
土地や建物を死亡退職金として現物支給することは可能です。また、現物支給の金額は、会社が計上した額ではなく、被相続人の死亡日における「相続税評価額」で計算されます。
死亡退職金とは、亡くなった方の代わりに遺族が受け取る退職金のことです。
生前に本人が受け取る通常の退職金とは異なり、相続人が受取人になります。
(詳しくは、死亡退職金は生前の退職金より相続税では有利に記載しています。)
退職金といえば現金での支払いが一般的ですが、会社が所有する資産を直接渡す「現物支給」が行われるケースもまれにあります。
すでに本人が亡くなっているのに、現物支給ができるのかと疑問に思うかもしれませんが、結論から言うと可能です。
会社の資金繰りの問題や、経営方針の転換などを理由に、現物での支給を選択する会社は少なからず存在します。
たとえば、亡くなった前社長が力を入れていたカラオケ事業から撤退し、その店舗建物を遺族に退職金として渡すようなケースです。
遺族側がその事業を引き継ぎたいと考えている場合などは、株主総会や取締役会の決議を経ることで、建物を現物支給することができます。
死亡退職金を不動産で支給した場合、その金額は会社が経費として計上した額ではなく、「相続税評価額」として扱われます。
具体的には、亡くなった日(相続開始日)の路線価や固定資産税評価額をもとに計算された金額のことです。
現金で支給された場合はその金額がそのまま評価額になりますが、現物支給の場合は相続税のルールで計算し直した評価額となります。
そのため、「会社の帳簿上の退職金額=相続税評価額」にはならない点に注意が必要です。
※ただし、居住用マンションなどを現物支給する場合は、近年のルール改正により通常の路線価ではなく「市場価格」に近い金額で評価されるケースがあるためご注意ください。
もちろん、現物支給であっても「500万円×法定相続人の数」という死亡退職金の非課税枠は使えます。
現物の相続税評価額からこの非課税枠を差し引けるため、相続税対策としても有効な手段です。
ここで実務上もっとも気をつけなければならないのが「株主総会での決議の順番」です。
たとえば、先に株主総会で「退職金5,000万円を支給する」と金額だけを確定させたとします。
そのあとに「会社に現金がないから、代わりに不動産で支払う」という手続きをすると、税務上は「代物弁済」という扱いになってしまいます。
この場合、遺族は不動産ではなく「会社から現金5,000万円をもらう権利」を受け取った扱いになります。
結果として低い相続税評価額の恩恵は受けられず、5,000万円そのものに対して相続税がかかってしまうのです。
現物支給による節税メリットを受けるためには、最初から株主総会で「退職金として〇〇の不動産を現物で支給する」と決議しなければなりません。
この手順を間違えると取り返しがつかないため、十分にご注意ください。
現物支給は会社の現金を手元に残せるメリットがある反面、税務上の落とし穴も複数あります。
まず、会社所有の不動産を退職金として渡す際、その不動産に含み益がある場合、税務上は「不動産を売却して退職金を払った」とみなされます。
そのため、含み益が会社の利益として計上されてしまい、現金で退職金を支払う場合と比べて法人税の節税効果が薄れてしまう点に気をつけてください。
反対に含み損がある場合は、会社の損失(損金)として計上できるケースもあります。
※ただし、退職金の額が高額すぎると税務署から否認されるリスクもあるため、適正な金額設定が必要です。
また、建物の引き渡しをおこなうと、含み益の有無に関わらず会社側に消費税が発生する点にも気をつけてください。
さらに重要なのが、受け取るご遺族側にかかる税金です。
通常の相続で不動産を引き継ぐ場合、不動産取得税はかかりません。
しかし、退職金としての現物支給は「亡くなった方からの相続」ではなく「会社からの所有権移転」という扱いになります。
そのため、例外的に不動産取得税や登録免許税といった税金が別途発生してしまいます。
一方で、受け取った死亡退職金は相続税の対象となるため、原則としてご遺族に別途「所得税」がかかることはありません。(※ただし、亡くなってから3年以内に支給額が確定した場合に限ります。3年超で確定した場合は、相続税ではなく遺族の一時所得として所得税の対象になります。)
このように、現物支給には通常の相続とは異なる様々な税金が絡んできます。
実行に移す前には、必ず税理士などの専門家にシミュレーションをご依頼ください。