者買取価格(税込)」を基準に計算します。1グラムあたりの税込買取価格に重量を掛けることで求められるため、正確な金額を把握するには購入元などの貴金属業者に直接問い合わせるのが確実です。金地金は遺産分割がしやすいといったメリットがある一方で、直接的な相続税の節税にはなりにくいため、資産運用としての取り扱いには注意が必要です。
金地金(インゴット)には多くの場合、製造元や販売元である貴金属業者の刻印が打たれています。自宅の金庫で保管しているだけでなく、業者に預けていたり純金積立を行っていたりなど、持ち方は人それぞれです。
こうした金地金の相続税評価額を調べる際は、刻印のある業者や取引先の業者へ直接問い合わせるのが最も手っ取り早く確実な方法となります。
計算の基準となるのは「亡くなった日の1グラムあたりの税込買取価格」です。この金額に重量を掛けるだけで、評価額を簡単に算出できます。
※被相続人が亡くなった日が土日祝日などで、買取価格が公表されていない休業日だった場合は、最も近い日(休業日の前日や翌日)の価格を採用します。ただし、土曜日に亡くなり、直近の営業日である金曜日と月曜日にそれぞれ価格公表があるなど、前後の日数が同じ場合は、その2日間の「平均額」で計算します。

「現金を金地金に換えておけば、相続税が安くなるのでは?」と考える方もいますが、金地金には常に価格変動リスクがあるため、確実な節税手段にはなりにくいのが現実です。
また、相続税には「日常礼拝をしているお墓や仏壇は非課税財産になる」というルールがあります(詳細はお墓や仏壇の生前購入で相続税対策するメリットや注意点をご参照ください)。
このルールを利用して「純金製の仏具を作って財産を減らし、相続後に売却して換金しよう」と考えるのは大変危険です。換金性の高すぎる仏具は、税務署から「投資や節税目的」とみなされ、非課税と認められずに課税されるケースが多々あります。売却して大金が動けば、銀行口座の履歴から税務署に把握されるのは時間の問題です。

仏具ではなく「金の延べ棒(インゴット)」や「金貨」であれば、税務署の目はさらに厳しくなります。お客様から200万円を超える金額で金地金を買い取った場合、貴金属業者は税務署へ「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を提出する義務があります。
この書類には原則としてお客様の「マイナンバー(個人番号)」が記載されるため、「誰がいくら換金したか」は税務署に筒抜けとなります。
「200万円以下に小分けにして売ればバレないだろう」と思うかもしれませんが、税務署は過去の預金引き出し履歴などから「この時期に金を買っているはずだ」と目星をつけて調査に入ります。隠し通すことは実質的に不可能です。

高価な金地金を隠す行為は、節税ではなく単なる「脱税」です。重加算税などの重いペナルティが課されるため絶対にやめましょう。
前述の通り、金地金自体に相続税を減らす効果はあまりありませんが、資産運用や「遺産分割(遺産を分けること)」の面では独自のメリットがあります。
例えば不動産の場合、所有しているだけで毎年「固定資産税」がかかり、管理の手間もかかります。しかし、金地金は持っているだけで税金がかかることはありません。

また、金地金はグラム単位で物理的に分けやすいのも特徴です。「誰が実家を継ぐか」で揉めやすい不動産と違い、複数の相続人へ平等に分けやすい点は大きな魅力です(※ただし、1kgのインゴットなどを小さなバーに分割加工する場合、十数万円程度の手数料がかかる点には注意が必要です)。
一方で、気をつけなければならないのが「売却時の税金」です。相続した金地金を後で売却して利益が出た場合、相続税とは別に「所得税(譲渡所得)」がかかる可能性があります。親が安く買った時の取得価格を引き継いで計算するため、近年の金価格高騰により、思わぬ高額な所得税が発生するケースが増えています。
【メリット:50万円の控除と5年超の保有】
金地金の売却益には、まず年間50万円の特別控除が用意されています。そのため、利益が50万円以内に収まれば所得税はかかりません。(※この50万円の枠は、ゴルフ会員権や絵画など他の総合課税の譲渡所得と合算されます。)
さらに、相続した金地金は「親が所有していた期間」も引き継ぎます。親が購入してから売却するまでの期間が「5年」を超えている場合は長期譲渡所得となり、50万円の特別控除を差し引いて、なお残った利益がさらに「半分」になるという大きな税制優遇が受けられます。
また、相続開始の翌日から3年10か月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を「取得費」に上乗せして税負担を軽くできる「取得費加算の特例」が使えるケースもあります。
【注意点:購入価格が分からない場合】
親が昔買った金地金で「当時の購入価格が分かる書類(計算書など)」が残っていない場合は要注意です。この場合、売却額の「たった5%」を購入価格(取得費)として税金計算しなければならず、利益が膨大になって税金が極めて高額になる恐れがあります。生前に、購入時の書類の保管場所を必ず聞いておきましょう。
ただし、計算書がなくても、当時の預金通帳の引き出し履歴などから購入時期と金額が証明できれば、当時の価格を購入価格として認められるケースもあります。
書類が見当たらない場合でも、諦めずに過去の通帳などを探してみましょう。
【要注意:社会保険料や扶養への影響】
金地金を売却して大きな利益が出た際、盲点になりやすいのが社会保険料への影響です。所得税や住民税が高くなるだけでなく、「専業主婦が夫の扶養から外れてしまった」「年金暮らしの親の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料が、翌年一気に高額になった」といったトラブルが実務上よく発生します。まとめて売却する際は、翌年の社会保険料の負担増も考慮しておく必要があります。
金地金は目先の節税目的ではなく、「遺産をスムーズに分けるための準備」や「資産の分散」といった目的で賢く活用することをおすすめします。
金地金は、相続税の申告において「申告漏れ(財産として申告するのを忘れてしまうこと)」が非常に多い財産の一つです。
故人が生前に趣味や投資としてこっそり購入しており、残された家族がその存在をまったく知らなかったり、昔の話すぎてすっかり忘れてしまったりするケースが、税務調査の現場では頻発しています。

後から申告漏れが発覚すると、本来払うべき税金に加えて「過少申告加算税」などのペナルティがかかってしまいます。もしご自身で金地金を購入したり、純金積立を始めたりした場合は、必ずご家族に「金を持っていること」「どこで保管・取引しているか」を伝えておくようにしてください。
税理士法人・都心綜合会計事務所の税理士・田中順子が、金地金の相続税評価方法について動画で解説しています。
字幕が付いておりますので、音を出さなくてもご視聴いただけます。
動画内容
金地金の評価方法は、被相続人が亡くなった日の業者買取価格とされており、公表されている1グラムあたりの金額に質量を掛けた金額が相続税評価額となります。
金地金は資産運用や遺産分割の際にメリットがあります。
例えば金地金と同額の不動産を所持している場合、不動産には固定資産税がかかります。
しかし、金地金は所有しているだけでは税金はかかりません。
また、小分けにすることで遺産分割しやすい、ということが挙げられます。
ただし、価格の変動リスクがありますので、相続対策にはなりづらいといえるでしょう。
ご注意いただきたい点は、金地金は相続税申告の際に申告漏れが多いとされていることです。これは、
といったことが主な原因となっているようです。
こういったケースを防ぐため、金地金を所有されている方は、その旨をご家族に伝えておいた方がよいと思われます。